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異世界貴族の暗躍無双~生まれ変わった史上最強の暗殺者、スローライフを諦める~  作者: 俺2号/結城 涼
五章―七国会談―

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朝から昼まで慌ただしい。

 翌朝、アリスはパジャマ姿で俺の部屋にやってくると、二度寝します! と妙に意気揚々と言い残して自室に戻って行った。意味が分からなかった。首根っこを掴んでシャワーまで運び、身支度が終わるまで扉を開けないでいることも考えた。

 堂々とサボり宣言をした駄猫を前に、我ながら行動が早いと感心したものだ。



 でも、それは中止となった。



 思い出すのは先週のこと。

 定期的に学園へ仕事をしに行っていた俺は、ジルさんの秘書的な女性から聞いていた。近いうちに、夏休みが始まるということを。



「――――でも、意外に通学してる人も居るじゃん」



 道行く人の中に散見されるシエスタ魔法学園の生徒の姿は、決して見間違いではなかった。



「やぁ、若者!」



 唐突に背後から話しかけられ、背中がドンッ! と強く叩かれた。



「…………」


「なんだいその顔はッ! まるで私の行いが不満なようじゃないか!」


「さすが学園長殿(ジルさん)ですね。正解です」


「ふふん、そうだろう? 昔から人の機微には鋭くてね」


「ちなみに褒めていないこともお分かりいただけていますか?」


「勿論だとも! だからどうしたって思っているが、若者はどう思うかね?」


「真面目に相手をしたら面倒そうなのでこの辺にしときます」



 俺がため息交じりに言うと、緑髪の佳人こと、ジルヴェスター・エカテリウス侯爵は高笑いをして隣を歩きはじめた。

 これがあの名門、シエスタ魔法学園の学園長とは今でも信じられない。

 信じられるのは実力だけといったところか。



「私の勝ちだな」


「俺が勝ってたところで何も得られてなそうですね…………」


「ジルヴェスターに勝ったと誇ればいい。自分で言うのもなんだが、その実績だけで遊んで暮らせるのだがね」



 あくまでも魔法を使っての戦いの場合だろうが。



「それにしても、珍しいですね」


「何がかね?」


「ジルさんが朝から学園に向かっていることが、ですよ」


「滅多なことをいうもんじゃないよ。私は毎朝早くからこうして闊歩して、愛する学園に向かっているとも。そうとも! その後ですぐに外出しているだけさ!」



 彼女は豊かな胸元を張って勝ち誇っている。

 どうしてこれほどポジティブなのか良く分からない。



「学生さんたちがこんなに歩いてるんですから、ジルさんも学園で仕事をしてみてはどうでしょうか」


「――――やれやれ」



 どうしてか、肩をすくめて嘲笑された。



「若者はまだ若いね。本当に若者じゃないか」


「そっすね」


「いいかね? 今は夏休みだよ? どうして私が学園で仕事をしないとならないのかね?」


「教員だからじゃないですかね」


「はぁ…………これだよ。では話を変えよう。学生諸君はどうして夏休みだというのに、学園という場所に向かっていると思う? ――――そう、夏期講習のためさ!」


「ああ、道理で」


「しかし、私に夏期講習は必要なかろう! 学園の蔵書はすべて暗記しているし、なんだったら、帝都大図書館にある蔵書もすべて暗記しているのだから!」



 その帝都大図書館とやらに行ったことはないけど、学園にある図書館の蔵書は中々のものだ。今では俺もたまに足を運ばせていただいているが、蔵書量は百万冊に僅かに満たないぐらいはあるときいたことがある。それらを暗記しているとか、単純に化け物としか思えない。



 しかし。



「ジルさんが仕事をしないのとは関係ないですね」


「――――そこに気が付くとは」


「いや、気が付かない方が無理です」


「ふむ…………取りあえず、この話は棚上げとしよう。実は私も今日は、夏休みを取っている教員の代わりに授業をしに行くんだよ」



 今までの問答はなんだったんだよ。

 無駄に疲れただけじゃないか。



「しかし気が付くのが早かった若者には褒美を与えようか」


「これからは常に学園長室に居てくれるんですか? 署名が必要な時にいつもいないので困ってたんですよ」


「人間、無理なことはいくらでもある」


「…………」


「おっと、お前は妖精族(エレメンタル)のハーフだろ、というツッコミはなしだよ」



 いったい、何のことを言ってるんだ。

 俺は歩きながらも腕を組み、小首を傾げて考え込む。

 うん。やはり聞いたことがない。初耳だ。



「妖精族については知ってます。学園の本にも異人として記載がありましたし」



 異人というとあれだ。

 俺がこの町に来てすぐに見かけたトカゲのような容姿の人だったり、犬や猫のような姿をした、純粋な人間ではない者たちのことだ。



「ま、別に大したものじゃないさ。魔法の扱いが得意なことに加え、寿命が数百年もあって、子供を産むときは数年がかりの種もあるってだけのことでね」




 十分色々とすごいというツッコミはしない。面倒だから。



「種っていうのはなんです?」


「ああ、妖精族っていうのはいくつかの種の総称なのだよ。エルフやピクシー、リャナンシーやドライアドのような異人たちをひとくくりにした呼び名さ」


「勉強になりました」


「構わないよ。というわけで私は帰ろうかな。一つ授業をしたから十分だろうし」



 俺は無遠慮にジルさんのマントを掴み、反対側に歩き出したところで制止させた。



「冗談だよ」


「ほんとですか? 足元に力が入って震えてますけど」


「仕様さ」



 呆れながら手を放してみると、もう諦めてくれていたらしく黙って歩き出しはじめてくれた。朝から疲れてしょうがない。



「で、ご褒美の件に戻るが、昼過ぎに私の部屋に来なさい」


「…………」


「なんだね、その懐疑心に占領された瞳は」


「仕事嫌いのジルさんが急に自分の部屋に来いっていうのは、警戒せざるを得ません。褒美がどうのとか関係なしに」


「私に強引に捕まえられて学園長室にくるのと、自分の足で学園長室の来るのだったら、どちらが好ましいかね?」



 強制的に移動させられるのは困る。主に目立ってしまうから好きじゃない。

 でも、このジルヴェスター女史にはそれができるんだ。

 俺のことを、自慢の魔法でいかようにでも料理することが出来るだろう。父上もこの人の凄さは何度も教えてくれているし、アンガルダに行く前の議事堂での貴族たちの反応を見れば、ジルさんの凄さに気が付かないはずがなかった。



「自分で行きます」



 だから俺は、こう答えることが最善だと判断したのである。





 ――――俺が学園でしている仕事を簡単に言えば、父上の代理として出来る内容に限られる。

 でも、慣れてきた今はそれなりに複雑な仕事を任されているし、いわゆる大人の貴族がするような執務だって任されていた。



 慣れないうちは簡単な仕事も大変だったが、今は紅茶を片手に出来るぐらいの余裕はあった。



「そろそろか」



 ――――時計の針が十二時を指して鐘がなる。



 もうこんな時間か。

 ジルさんは昼過ぎに来るようにって言っていたから、そろそろ行かないと。今日の分の仕事が一段落したからちょうど良かった。



 そう言えば、昼ご飯を一緒に持ってくるようにって言ってたっけ。

 朝、別れ際にジルさんが言っていたことを思い出す。。

 学食のメニューならなんでもいいが、今日は軽めのもので、だけど香辛料が利いて目が覚めるようなもの。だけど、しょっぱいものは嫌だから、なるべくあっさりしていてほしい――――と。

 何でもじゃないじゃねえか。



 取りあえず、承った手前頑張って選ぼう。

 部屋を出て学園の廊下を歩きながら考えてみる。しかし、意気込んで間もないというのにジルさんの好みが分からない。いつも頼んでいるように気軽に言われたが、一緒に食事をしたことだってないのだ。



 結局、俺は好みではない食事を選ばぬよう、学食の者に尋ねることにした。

 これが正解で、ジルさんが好む食事をまとめてくれたので助かった。



 その後、向かったのは強引に予定されてしまった学園長室へ。

 俺はノックをしてすぐ、ジルさんの返事を聞いて足を踏み入れた。

 中には学園長と、何やら忙しなく動いている補佐官さんが居た。



「悪いんだが、急用で帝都に行かなきゃいけなくなってね」



 それはいい。



「…………隠すことなく笑ったね。若者」


「とんでもありません」


「仕方ない。今回は見逃してあげよう。私は寛大だと評判なんだ」



 彼女はそう言うと、役者気取りに大げさにマントを翻して立ち上がった。その足で俺のとなりまでやってくると、マントの内側から一本の剣を取り出す。



「受け取り給え。若者にあげるよ」



 また急にあげるよと言われても。

 恐らくこれが褒美とやらなんだろうが、あんなしょうもないことの褒美に剣を貰っても困る。一見するとそれなりに高価そうな鞘に収まっているし、猶更だ。



「遠慮しなくていい。これはアルバート君に頼まれて用意していた物だからね。いわゆる、魔力を帯びた剣さ(、、、、、、、、)


「あれ…………褒美は…………?」


「褒美は私と昼食をとることさ。どうかね、嬉しいだろう?」


「この剣は遠慮なくいただきますね」


「おっと! 急にあっさりするじゃないか!」



 元より父上が頼んでいたのなら遠慮はいらない。最初に誤解した俺が悪いと言えば悪いんだけど、拍子抜けして、つい。



「おかしいなぁ…………国内外の貴族って、私を見ると大抵は硬直するか遠慮がちな態度でいるかのどちらかなんだが」


「初対面で魔法を放った人に遠慮しても」


「ふむ」


「それと、再開して開口一番、私を母と思って慕い給えって言ってたじゃないですか。俺だってさすがに気が引けてたのに、敬意をもって接してたら、必要な署名をくれなくなりましたし」


「堅苦しくて気に入らなくてね。どれ、約束を守った若者には褒美に飴ちゃんでも――――」


「学園長。そろそろ参りますよ!」


「――――飴ちゃんをあげるから、また話そうじゃないか。昼ご飯、ありがたく頂戴していくよ」



 すると、ジルさんは補佐官さんに連れられて学園長室を後にしていく。

 その姿は出荷されていく家畜のように切なげなのに、補佐官さんの、世間に揉まれた熟練のOL感と相まって妙に緩い。

 一人残された俺は、自分の分の昼食が入った紙袋を見て。



「帰ろ」



 数分後にそう呟いた俺は、校舎を出てもなお引きずられていくジルさんを見て、筆舌に尽くしがたい満足感を覚えたのであった。




次回更新は週明けを予定しています。

今日もアクセスありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 定期的な学園に仕事をしに行っていた俺は、    ↓ 定期的な仕事のため学園に行っていた俺は、
[気になる点] 下から3行目  数分後にそう呟いた俺は、後者を出てもなお引きずられていくジルさんを見て、筆舌に尽くしがたい満足感を覚えたのであった。 の 「後者」は「校舎」の間違いでは?単なる変換…
[一言] いつも更新ありがとうございます。
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