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異世界貴族の暗躍無双~生まれ変わった史上最強の暗殺者、スローライフを諦める~  作者: 俺2号/結城 涼
二章―港町フォリナーは眠らない―

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父が来たけど。

また10万字貯めるとかいっときながらのあれですが、あまりフラグとか関係なさそうな範囲だったので更新しようかと……。

 翌日、まだ天球が瑠璃色に染まっていた早朝だ。



 俺は早いうちから日課の鍛錬を終え、俺の部屋に設けられた浴室で寛いでいた。

 高価な魔道具のおかげで、シャワーは当然温水。広い湯船はどんなに足を延ばしても、俺一人では端から端まで届かない。

 屋敷には大浴場もあるけど、ここでも十分な広さがあった。



 広い窓から差し込む朝陽を臨み、瞼をゆっくりと下ろして疲れを癒す。

 それから十数分に渡ってゆっくりと過ごした。

 今の俺にとって、一日で最も贅沢な時間だ。



 湯船を出てからは、汗をさっと拭いてから服を着る。

 髪の毛をドライヤーのような魔道具で乾かして、自室のリビングへと足を運ぶ。



「…………何か飲み物を」



 ソファに深く腰を下ろしてから、喉が渇いてたことに気が付いたわけで。

 いつもは先に水を用意して座るのだが、今日は忘れていた。

 喉が渇いてしかたない。

 飲み物を取りに行かないと――――って、ソファから立ち上がろうとした瞬間だった。



 部屋の片隅、水差しが置かれたテーブルから届くアリスの声。



「どぞどぞ、氷も入れてありますよ」


「ああ、ありがと」



 ソファの背後から差し出された一つのグラス。

 受け取った手が、火照った肌がすっと冷やされる。



「ふふん、どうです? この絶妙な気の利き方!」


「不本意だけど、そういうとこは嫌いじゃない」


「もぉー! 素直に褒めてくれたっていいじゃないですかー。それにしても、今日もお疲れさまでした。相変わらずおかしいぐらいの訓練でしたねー…………バルバトスを倒せたのも納得です」


「ん、ありがと」



 アリスは自室から、俺の訓練を眺めていたんだろう。



「途中から数えるのをやめちゃったんですけど、何回ぐらいやってたんですか?」


「6000回かな。前はもっと少なかったけど」


「ふぇ? なんで増やしちゃったんです?」


「そりゃ、バルバトスとの戦いがギリギリだったからだけど」



 なにせ今思い出しても緊張を催すほどだ。



「普通に余裕だったじゃないですかー。いきなり消えたと思ったらバルバトスを貫いてたのなんて、別の意味で私の胸が貫かれそうでしたし!」



 なかなかバイオレンスな価値観を持ったお嬢様じゃないか。

 俺は一度ため息を漏らしてから、アリスの疑問に答える。



「でも言っとくけど、あの時、俺がまばたき一回でも遅れてたら死んでたよ」



 遅れてしまえば、俺はバルバトスの魔法によって焼き殺されていたはず。

 あの勝利は身体強化によって耐えられる限界と、俺の速度がなんとか噛み合った結果に過ぎない。

 同じことをもう一度やれと言われても、きっとできないし勝てないと思う。

 あくまでも、バルバトスが俺を知らなかったからの優位だ。



「だから前以上に鍛えてるってわけ」


「むぅ、私には良く分からない話みたいですね。――――そう言えば私の手を切ったときって、手加減してました? 手だけに」


「近頃の公爵令嬢って、つまらない冗談を学ぶ習慣でもあるの?」


「そんなことを言うグレン君はいずれ矯正してみせます。それでどうなんです? 手加減してたんですか?」



 捕縛するつもりだったから、多少の加減はあると思う。

 俺は声に出さずに、小さく頷いて返した。



「でも軽業は目を見張るものがあった。正直、アリスが怪盗だったなんて、今でも一割ぐらい信じてないよ」


「あっれぇー…………後半がおかしいような? ま、まぁ褒めてもらえたんでいいですけど! 許しちゃいますけど!」



 こんなやり取りにも慣れたもんだ。

 アリスもアリスで、俺の行動を理解してきた節もある。

 先程のグラスのことがいい例だ。



 わざわざ、俺の部屋で待って水を用意したんだから……ん?



「ん?」



 ここは俺の部屋で間違いない。

 すぐ傍にある浴室を出てきてから、すぐにこの部屋に足を踏み入れた。

 じゃあ、なんでアリスが俺の部屋に居たんだよ。



「あのさ――」



 と、振り返って尋ねようとした瞬間、俺の首に回されたアリスの腕。



「ついに気が付きましたね、私が忍び込んでいたという事実に!」



 今日も今日とて妙に人懐っこい絡みだ。

 俺の額を流れた汗が頬を伝い、アリスの素肌にポトッと垂れる。

 アリスの右手には、俺が付けた傷跡が薄っすらと見えた。

 目を滑らせて、手首、肘、そして二の腕まで眺めると、どこまでも白磁の素肌がつづく。



 一瞬、訳も分からず開口したが、すぐに気が付いた。

 どうして肌がこんなに露出してるんだよ。



「つかぬことを聞きたいんだけど、いい?」


「はいはい、なんですー?」



 首筋にほど近く、アリスの吐息が俺の耳をくすぐる。

 つづけて、俺の背中に押し付けられた柔らかい感触だ。

 何処か挑発的でありながら、一方では甘えるように熱を伝えてきて止まない。



「妙に肌色が多い気がするんだけど」



 あと、当たってるよ、とは言わない。言うと面倒な絡みをされるからだ。

 俺の声を聞き、不敵に笑ったアリスが熱っぽい声で言う。



「そんなの、私もお風呂上がりだからに決まってるじゃないですか」



 なるほど最高にわかりやすい。

 で、服はちゃんと着てるんだよな? 

 尋ねるべきか、シカトするべきか。



「――――ちなみに私、グレン君になら見られても平気ですよ」


「ッ……ま、待ってって! ちゃんと服は――――ッ!?」


「そんな野暮なこと、今は関係ないじゃないですか」



 凛としながらも、脳を溶かすような甘い声。

 磨き上げられた令嬢らしさが今、俺の耳元で猛威を振るう。

 朝からなんて状況だろう。

 俺の首に回された腕は鎖骨の上で交差すると、大人し目に力を込めた。



「ははっ、嘘でしょ?」


「女の覚悟を笑っちゃうと、あとでひどいお仕置きが待ってますからね」



 ぴったりと密着した状態が数十秒はつづいたと思う。

 俺の動揺がピークに達したところで、



「グレン君、あのね」



 耳元から声が届く。

 唇がくっついてしまいそうなほど近い。



「本気にしちゃいました?」


「…………はい?」


「にゅふふー、グレン君ったら純情なんですからぁ! 薄い服をきてるだけですってばーもぅー! グレン君にじゃれつきたい女心は嘘じゃないですけど、さすがに裸は恥ずかしいですって。うんうん、まだもうちょっと早いですよねーって、あれ? どうして黙っちゃったんです?」



 なんだコイツ、急に口数多くなりやがって。




 俺は黙ってアリスの腕をほどき、立ち上がる。

 アリスが着ている服は薄くて、上にカーディガンを羽織っているだけだった。

 道理で肌の熱が伝わってきたわけだよ。



 あと、風呂上りなことは嘘じゃないと思う。

 若干火照った肌がそれを物語っていた。



「これは持論だけど」



 と、俺は仕返しの口火を切った。



「友達が少ない人って、妙に距離が近づきすぎる傾向にあると思う。例えばボディタッチ、あるいは顔が近くなったりとかさ」


「う、うぐぅ!?」


「そのくせ家族とは距離が遠くて、裏返すように別の親しい人物と距離が狭まるんだけど。あれ? 急にどうして震えてるのさ。もしかして寒いんじゃない?」


「ええ寒いです、主に心がですけど。……はっ!? これは逆に、グレン君で暖をとってもい」


「確実に勘違いだから落ち着いた方がいいね」



 俺は静かに言ってから、アリスのカーディガンのボタンを閉じた。

 なんだかんだ、まだ寒いんだから軽装にも程がある。



「腑に落ちないと言うか何というか、なんです? グレン君だけ女慣れしてるみたいでモヤるんですけど。むしろ若干イラッとしてくるんですけど、どう落とし前つけてくれるんですか?」


「全部勘違いだから、勘弁してくれると助かる」



 実のところ、あながち間違いではない。

 俺は前世の経験があるわけで、丸っきり女性慣れしてないというわけでもないからだ。

 気のせいということで片付けたい。



「父上ももうすぐ到着するんだし、そろそろアリスも――――」



 と、言ったところで俺は気が付いてしまった。何かこの屋敷の使用人のとは違う、二人分の足音が近づいてくる音に。

 どちらも聞きなれたそれで、俺はすぐに正体に気が付く。



(ああ……)



 手遅れだった、それも最大級に手遅れだ。

 俺がそう思った刹那、部屋の扉が軽いノックの後で勢いよく開かれる。



「グレン! 遅くなってすまなかった! やっと到着し…………たのだ……が……」



 父上の瞳にはどのように映ったのだろう? 俺がアリスの胸元に手を当て、ボタンを付けている状況と言うのは。

 俺からすればボタンを付けてるのだが、父上からすれば、外しているように見えてもおかしくない。……ああ、間違いなくそう見えているらしい。

 父上の顔には、ありありとそんな驚きが浮かび上がってきている。



 きっと父上は、久しぶりの俺との再会を喜んでいたんだ。

 だから返事もまたずに扉を開けたんだろうし、それを指摘するつもりは無い。

 ついでに言うと、婆やも部屋の中を見てしまった。



「あらら……坊ちゃんったら」



 決してあららでは済まないわけだが、久しぶりに見た婆やが元気そうで何よりだ。

 さて、この状況をどう処理すべきだろうか。

 目下の問題は、まさにこの一言に尽きたのだった。



アクセスありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
グレン君も、ほんろうされてかわいい感じ。
[一言] 更新お願いしますぅぅぅぅぅぅ!
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