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異世界貴族の暗躍無双~生まれ変わった史上最強の暗殺者、スローライフを諦める~  作者: 俺2号/結城 涼
一章―帝都の騒動―

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帝都での逃走劇。


「ほら行きますよ! グレン君!」


「え、本当に行くの? 俺は別に……」


「人のこと散々弄んでおいて何言ってるんですかぁー?」



 さすがに店内だからか、アリスは声のトーンを下げている。少し俺に近づいて、他の客に声が聞こえないように気を使っていた。

 しかし。



「あー…………ごめんなさい、やっぱりこのお店はやめておきましょう」



 何かを見つけたアリスが踵を返した。



「待て待て待て。急にどうして外に――」


「急いで出ましょう今すぐ出ましょう」


「だから急に何をッ」



 足早に店の外に出たアリスを追って、俺も慌てて外に出た。



「お店の中に悪者が居ました」



 意味が分からない。



「それはラドラム様よりも悪い人ってこと?」


「比較にならない悪者です。私の生活を脅かそうとして、毎月のように手紙を送ってくる物凄い悪者です。あ、今の言葉はお兄様に伝えてもいいですか?」


「冗談だから勘弁して。で、その悪者の正体ってのは?」



 俺がそう尋ねてすぐ、店の中から慌てて近づいてきた一人の男。

 年の頃は二十代も半ばぐらいで、体格のいい大男だ。服装は小奇麗にまとめられていて、一目見て貴族だと分かる育ちの良さを感じさせる。

 俺たちの目の前で立ち止り、さっと店のガラスで髪を整えた。



「失礼、アリスティーゼ様で間違いありませんね?」



 ニカッと白い歯を露出させ笑う姿がさわやかだ。

 だが俺の隣に居たアリスは、小さな声で「うわぁ……」と声を漏らしている。



「人違いだと思います。では私はこれで」


「いえ! 私が間違えるはずがありません! そのお髪に歩き方、間違いありません!」



 男がそう言ってアリスの前で跪いて、彼女の手をそっと握った。



「近ごろはお忙しいと聞いております。先日のパーティでもお話しすることは叶いませんでしたし、私は寂しさを募らせつづ――ん? なんだ君は?」



 うわあ、俺の方を向いてきた。

 これ絶対に面倒な相手だし、確実にアリスに好意を向けてる男じゃん。

 思わず頬が引きつってしまったが、さて、なんて答えるべきか。



「私は栄えある――伯爵家の――――で、騎士団では第五――にて」



 何か語りだしたが、なんか肩書ばかりで覚える気になれない。

 俺が辟易していると男がアリスの手を引いて宣言する。



「アリスティーゼ様は私の妻となるお方だ。そんな女性の傍に、どうして私が知らない男がいる?」



 そんなの決まってる。

 俺とお前が初対面だからだよ。

 逆に知ってたら気持ち悪い。



 一方でアリスは嫌悪感がさらに増したようで、目で俺に助けを求めている。

 おい、妻となるってお前が勝手に願ってるだけじゃねえか。

 それと、こんな時のための爺やさんじゃないのか! チラッと辺りを見渡すも現れる気配がない。

 つまり俺にどうにかしろということかもしれないが、果たして、子爵家の者が伯爵家の人間に口答えをしてよいものか。



「アリスティーゼ様、このまま私とお食事でも」



 男は強引だ。

 アリスを連れて行こうと躍起になっている。



「グ、グレン君……ッ」



 はじめて見るアリスのか弱い一面。その声は小さく、男に俺の名前が知られないよう気を使っているらしい。

 俺としても、ここで動くと父上に何か迷惑が掛かるかも、なんて心配があったものの――。



「申し訳ないのですが、ご遠慮ください」



 俺の身体は自然と動いていた。

 別にアリスに特別な感情を抱いていたわけじゃないし、男に対していらっとしたわけでもない。



 しかし、ラドラムから頼まれてるんだ。

 アリスをよろしく、守ってね、と。

 だから決してアリスのためじゃない。助けてと目線で訴えられかけたが、あくまでもラドラムの機嫌をとるためだ。

 そう……だから別に、アリスを守ってあげたくなったわけじゃない。



 あと何日も一緒に仕事をする中で、案外仲良くなった気がしなくもない。

 友人みたいなもんだから、このぐらい手を貸してもいいさ――って、心の中で何度も言い訳して男をアリスから引きはがした。



「さっきからなんなんだ! どうして私の邪魔をする!」


「俺が先に約束してたんです。申し訳ないのですが、ご遠慮を」



 煽るような返事になってしまった。

 他になんと答えればいいのか分からなかったのは、俺がまだ未熟な証拠か。

 男の声を聞いてか、いつの間にか俺たちの周りに人だかりができる。目立ちたくなかったが、こうなってしまっては仕方ない。



 いい加減、爺やさんが来てくれないかなーと期待したところでだ。

 人だかりを割って現れた数人の騎士、いや、私兵たち。



「この男を連れていけ。不遜にも、アリスティーゼ様のお手を掴み取った平民だ」



 一応は俺も貴族なんだが、帝都の貴族からしてみれば平民みたいなものか。

 しかし捕まるのは気分が悪い。

 ……よし、逃げるか。爺やさんが来ないし、ラドラムからアリスを頼まれてることもある。何かあったらアリスも口添えしてくれるだろう。



「アリス。名案があるんだけど」



 私兵が俺に近寄ってくる間に、小さな声で語り掛けた。



「なななんですッ!? 打開できるならなんでもいいですよ!」


「それほんと? 後で身体に触ったとか怒ったりしない?」


「しません――――って、へ? 身体……?」


「言質はとったからな」



 あと数歩もすれば私兵が俺を捕まえるところで、俺は皆の不意を突く行動をとる。

 突然、アリスを抱き上げると、



「だから、少しの間だけ我慢してほしいッ!」


「えっ……えっ!? えぇぇえええ!?」



 身体強化を駆使して走り出した。

 駆ける、大通りを一気に駆け抜ける。

 俺の胸元では、アリスが必死に俺の服を握りしめた。



「なっ……!? ま、待て! おいお前たち! あの男を止めろッ!」



 後ろから声が届くけど関係ない。

 俺は大通りから路地に駆けて行って、時折、背後を確認しつつ逃げつづけた。



「グ、グレン君! グレン君ッ!?」


「もうちょっとで振り切れると思う!」


「そーじゃなくってですね!? 私ってば思いっきりお姫様抱っこされてますよ!? ねぇ! 娶られそうな勢いじゃないですかぁ!」


「知ってる、だから怒るなよって言質を取ったんだろ! あと娶るわけがない」


「ででで……でもでもでも! うぅー!」



 チラッと見下ろすと、俺の胸元に顔を押し当てたアリスの姿がある。

 真っ赤に上気した横顔からは、異性への免疫のなさが窺えた。というより、こんな経験がはじめてだから戸惑っていると言ったところか。



 アリスは照れくさそうにしているが、俺の服をさらに強くぎゅっと握りしめた。



「いつも俺の前でゴロゴロしてるじゃん!」


「ち、ちちち違うんです! ソレとコレとは話が違うじゃないですかぁ! 今は思いっきり抱きしめられてますし、ほら! 顔だってこんなに近っ……って、顔見ないでくださいよ!?」



 確かに近い。

 互いの体温が伝わるし、吐息もかかるほど近くだ。



「って言うか、グレン君はどうして平然としてるんですッ!」


「……え、なんで逆ギレしてるの」


「私だけ恥ずかしがってて何なんですか!? 女慣れですか!? 辺境で女を侍らせてんですか!?」


「頼むから人聞きの悪いことを言わないで……」


「あーもう! 最初は可愛い弟だと思ってたのにぃ! なんでこう偶にズルいんですかね!」



 だめだ。アリスは気が動転してるようで落ち着かない。



「でもそろそろ」



 追手を撒けたかもしれない。

 ゆっくりと速度を落として立ち止ると、私兵の声どころか、人の声すら聞こえてこなかった。

 で、ここは何処だ? 見渡す限り民家らしい建物が隙間なく並んでいる。

 何度か道を曲がったりしてきたこともあって、大通りへの帰り道が分からない。



「アリス」


「……アリスですけどぉー?」


「どうやら撒けたみたいだ」


「……ですねー」



 なにへそ曲げてるんだ、お前は。

 いい加減顔を上げてくれないだろうか。

 アリスの吐息が若干くすぐったい。



「急に抱き上げたのは謝るから……あの、帰り道を教えてもらえないかなって」


「……」


「分かった、先に下ろすべきだった」



 俺がアリスを下ろそうとすると。



「このままでいいです。馬車を止めたところまで、私が道案内しますから」


「道案内はありがたいけど。抱いたままはさすがに――」


「こ・の・ま・ま!」


「……りょーかい」



 俺の返事を聞いて、アリスがくすっと口角を上げたようだ。顔は見えないが動きで分かる。

 声もさっきと比べて明るく、弾んでいる。

 狭い空から雪が降りだしてきて、俺とアリスの肌に舞い降りる。



「雪が降ってきましたし、こうしてた方が暖かいんで」



 もう慣れたのか、アリスからは恥ずかしそうな様子がない。



「はぁー……はじめて会ったときから、グレン君は弟っぽいと思ったんですけどねー」


「だからさっき、俺の方が兄だって言ったじゃん」


「ううん、そうじゃないの。グレン君はそのどっちでもなくて、私が勘違いしてたみたい」



 じゃあ俺は? 尋ねるより先に、アリスがまだ紅い顔のまま俺を見上げる。



「グレン君は男の子(、、、)だったんですね」



 また真意が掴みづらい返事だ。

 でも今のアリスの顔はいつもと違った。屈託のない笑みを惜しげもなくさらけ出して、何というか、俺を信頼してくれてるのが分かる穏やかな表情だ。

 加えて、ぴたっと密着した身体からは熱が伝わってきて止まない。



「そりゃそうだ。俺は男で間違いないよ」



 アリスはぶっきらぼうに言った返事を聞き、くすっと含み笑いを漏らした。





今日もアクセスありがとうございました。

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