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異世界貴族の暗躍無双~生まれ変わった史上最強の暗殺者、スローライフを諦める~  作者: 俺2号/結城 涼
三章―呼び出しは突然に―

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穏やかな日々の中で。

今日から新章です!

 都に鎮座する帝城は、大陸でも数えるほどしかない規模の建築物である。

 玉座を挟み込む左右の壁には透明感あふれるガラスが張り巡らせられており、城下町はおろか、近隣の港町フォリナーまで見渡せる。



 磨き上げられた石畳に敷かれた一本の道、深紅の絨毯。

 その先に置かれた玉座に腰を下ろす者が居た。



 ――――第百代皇帝レオハルト・エル・シエスタである。



 若き日は覇王と謳われたこともある剛腕で、目元に宿った力強さは健在だ。

 今でも周辺諸国から畏れられていたが、その実、老いに身を蝕まれるに連れて、以前ほどの強引さは鳴りを潜めているともっぱらの噂だ。



 だが、侮ってはならない。

 眼光から押し寄せるプレッシャーは以前と変わらず、時には喉元に言葉の刃を突き立てるだろう。

 それが真剣であれば、一切の情を掛けられることなく絶命しているはずだ。



 ……さて、いつもであれば謁見の間は更に厳かな空気に包まれている。

 たとえば近衛騎士団長をはじめとした、多くの騎士たち。他には宰相をはじめとした文官の頂点が一堂に会すのだが、今はレオハルトただ一人である。

 その双眸は窓の外を見て、約束の来訪者を待っていた。



「陛下。魔法師団長殿がお越しになりました」


「通せ」



 扉の番をしていた近衛騎士がやってきてすぐ、レオハルトは低い声で返した。

 すると扉が開かれてクリストフが足を運ぶ。



「お主が余を呼び立てるなど、あまり記憶にないが」


「畏れながら、陛下。此度の件は私一人で決めるわけにもいかず、是非とも陛下にもご承認いただきたく」



 絨毯を進み、玉座の手前まで進んだクリストフが膝をつく。

 彼は決められた所作を丁寧にこなし、懐に用意していた書状を取り出した。



「議会へ招集をかけようかと」


「好きにすればよかろう」


「通例であればそのように。しかしながら、此度は事情が違うのです」


「――――申せ。余は回りくどいことは好まん」



 返事とともに漂う圧に、雷帝と謳われるクリストフの肌がひりついた。



「では、失礼を」



 緊張で唾を飲み込んでから、丸めていた書状を広げる。

 レオハルトに失礼の無いようピンと張って、片膝をついたまま。

 神妙な面持ちで告げたのである。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 学園でミスティと再会した日からおよそ一週間が過ぎていた。

 俺も父上の手伝いに慣れを感じてきた頃、屋敷の執務室に籠って仕事をしていたところへと、学園帰りの二人が足を運んできた。



 蒼交じりの銀髪のアリスが屈託のない笑みを浮かべて。

 その後ろで仕方なそうに、俺と目があったところで申し訳なさそうに首を傾げて桜色の髪を揺らしたのがミスティだ。

 夏仕様の制服に身を包んだ二人は、港町フォリナーに降り注ぐ朝日よりも眩しい。



 袖口やスカートから覗かせた白磁の肌。目鼻立ちが整った端麗な顔立ち。そして、引き締まっているも凹凸を主張した躰。

 これらが学園の、帝都中の異性を虜にしていることは、俺も良く知っている。



「帰宅早々、どうしたのさ」


「グレン君も聞いてくださいよっ! この前の飛竜の件があったじゃないですか! あれのせいで学園が何日か閉まってましたよねっ!?」


「ああ、覚えてるけど」


「そのせいで夏休みが少なくなっちゃったんですっ! せっかくだから、夏休みに乗じて学園に行くのを止めようと思ってたのに……計画が台無しじゃないですかぁっ!」


「何言ってんだお前」



 隙あらば学園をサボろうとするのはどうしたものか。

 アリスも何だかんだと真面目だし、本気ではないと信じたいが。



「冬休みに延期しないとですね~……」



 分からない。どこまで本気だろう。

 相手がアリスというだけで、さすがの俺も図り損ねてしまう。

 帝都を賑わした大怪盗を甘く見てはいけないのだ。



「…………あ、お仕事がまだだったんですね。 では、アリスちゃんも手伝っちゃいますよ」


「別にいいって。学園でつかれてるだろうし」


「またそう言って遠慮するー! 平気ですから、ちょーっとお借りしまー……」



 アリスが書類を手に取ろうとした直前で、その手が止まった。



「ほら……目元、いつもよりぐーって重そうですよ。ふふん、頑張り過ぎちゃうのも問題ですね」



 無遠慮に手を伸ばし、俺の目元を両手で触れた。

 少しこそばゆくてじれったい。

 それに、言うまでもなく照れくさかった。



「わ、分かったって……次からは気を付ける」


「良かったです。今度隠したら強引に休んでもらっちゃいますから、ね?」



 常日頃の接しやすい態度の中にも、聖女のような慈悲深さを孕ませる。

 穏やかな瞳に垣間見える俺を気に掛ける優しさが、純粋な献身が。その声を聞いているだけで、癒されそうな感覚に陥った。



「それに、このぐらいの量なら、一緒に頑張ればすぐに終わっちゃいますよ」



 すると、アリスは俺の机の上から無造作に書類を手にしていく。部屋の中央に置かれた一対のソファに座り、学園の鞄を置くと慣れた手つきでペンを滑らせはじめた。

 それにしても、早い。

 俺と比べて数倍の速さでこなしていくのを見ると、俺もまだまだと実感してしまう。



「――――わ、私だって……」



 どうしてか不満そうなミスティが密かに唇を尖らせていた。

 俺がその理由を悟るより先に、その足で俺の傍にやってくる。



「どうかした?」


「別に……ちょっと気になっただけ」



 つづけて近づいたミスティが俺の背後から書類を覗き込み、何かに気付いた様子で口を開いた。

 その声は得意げだった。



「私も手伝うわ」


「大丈夫だって。そんなに気にしなくとも――――」「いいの! わ、私がそうしたいだけだから……!」「……それなら」



 ミスティはそのまま手を伸ばし、俺が確認し終えた書類に指を向けた。

 距離は近くて、呼吸の音すら聞こえてきそう。

 彼女自身の香りと共に、例のパンの甘さも香ってきた。



「この書類、まだ書きかけなの?」


「ああ。一応確認したんだけど、良く分かってないから後で調べようかなって思ってたやつかな」


「……そうだったのね。なら私が見てもいい?」


「勿論。むしろ助かるぐらいだ」


「分かったわ。じゃあちょっとペンを借りて……これはきっとこうで――――だから――――」



 それはもう近くにいるまま、俺の背後からペンを滑らせるミスティ。

 端正な文字で俺の間違いが直されていき、やがて。



「こうだと思――――グレン? どうして黙ってるのかしら」


「何でもない。すごいなって感心してた」


「ふふっ、意外だったかしら。でも、私も暇なときはこういう仕事をしていたし、アリスほどじゃなくても手伝えるんだから」



 彼女はそう言ってから。



「毎日のお仕事は大変だと思うけど、無理をしたらダメよ」



 頑張りすぎて体調を崩すミスティに言われるとは思ってもみなかったが、俺を心配している顔を見て。



「肝に銘じておく」



 とだけ、言葉は短くも素直に返した。

 さて、ミスティと俺の距離はここで元に戻り、彼女は俺の返事を聞いて楽しそうに笑っていたが、対照的に、アリスが怪訝そうにこちらを見ている。



「…………シエスタの傾国にして絶世には、見惚れるだけで満足せよ。声を掛ければ氷棘(ひょうきょく)に身体が射抜かれるから、でしたっけ?」



 ぽつりと言って、ミスティの頬を真っ赤に染めた。



「そ、それを言う必要はないじゃないっ!」


「たはは……ついつい思い出しちゃいました」


「アリス、今のは?」


「ッ――――グ、グレンも聞かなくていいのっ!」



 そう言われても気になるじゃないか。

 必至なミスティは珍しいし、殊更だ。



「何年も前なんですが、城で開かれたパーティに有名な詩人がお呼ばれしたんです。皇族の人たちに挨拶をした後で、彼はミスティのことを歌ったってわけですね」


「ッ~~!」


「そこで恥ずかしさの極致に至ってる皇女様ですが、知っての通り硬いお人なわけですよ」


「意味が解ってきたけど、詩人がそれを言うのは不敬になるじゃない?」


「ですね。だから詩人はパーティが終わってから城下町で歌ってました」


「あー、なるほど」


「それに、ああいう人たちって自由なお人柄ですからねー……。罰するのもどうかという話ですし、他国にも名の売れた人なのでお咎めは無しです」



 ミスティの耳に入るのはそう長い時間を要さなかったろう。

 きっと、それはもう不満だったに違いない。

 頬を赤らめているあたり、想像するに難くなかった。



「で、なんで急にその話をしたのさ」


「詩人曰く、声を掛けると氷の棘で身体が貫かれるんですよ?」


「いや……それは聞いたけど」


「そんな皇女様がすごく懐いたもんだなって思ったわけです。グレン君、一体どんな方法でミスティを? ――――はっ!? 私にしたよりも厳しく躾けちゃったんですっ!?」


「良く分かんないけど、色々あったってだけ」


「ほぇー、色々あったんですか……色々……ふむふむ……」



 慣れた口ぶりで戯言を流すも、流される側も慣れたものだった。



 ――――ふと。

 俺の腹が軽く音を上げた。



「さすがに昼から何も食べてないとやばい」



 仕事に集中しすぎていたせいだ。

 腹の音は二人に聞こえていなかったようだが、呟いた声は届いていた。



「先にお夕食にします?」


「そうしたいな。ミスティもよければ一緒に」


「私は……今日は遠慮しておく。お城でしなきゃいけないこともあるから、残念だけど、そろそろ帰らないと」


「ん、分かった」



 俺はそう口にして椅子を立った。



「私はこの書類だけ終わらせちゃいますね」


「助かる。俺はミスティを外まで送ってくるよ」


「りょーかいしましたっ! ではでは、食堂で合流しましょう!」



 そしてミスティと目配せを交わして執務室を出た。

 廊下の窓から差し込む茜色の陽光が眩しくて、手で目元を覆ってしまう。



 ――――隣を見ると、偶然にも彼女も同じことをしていたのを見て、俺はつい笑ってしまった。



新章もどうぞよろしくお願いいたします。


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いつもたくさんの応援、本当にありがとうございます……!

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― 新着の感想 ―
[一言] つーか、他所の人間に領の仕事まかすなw そろそろホモ疑惑が出て来ない?グレン 枯れすぎ扱い通り越さ無い?
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