真意が見えない依頼。
今日の夜にもう一度更新します。
「色々と尋ねたいことだらけだが」
父上は疲れた様子で言うと、俺の隣に立つラドラムを見た。
「私はお主に助けられたのだな? ラドラム殿」
「ええ、アルバート殿の推察通りですよ」
すると父上はため息を漏らす。
あまり仲が良くない相手から助けられたなんて、父上としては複雑な心境だろう。
だが、ラドラムのおかげで投獄などは避けられたはず。
「グレン君は僕と取引をしたんです。彼は僕の屋敷まで来てくれたので、僕はある交換条件でアルバート殿に助力をしようといいました」
「ッ――グレン! お前いったい、何を代償に……!」
父上が俺の両肩を強く握りしめた。
勝手な行動をしたことは謝るべきだが。
「相談もせずにしたことは謝ります。でも、こうでもしなければ父上はやがて――」
「そんなことは聞いておらん! いったい何を代償にして、この男の助力を得たのだッ!」
「仕事を一つ引き受けてくれと。……でもその内容は聞けてません」
「何を馬鹿なことを。そんなのは詐欺の常とう手段ではないか!」
俺もその言葉には何も反論できない。
「ラドラム殿。私を助けてくれたことには感謝している。だがお願いだ、グレンに危険なことはさせないでほしい」
「いやいやいや、アルバート殿はひどい人だなー。そんなことはさせませんってば」
肩をすくめて軽く言ったラドラム。
やれやれ、なんて呟きながら父上の対面に腰を下ろすと、俺にも座るよう手で促してくる。
俺は父上の隣に腰を下ろした。
「グレン君も我慢の限界が近いだろうし、仕事について教えてあげよう」
「ええ、お願いします」
「って言うのはね、近頃帝都で頻発している盗みについてなんだ」
「……はい?」
「あー帝都から離れてると聞いたことないだろうけど、凄腕の怪盗が出没してるんだよね」
俺と父上は顔を見合わせて呆気にとられる。
「分からんな。その騒動とやらにグレンが何の協力ができると思うのだ?」
正直なことを言うと、いくらでも協力できる話だ。
前世での経験を生かせばいいだけだし、探偵じみた捜査だってやろうと思えばできる。
――って、何を考えてるんだ俺は。
もう前世とは離れた生活をしようって決めてるんだから。
「アルバート殿の疑問も間違いないんだけどさ、グレン君って頭も良いし、勘も鋭い。うちの妹に怪盗の調査を任せてるんだけど、目ぼしい進捗が見られなくってね」
「だからグレンに協力を……いや、助手のような役目として使いたいわけか」
「その通りです」
なんとも解せない話だ。
俺は何の功績を打ち立てたことはないし、目立つ知識を披露したこともない。
凄腕の怪盗とやらの調査に対して、俺をあてがう理由が分からない。
やはりこのラドラムと言う男、俺に何かしらの執着があるようだ。
「確かにグレンは頭が良い。だが、したこともない調査に協力ができるとは思えんが」
父上が俺の気持ちを代弁する。
「僕って人を見る目はあるんですよね。別に危険なことをさせようってわけじゃないですし、何なら、うちの妹の書類仕事を手伝うぐらいでいいんです。アルバート殿をかばうことの代価としては、十分格安では?」
「確かにその通りだが……」
「父上、俺なら大丈夫ですよ」
気になることは多いが、このままでは話が進まない。
ようは俺がアリスに協力して、帝都の怪盗騒動の調査をすればいいだけのことだ。
「ラドラム様は危険じゃないと言ってましたよね?」
「うんうん、それは僕の名前で約束するよ」
「なら父上に助力をいただくため、俺はラドラム様が抱える問題に協力したいと思ってます」
「むぅ……だが……」
俺は頷かない父上に代わりラドラムへ尋ねる。
「アリス様の補佐をするようなものですよね?」
「その通りだよ。グレン君が引き受けてくれるのなら、僕は全力でアルバート殿をかばうこととを約束しよう。アルバート殿を嵌めた人とかも調べてあげるし、身の安全も保障するよ」
本当に補佐をするだけか? 何か隠していないか?
気になってはいたものの、もうすでに、父上を一度助けてもらってる。
ここでやっぱり嫌だ、と答えることの方が愚策に思えた。
それに、ラドラムが述べた約束は魅力的過ぎる。
だから答えなんて決まっていた。
「分かりました。なら俺はラドラム様との約束を守ります」
と。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日からは、騎士が宿の前に立つようになった。
代わりに俺たちの部屋の入り口には、ローゼンタール家の私兵が立ちはだかっている。
父上の疑惑は簡単な話ではないらしく、いくらラドラムの権力と言えど、簡単に無罪放免……とまでは出来ないらしい。
少なくとも数週間は時間がほしいとのことだ。
俺はその三週間の間だけ怪盗騒動に対し協力する。
朝から夕方まで、勤め人のようにラドラムの屋敷で仕事に励むのだ。
――俺は宿の外でラドラムの迎えを待っていた。
するとその俺に対し、騎士たちが分かりやすく悪態をつく。
「娼婦の息子が偉そうに」
なんて声が聞こえて来た。
「元将軍が女遊びで作ったっていうあれだろ?」
「ああ。遊び方も知らない馬鹿な男だ」
……まぁ、面白い話が聞けた。
寒空の下に立って迎えを待ってみるもんだな。
まぁ噂程度の信憑性しかないが、俺がどういう扱いだったのか、少しだけわかった気がする。
「別に気にしてないけどさ」
何はともあれ父上は父上だ。
しかし、俺は養子のはずだったわけだけど。
興味深い話を聞けたと頷いていると、俺の前に一台の馬車が停まる。
「お待たせいたしました。グレン様」
御者を務めていた爺やさんが話しかけてきた。
「いえ、わざわざ来ていただいてありがとうございます」
というわけで、騎士の悪態はこのあたりで終了だ。
俺は爺やさんに案内され馬車に乗る。
馬車はすぐに動き出し、俺をローゼンタール公爵邸へと連れて行く。
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