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異世界貴族の暗躍無双~生まれ変わった史上最強の暗殺者、スローライフを諦める~  作者: 俺2号/結城 涼
四章―隣国ケイオスにて―

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今日で最後って、何度考えたことだろう。

 明けましておめでとうございます。

 旧年中は多くのアクセス、応援をいただきましてありがとうございました。本年も引き続き『暗躍無双』に加え『魔石グルメ』だけでなく、また、新たな新作にも挑戦できればと考えております。


 2021年もどうぞよろしくお願いいたします!



 自分でも無理を言った自覚はあった。

 でも、他に頼れる要素が欠けていたし、思いつかなかったからの発言だった。

 ……当然、クリストフは「無理です」と即答した。



(分かってるんだ……でも……)



 夜が明けて、朝になり。

 昨夜のことを思い返していた俺は窓の外に広がる景色を眺め、やがて、大時計台を睥睨してから肩をすくめる。



 ――――たとえば、暗殺。

 カールハイツを暗殺するべき、という結論。

 障害となるのは彼の力そのものであり、数えきれない暗殺を成し遂げた俺にも荷が重い気がしてならなかった。

 まず、時間が飛ばされる時点で同じ土俵には上がれない。

 となると、暗殺するにしても何か道具が必要となるのは当然だ。

 それが、エルメルという魔法だった。



 別に、暗殺しなきゃって話ではないのだが……。

 ってか、考えてみるとあんまり俺は動かない方がいいんじゃないか?



「今の俺って、容疑者みたいなもんじゃん」



 実は容疑者そのものなのだが、言い切りたくない精神的な問題である。

 それを思えば静かにして、何もしない方がいい。

 逆に足手纏いを演じた方が好都合だし、何かと好ましい結果を迎えられそうだ。



 いやー……そうはいっても、アンガルダから出られないというのもどうなんだ? 現状、下手をこいて俺はおろか、クリストフごと命を落とす可能性も無きにしも非ず。時堕がアイツらと呼ぶ存在が隠れているとも限らない中、時堕を相手に苦労している現状では、手段を選んでいる場合でもない気がするわけだ。



「クリストフと取引を……いやいやいや、俺が暗殺者って自分で認めるようなもんだし……」



 俺にとって最善の結果は決まっている。

 クリストフが一人で時堕を止めることに他ならない。

 だが、時堕の空間内ではそれも容易ではないのだ。



 …………もう少し様子を見るべきか?

 …………それとも、やっぱり無能を演じるとか。



 駄目だ。どちらにせよ今更過ぎる。



 すると――――。

 俺が悩んでいたところへ。



『グレン少年、入ってもよろしいですか?』



 俺の部屋にやって来たクリストフがノックの後で声を発したのだ。



「どうぞ」


「失礼します。昨晩の件で話があってまいりました」


「……俺には無理って話だったんじゃ」


「普通であれば不可能です。私が長い月日をかけて完成させたエルメルを、たかが一日や二日で会得することは難しいでしょう」



 だったら、何の話だろう。

 小首を傾げていた俺に近づいたクリストフ。



「ですので、昨晩の件というのは、時堕が弱まった時間帯を狙うという話です」


「あ、ああ……そっちのことでしたか」


「私の魔法なら帝都に帰ったら(、、、、、、、)お教えしますから(、、、、、、、、)、しばらく我慢なさい」


「逆に帝都に帰ったからって教えていいんですか? 自分で言うのもなんですが、俺って容疑者ですよ?」


「ん? ――――ああいえ、あれは大して重要な話(、、、、、、、、、、)ではありませんから(、、、、、、、、、)



 重要ではない、とは随分と不思議なことを言う。

 俺がクリストフとアンガルダまで来たのは、容疑が掛けられているから、調査を共にすることで俺を見極めたい――――という話が発端だ。

 こんな調査で見極められるのかという疑問は残るが、ほぼ拒否権はなかった。

 そのため、俺は行きますと即答したのに。



(俺が知らない別の目的があるとでも――――)



 俺が関係する目的で、しかし、俺が容疑者であるか否かは重要ではない問題……考えれば考えるほど、答えが遠のいたような気がした。



「さて、話を戻します」



 失言だった、こう言わんばかりにクリストフがすぐに居住まいを正した。

 疑念を晴らすために尋ねても答えは届かないだろう。最近の疲れによってか、偶然、言うつもりではなかった言葉がでてしまったようだし。



「今宵、私が時堕を止めて参ります」


「――――いきなりですね」


「グレン少年の助言もあり解決の糸口が見えて参りましたので。しかし心配になるのは、グレン少年が宿で一人になることです」



 どうやら、今日の俺は留守番をしていろということのようだ。

 ……そのほうがいいだろう。俺もそう思う。



(俺を暗殺者に結び付ける危険も減る)



 だから、強く反論する気もない。

 ちなみにクリストフの懸念は、時堕がアイツらと言った連中が潜伏している可能性と思われる。



「私の代わりに、いざとなったときに身を守れる魔道具と、私を呼ぶことが出来る魔道具を置いていきます」



 彼はそう言って、紅い宝石と蒼い宝石が埋め込まれたネックレスを一つずつ俺に手渡すと、すぐに「付けなさい」と口にした。

 言われるままに首に回すと、重なったネックレスが派手で少し居心地が悪い。



「ガルディア戦争の際に用意した使い捨ての魔道具です。当時の余りものですが、性能は言葉通りの効果を保証いたします」


「二つもいいんですか?」


「必要なものですから」



 クリストフ曰く、紅い宝石は彼の魔力が込められており、いざとなったら魔力の壁を張るそうだ。

 また、蒼い宝石は二つで一つの代物らしく、もう一方をクリストフが持っているらしい。危険を感じたら床にでも投げて砕くことで、異常が彼の下に伝わるという。



「魔道具は高いって聞きますが、これも高価な品物なんじゃ……」


「それ一つで万の平民を数年は養えます」


「え、ええー…………」



 馬鹿みたいに高いじゃないか。

 持っているのも気が引ける。



(使わないで済んでくれるのを祈ろう)



 しっかし、少しだけ残念に思える。

 エルメルを教えてもらってすぐに使えるとは思っていなかったが、正直、魔法師団長のクリストフに教えを乞うということへの興味が強かった。

 彼は帝都に帰ってから教えてくれると言ったが、どこまで本気なのか分からない。

 もし、仮に本気だったのなら……俺は……。



(ああ~……あのへんな飛龍を相手にしたとき、もっと慎重にしておけば……)



 悔やんでも悔やみきれず、心の内で頭を抱えた。

 だけど――――。



「そういえば……」


「おや、どうかしましたか?」


「……なんでもありません」



 飛龍の鱗を複製できたことを思い返しているうちに、気になったことがある。

 今まで考えたこともなかっけど――――もしも――――。



魔法を複製すること(、、、、、、、、、)って(、、)、出来るのかな)



 長い修行を経て覚えることが可能な魔法を。

 それこそ、エルメルだって。

 もしも俺が複製することができるなら、複製魔法の新たな可能性を発見できるんじゃないか、って。つい、こんなことを考えずには居られなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 外部から時堕の空間に傷をつけることは至難である。これはあくまでも至難なだけで、方法を選ばなければ出来るのだと、クリストフはそのつもりで口にしていた。



「…………」



 夜、時間が遡る少し前。

 この後の展開を鑑みると、動くには限界の頃合いに。

 大時計台のさらに上、アンガルダを一望できる高みに浮遊していたクリストフは、眼下に広がる大時計台を俯瞰していた。



「カールハイツ。強引ではありますが、貴方を止めさせていただきます」



 警戒しているからこそ足を運んでいたのだが、彼は先日口にしていたように、時堕・カールハイツとは少なからず友誼がある。

 事なかれ主義と揶揄されることがあろうと、情を抱くことだってあった。

 それが、共に命を賭して戦争を生き抜いた存在あれば自明である。



 ――――さて、クリストフという男の武器は杖ではない。

 ガルディア戦争当時の彼を知る者なら、杖を手にした彼は力を抑えているということを瞬時に察するほど、本来の武器を手にした彼の力はその比ではない。



 今まで抑えていた理由は一つ。グレンの存在だ。

 出来れば彼を第一に守って居たかったのもあり、この時までその判断が出来なかった。



「――――勁風(けいふう)よ」



 だが、もう必要ない。

 こうしなければならない状況であるし、グレンにも最大限の魔道具を渡してきた。



 だったら――――為すべきことは状況の打破に尽きる。



 クリストフの手を離れた杖は宙に浮くと、両手を広げた彼の魔力を吸い煌いた。

 漲る雷光は一際勢いを増し、天球を漂う雲を揺らしていく。空が、地が揺れを催して、辺りの景色を歪ませた。



 彼は片手を天にかざし、尚も大時計台を見下ろしたまま。

 頭上の天を覆う黒雲の最奥が閃く。

 次いで、眩い閃光を放つ切っ先が姿を見せた。



 全貌は大時計台を凌ぐ遥かな巨躯なことが、まだ切っ先しか見えていなくともすぐに分かる。

 それが……たった一本。

 天を割って来臨せしは雷の槍。

 絹のように撚った稲光が、主の声を待つひと時の静けさがアンガルダを包み込んだ。



「――――万雷蔵して、霹靂を為しなさい」



 声を発した後、目も眩む強烈な雷光が。

 幾重にも重なった雷の柱がクリストフの面前の左右に並び立ち、大時計台へとたどり着く。すると、それと同時に――――爆ぜた。



 大時計台を超す体躯を誇る巨大な槍が舞い降りて、大時計台を頭上から穿つ。

 穿たれることで蒼く、時に紫電に染まった雷光が大時計台全体を染め上げて、火を入れたての鉄に似た鈍い光を発した。



 やがて、行き場を失った雷は空に。

 文字盤を経由してアンガルダ中へ飛び交い、都市全体を襲う天災に。



 ――――巨大な槍の姿は、時堕が居た空間を穿ちめり込んでいく。

 全身を突き立て終えてしまうと、その姿は消し去られた。が、代わりに一筋の閃光がクリストフの手元に届いた。



「やはり……カールハイツの魔力は大時計台全体に行きわたっていましたか」



 故に、大時計台は崩れ去ることなく鎮座。

 上層は所々崩れ去り歯車が露出されているが、それだけだ。

 クリストフはその様子を見て、手元に届いた閃光の正体である槍を握り締める。



 これこそが、雷帝と謳われる彼が使う、本来の武器である。

 名を『雷霆ノ神槍』と言った。



 先ほどの巨大な槍は鞘のようなものであり、槍を召喚する際の余波のようなもの。

 当然、槍本体の力はその比ではない。アンガルダ全体を包み込み雷光を更に超す力が、彼の手に握られた一本の槍に宿っていた。



 …………早いうちにあの男(カールハイツ)を止めなければ。



 文字盤におりたクリストフだったが、彼は死角からの攻撃を受けて再度、宙に舞い戻る。

 驚きはない。もしかしたらという予想はしていた。



「まったく……カールハイツ、貴方は誰に嵌められたのですか」



 振り向くと、空には何頭もの飛龍が居た。

 でも、ただの飛龍ではない。この前、シエスタ帝国に現れたの同じ通常の個体ではない飛龍だが、その身体はシエスタに現れた個体より更に大きい。

 それが、数十頭の群れで。

 いつの間にか現れた飛龍たちが、大時計台を我が物顔で飛び交っていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 宿の窓から外を覗いていた俺は、住民が恐怖におののく声を聞きながら息を呑んだ。



 なんていう魔法だろう。

 あれは対国として使うにしても十分な破壊力を秘めており、一個人で戦略級の働きを可能とすることが想像できた。



 信じられなかったというのが一番の感想だ。

 俺にとって、最も強い魔法使いは元将軍のバルバトスだった。でも、クリストフはどうだ。彼はあのバルバトスを凌駕しているじゃないか。

 自分はなんという男に守られていたんだ、と今更ながら驚かされる。



「でも、あの飛龍は――――」



 第五皇子の件と関りがある。これはケイオス王国の名が出てきたから想像できた。

 しかし、今は時堕が何者かに嵌められた状況なのだ。だったら、あの飛龍たちは時堕の危機を知り、暴走させられた彼を守るべく存在なのだろう。

 けどこうなると、クリストフの計画にも支障が生じてしまう。



 ここから見ている限りでは、先ほどの巨大な魔法を放ったクリストフも、飛龍の数に手間取っているようだった。



魔法を複製すること(、、、、、、、、、)って(、、)、出来るのかな』



 少し前に自分で考えたことが脳裏を掠める。



 焦るな。よく整理しろ。複製する条件はいくつもある。特に、複製対象をよく理解していることが重要だろ。

 魔法は生物ではない……でも、試したことはない。

 ぶっつけ本番で試すのは……。



(グレン……考えている場合じゃないだろ)



 クリストフなら大勢の飛竜が相手でも負けはしない。

 問題なのは、時間制限だ。

 仮に仕切り直しにしたとしても、時堕が十分に魔力を使いきれていない場合は計画の根底を覆すことになる。



 だから、俺が戦力になれないと変わらない。

 おんぶにだっこな状況を打破して、戦えなければいけないんだ。



 ――――そう考えてからは早かった。

 アンガルダで使っていたローブには袖を通さず、荷物にもなかった着慣れたローブを複製した。フードを深く被り、何本か短剣を複製して腰に携える。



 …………何を受け身になってたんだ……俺は。



 命の危険は今更だし、前世は数えきれないぐらい経験してる。転生して、その慣れが薄らいだのかと思うと少しぞっとしてしまう。

 貴重な経験を忘れるなんて、ただの間抜けじゃないか。



「本当の本当に今日までだからな……ッ!」



 俺は暗殺者なんだ。

 ここまでお膳立てされていて、ただのお荷物でいるのも気に入らない。そう、本当に気に入らないし、自分の存在意義を疑う始末だ。



 いつかも同じ決心をしたことがあると思う。

 だが俺は、その時と同じ決心をして。



「暗殺稼業なんて……本当にこれで最後だからな――――ッ!」



 また、夜の町で暗躍するために。

 人目を忍び、宿を飛び出したのである。



2021年もどうぞよろしくお願いいたします!

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