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異世界貴族の暗躍無双~生まれ変わった史上最強の暗殺者、スローライフを諦める~  作者: 俺2号/結城 涼
三章―呼び出しは突然に―

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今度は俺か、って声を大にして言いたくなった日

 翌朝、いつもより一時間以上早く目を覚ました俺は手持ち無沙汰だった。

 朝食も済んだし、やることが一つもない。

 日課の訓練も終わったし、本格的に暇だった。



「――――どうしよ」



 庭に出て空気を吸っていると、そこへ父上がやってくる。



「ふわぁ……ん? グレン、今日は随分と早いではないか」


「目が覚めたもので。おかげで暇を持て余してます」



 父上は俺の返事を聞いて腕を組んだ。

 でも、何か思い浮かぶ気配はない。



「せっかくですし、先に学園に行ってもいいですか?」


「構わんが……何もすることはないぞ?」


「散歩がてらって感じです。ついでに、今日の授業で使うものも確認しておきますね」


「あい分かった。気を付けてな」



 そうなれば、出発の支度だ。

 父上と別れた俺は屋敷の中に戻り、階段を上り自室へ。既に着替えは住んでいたこともあって、いくつかの荷物を手にして外に戻るだけでいい。



「む、早いな」


「別に準備ってほどのことはないですからね……」



 挨拶を軽めに、俺は門の向かって歩いていき。



「行ってきます」


「ああ、では学園で」



 一足先に屋敷を出て、散歩がてら学園へ向かったのである。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 学園はまだ人が少ない。

 少ない、というかほぼ皆無だ。

 広い敷地を有する学園に居たのは、幾人かの警備や教員の姿だけ。もう警備員とも顔なじみの俺は足を止められることもなく、朝の挨拶を交わすにとどめられた。



 …………ついでに仕事をしてこようかな。



 普段、学園に来て行っていた仕事をしてもいい。

 後々の仕事が減ると思うと悪い気がしなかった。



 三十分ぐらい仕事をしよう、こう心に決めた。

 でも、俺の足は後者に入る前に止まる。

 昨日も使った広場に、見慣れない人の姿を見つけたからだ。



『まったく……これだから刃物は無粋だというんだ……』



 しまっていたはずの訓練用の剣を持ち、それを不慣れにも振り回す女性の姿があったのだ。

 一見すれば少し冷たい印象を受ける佳人で、顔立ちは整っているが表情は硬い。朝の風に揺れた髪は夏の新緑を思わせるほど鮮やかだった。

 背丈は高めで、袖を通さずに羽織ったえんじ色のスーツが目立つ。



『――――おや?』



 その彼女と、おもむろに目が合ってしまう。

 すると彼女はこれまでの冷たい印象を払拭する、人懐こい笑みを掲げて手を振ってきた。



「そこの若者! 私を手伝う権利を与えようじゃないかッ!」



 で、いきなり何をのたまうのか。

 呆気にとられているのを気にせず、更に。



「こちらに来るんだ! ほら、早くしたまえ!」


「…………分かりました」



 誰なのか分からないが、あんなに堂々としてるなら学園の関係者だろう。

 警備員が止めていないわけだし、部外者と思う方が無理だ。



「何です?」


「だから、私を手伝う権利を与えると言ったろう」


「手伝う内容をお聞かせ願いたいな、と思いまして」


「ふむ…………一理ある」



 いや、万理ある。

 むしろそれしかない。



「刃物は野暮ったいと思わないかな? 砕けてしまうと使えない金属なんて物に頼るのは原始的だ。そうは思わないかね?」


「いえ、別に」


「即答で結構。私は返事に詰まる人が大嫌いだ」


「――――それで、何をお手伝いすればよいのですか?」


「おっと、そうだった。この野暮ったい鉄の塊の使い方を教えてくれるかね?」



 やはりそうか。

 剣を手にして不満そうに、不器用に振っていたのだから想像はしていた。

 だとしても、彼女が何者かという疑問は残る。

 一秒、ほんの一秒だけ考えてしまうと、彼女は「いや、やっぱり止めよう」と言って、剣を無造作に放り投げてしまう。



 地面に突き刺さった剣がどこか物悲しかった。



「微妙に興味を抱いたのは事実だが、思えば、それほど興味はなかった」


「あ、ああ……左様ですか……」


「ところで、若者はどうしてここに来たんだい?」



 俺が誰かとは聞かないのか? 

 気になったが、まずは返事を。



「仕事があるので。あと、早起きしすぎたからです」


「簡潔で結構だ。ということは、暇ということに間違いないね」


「いえ、だから仕事が……」


「どうせ普段している仕事だろう? 代わりにやっておくよう、私の補佐に言っておくから安心したまえ。――――だから少し付き合いなさい」


「どうしてそれを――――って!?」



 前触れはなく、突然。

 俺は背後から押し寄せるナニカの気配に、咄嗟に身体をひねってそれを躱した。



「ほう! やるじゃないか!」


「いきなり何を……ッ!?」


「いやなに、無粋な刃物なんかより、目の前にいる若者の方が面白そうに思えただけなんだ」



 さっきまで居た場所を、黒い風が通り抜けていったのが分かる。

 迎撃態勢を取ってみるが、彼女は笑っているばかり。それどころか、挑発するような言葉を発してみせるほどだ。



「腰に携えている剣を抜きたまえ」



 もう一度、いきなり何をと尋ねたくもなる。

 でも、彼女から漂う気配には、ラドラムと似たものがあった。

 つまるところ、教えてくれなそうなそれだった。



「若者は頭がいいから分かっているはずだ。恐らく、どうして私が攻撃を? という疑問を抱いているはずだ。少なくとも、私がやったことは理解できているはずだからね」


「…………俺の考えが分かるのなら、教えてくれると助かるのですが」


「ふむ、気になるのかね? だったら教えてあげなくもない」



 俺は彼女が袖を通さずに羽織ったスーツの裾から、黒い風が漏れ出しているのを視界に収めて警戒した。

 当然、言われるまでもなく剣は抜いてある。

 徐々に殺意に似た敵意を抱きつつあった俺の目を見て――――彼女は。




「――――ただの興味本位」




 呆れるほど自己中心的な理由を述べて、手を伸ばした。

 楽しげに笑い、白い歯を露出させながら。



「意味が解らない……くっ……」



 黒い風が手を模して。

 彼女のスーツから何本も伸び、俺の身体を狙う。

 けど、目で負えないほどじゃなかった。

 身体を反らし、最小限の動きで躱す。ついでに距離を詰め、手にした剣を彼女に押し付けようと試みたのだが。



(身体が……重い……?)



 自分の足元を見ると、漂う黒い風が冬の雪のように重く、俺の足を奪っていた。

 足を振り上げるも、水のようについてくる。

 ついでに視界も霞んできた。

 本能で理解できる。この風に触れているのはまずい。



 逃れようと試みるのだが、足取りが重く身動きが取りづらい。

 身体強化を更に強く使ってみるも、感じたことのない重さだった。



 黙っているわけにもいかない。

 俺は緑髪の女性の様子を伺うのと同時に、辺りの様子を伺った。

 


 すると、気が付いた。

 そして、目を疑った。


(雲が――――ッ!?)



 こんな光景は目にしたことがない。

 ……だって、空に漂っていたはずの雲が、鈍く、蠢くようにして落下しているように見えたのだ。



「若者。これは予想だが、君は固有魔法を持っているだろ?」


「俺が……? いえ、そのようなことは」



 幼い頃に父上も言っていたように、自分の才能は明け透けに語る者ではない。

 相手が見ず知らずの人物で、しかも攻撃してきた女なら殊更だ。



「そうかな。頑なと言っていいほど身体強化に頼る思考に加え、属性魔法を放つ様子もない。されど、遠距離の攻撃手段があるようにも見えないじゃないか」



 ほんのわずかな時間で行われた分析を前に、俺はポーカーフェイスを保った。

 彼女はそれすら楽しそうに観察しているように見える。



「予想できるのは、君の固有魔法は範囲が広いそれではないということだ」



 どうかな、と。



「正解したかい?」


「ぐっ……あいにく、魔法の才能がないだけです……ッ!」


「あーっはっはっはっ! 言うに事欠いて、魔法の才能がないだって!? 私の見立てでは真逆だが……くくっ、そう言うのなら、そういうことにしておこう」



 すると、彼女は俺に拍手をした。

 称えるような、ショーの最後に縁者に送るような拍手をだ。



「もう十分だ。朝から楽しませてもらったよ」



 俺が重さに苦しむのを傍目に、魔法を収めだした緑髪の佳人。

 俺はそれに、強い苛立ちを覚えていた。

 何も言わずに魔法を使い、人を試すような言動を繰り返すその振る舞いには、青筋が浮かぶほど苛立っていた。



 名前も知らない相手にこんな感情を抱くとは思えなかった。



「――――るな」



 このまま終わらせるのも、性に合わない。



「なんだい?」


「――――舐めるな、って言ったんですよ」



 歯を食いしばり、全身に力を込めた。

 体重が何倍にも感じる中、握り拳に爪が食い込むほど力む。

 身体強化を更に……もっと。

 すると、足元が僅かに動き出す。

 壊れかけの歯車が軋むような音を上げながら……ゆっくりと。



「ま…………まさか動けるなんて思わなかった。これはアルバート君だって眉をひそめる代物なんだけどね」



 額に大粒の汗が浮かび、全身が気だるくなってきた。

 魔力の使い過ぎと、筋肉の酷使による副作用だ。

 でも、一歩踏み込めそうになったところで……。



「ッ――――っとと!?」



 急に黒い風が消え、俺の身体に自由が戻ったのだ。



「私は腐っても教師だから、最後に軽く助言をしていこう」


「じょ、助言……!? いやその前に、貴女の名前を――――ッ!」



 あと、流してしまったが父上は眉をひそめるだって?

 逆にそれで済んでるだけなのか教えてほしい。



「グレン君は身体強化に頼り過ぎだ。鍛え上げることでアルバート君と同じ領域にたどり着けるだろうが、回り道をする必要はない」


「――――お、俺の名前まで……」


「最低限、魔力を帯びた武器を持つことだ。あと一つ……せめて、一属性ぐらい魔法を覚えてみたらどうだ?」



 そう言って、彼女は疲労困憊の俺に背を向けて歩き出す。

 校門の方へ向かって、陽気に片手を掲げながら。




()なんかは相性が良さそうだ。良い師を見つけられることを祈ってるよ」




 でも、最後に一度だけ足を止めて振り向いた。



「言い忘れたけど、私のことはジルって呼んでくれたまえ」



 遅すぎる。別れ際に言うなんて訳が分からない。

 それに、名前以外にも色々と気になる点があり過ぎた。

 とはいえ、疲労しすぎてどうしようもない。



「また会うことがあったら、今度は根掘り葉掘り聞かせてもらいます」



 故に彼女の背にこう告げるにとどめ、彼女の笑いを誘うにとどめたのだ。



 ――――そう言えば、教師だって言ってたな。

 他の学園の教師の可能性はゼロではないが、だったら、わざわざこのシエスタ魔法学園に足を運んでるのも違う気がする。

 順当に考えるなら、シエスタ魔法学園の教員だろう。



 後で絶対、聞き出してやる。

 名前と髪の色が分かっていれば、こんなの容易いに決まってる。



「あー……身体おっも……」



 意固地になって対抗する必要はなかったのかもしれないが、こればかりは性分だ。

 前世の方がクールに、落ち着いて物事をこなせていた気がしてならない。



 まぁ、何にせよ今更なのだ。

 何度目か分からない溜息をつきながら、俺は頭上に広がる空を見た。

 気が付くと、足を運んだときより陽光が高い場所から注がれている。もうすぐ、生徒たちも足を運ぶ頃だろう。



「起きるか…………」



 だったら、ずっと寝ているわけにもいかない。

 全身の筋肉が痛いけど、まずは上半身を起こした。

 うん、やっぱり重い。

 諦めたくなったところで、思いっきり力を込めて立ち上がる。



 ――――その時だった。



「ッ――――ちゃん! 坊ちゃん!」



 校門の方から婆やの声がした。

 重い身体をいじめて近づいてみると、家の馬車が停まっていることに気が付く。

 婆やが大声で、しかもせっぱづ待った声で俺を呼ぶのは珍しい。



「婆やッ! 俺はこっちにいるよッ!」



 大声で返事をすると、すぐに俺の方へ走り寄ってきた。



「坊ちゃん…………今日の授業は中止です」


「え、急にどうしたのさ」


「我が家へ帝都から――――帝都議会から連絡が届きました。至急、帝都へ向かい、状況を確認せねばなりません」



 今日は朝から分からないこと尽くしじゃないか。



「また父上が何かしたのか……」



 ひとまず屋敷に帰ろう、こう呟いて歩き出す。

 しかし、婆やがすれ違いざまに首を横に振っていた。



「いいえ」



 じゃあ、誰が?

 尋ね返すより先に、俺のことを見ていた婆やが俺の手を握った。

 つづけて「落ち着いてください」こう前置きをして。



「今回は坊ちゃんが呼ばれているのです」


「俺が? いやいやいや! 何もしてないんだけどッ!?」


「どうしてなのかは分かりませんが、無視できる相手ではありません。なぜなら…………」



 次の言葉を聞き、俺は自分の失態を思い出すのだ。

 そう、ミスティと共闘したあの夜のことを。




「申立人は魔法師団長。――――雷帝・クリストフなのです」




今日もアクセスありがとうございました。


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[気になる点] 朝の挨拶を交わすにとどめられた。→朝の挨拶を交わすだけだ。 笑みを掲げて → 笑みを浮かべ
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