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借金から始まる英雄譚  作者: マシュマロ悪魔族
第1章 借金少年と毒舌兵器
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第8話 ただいま

「あなたの覚悟は見させていただきました。

――力が欲しいですか?」


 ウルフの攻撃を風の壁が防ぐなか、セーラがヒロに問いかける。


「えっと……?」

「時間がありません、この壁もじきに消えます。YESかNOでお願いします」


 少女からの突然の問いかけ、だが力が欲しいか、欲しくないかと問われればそれは考えるまでもなかった。


「ほ、欲しい……です……?」

「よろしい、では、受け取ってください」

「えっ……?」


 そういうと少女は少年に口づけをした。チュッという可愛らしい音とともに唇に感じる柔らかな感触にヒロは戸惑う。

 少女はゆっくりと唇を少年から離す。

 セーラは口づけを終えると、ヒロに向き合う。


「下手くそですね、これでは女の子を落とせませんよ。

それにゲロ臭くて最悪でした。後で泥水で口を洗ぎます」

「オレの精神に攻撃するのやめてくれる!

てか、いきなり何するんだよ!」


 ヒロは顔を赤くして、セーラに先ほどの口づけの理由を問う。

 セーラはフッ……と何かを察して鼻で笑った。


「ああ、ひょっとしてファーストキスでした?

まあ、終身名誉童貞なヒロさんにはちょっと刺激が強すぎましたか」

「お、オレのことは別にいいだろ!

……じゃなくて、なに、さっきの意味深な質問と何か関係があるの?」


 セーラはその問いに対し、スッとヒロの左手を指さす。


「その左手の甲を見てください」

「左手を……?」


 そう言われて自分の左手を見るヒロ。

 そこには竜をかたどった文様が輝いていた。


「わっ……うわっ! なにこれ……⁉」

「えへん、これこそ私の契約紋。

 ヒロさんはこれより私のマスターになったのです。

 さあ早く、思い描いてください、あなたの最強のイメージを、そして『変形クロス』と唱えるのです」


 ヒロに自らの使い方をレクチャーするセーラ。

 しかしそのとき、風の壁が切り裂かれた。

 そこからあらわれたのは獰猛なる獣の眼光を片目に秘めた男、ウルフ。

 ウルフはたぎる野生を隠すことなく自らの獲物に迫る。


「ファイの苦手な水属性でもないってのに、オレたちの攻撃を防ぐたぁやるじゃねーかよ、だが――これで終わりだ」


 野獣がヒロに迫る。

 ヒロは目を閉じ、自らの心に語りかける。


(オレが目指す最強のイメージ……)


 己の強さを目指す原点ルーツとは何か。


(その答えは得た、オレの強さを求める原点はアリシアを……家族を守る力……決して失わないように繋ぎ支える力だ!)


 ならばこれがヒロの最強の形だ。


 ヒロは目を見開き、そして唱えた。


変形クロス


 その言葉とともにセーラの身体から光が放たれる。

 光がやんだとき、セーラの姿は無かった。そして……


「これが……クロスギア……セーラの力なのか……」

『なるほど、これがあなたの強さの形ですか……初めてにしてはまずまずといったところでしょうか」


 ヒロの両手には輝く籠手ガントレットがあった。

 これこそがヒロと契約したセーラの真の姿だった。


「ちっ……契約しちまったか。

じゃあまぁ、手っ取り早く坊主を殺して契約解除といきますか!」


 戦斧の一撃がヒロに迫る。

 これまでとは違う――脅しではない殺すための、殺意のこもった一撃であった。

 だが――


「何⁉」ウルフは驚愕の眼差しを向ける。

 ヒロは生きていた。彼のガントレットが戦斧を防ぎ、男と拮抗していた。

 ヒロは力を込めて、戦斧を弾いた。

「ちっ――」ウルフは飛びのいて距離をとる。


「どうなってやがる……魔力の練度もまるでなっちゃいねぇのにオレが押し負けただと……」


 筋力・技量・魔力――すべてにおいて上回っているはずの自分が押し合いで弾かれたことに驚くウルフ。

 だが、隙だけは今も見せない、警戒しつつも狼は獲物の観察を続ける。

 先ほどまでの慢心は無い。

 ヒロにも分かる、次は彼本来の力で攻めてくる。


「……どうやらそのギアはかなり高ランクの代物らしいな。

 オレのギア『ファイ』はこれでもかなりの高ランクなんだがな……」

『これでもはよけいだ……しかしお前の言う通りあのガントレットのギアは、ワシより高ランクの物のようだな』


 その男の目が変わる、観察を止め攻勢に移るつもりだ。

 ヒロも拳を構え、戦場に一瞬の静寂が訪れる。

 先に動き出したのはウルフだ、彼は神速の速さで斧を振るう。

 先ほどと同じ軌道、だが先ほどとは速さが・重みが・気合がまるで違う。

 出し惜しみのない本来の彼の力。

 狼の牙をも連想させるようなするどさをもってヒロに迫る。


「――はあっ!」


 対してヒロはその場を動かず正面から迎え撃つ。

 重心は低く、両足を固定し身体のバランスを整える。

 そして、ウルフが斧を振り下ろしたと同時にヒロも足を踏み込み拳を振るう。

 その結果は――互角。

 拳が斧が二人がそれぞれの威力で後方に飛ぶ。

 だが、お互いに目は標的を放さない。

 地に着くと同時に互いに向かって相手を迎え撃つ。

 拳と斧による怒涛のラッシュ。

 一瞬でも気を緩めればその瞬間死が待ち受けるギリギリの状況で、互いに一歩も譲らないヒロとウルフ。

 拳が嵐を巻き起こし、斧が火花を散らす。

 状況は互角、勝負は覚悟の差で決まる。


『――ならば、勝つのはヒロさんです』


 ほんのわずかな誤差。

 だが、徐々に少しづつヒロの拳が加速していく。


(こいつにだけは――)


 そして、ついに――


(負けられないんだ!)


 その拳がウルフの顔面を打ち抜いた。


「ガッ――」


 狼の体躯が地を離れる。

 そして、そのまま壁に直撃した。


「やっ――くぅっ!」


 ヒロの膝が床に着く。

 なれないギアのバトルに身体がついていかなかったのだ。


「……やってくれるな、小僧――まさか、ここまでやられるとは思わなかったぜ」


 男が立ち上がり斧を持ち直す。

 そして、その身体に――斧に魔力が集中していく。


「いや、俺の方が失礼だったか、戦技アーツの一つも出さねぇで勝とうとしたんだからな!」


 斧が紅蓮の炎を纏う。

 戦技――武術と魔力の合わせ必殺の領域へと昇華させる技。

 選ばれし者の力がヒロに迫る。


「いくぜ、『紅翼――』」

『すまんウルフ、ワシももう限界じゃ』


 その言葉とともに斧から元の禿鷹に戻るファイ。


「なんでだよ、今いいところだったじゃねーかよ!」

『ここまでの戦闘が祟ったな』


 その言葉でヒロはここに来るまでにあった大量の残骸を思い出した。

 つまりその機械たちはすべてこの男によって破壊されていたのだ。

 あれほどの戦闘をしたあとで先ほどまでの戦闘力を見せつけた目の前の男にヒロはぞっとする。


「ちっ……白けたぜ……おい、良かったな、この勝負テメーに預けるぜ」


 そういって、男は引き返していった。

 ヒロはその姿が消えたのを確認して――目蓋を閉じた。


――――――――


 孤児院にたどりついたのは日が昇った後であった。

 説明までいったんセーラを孤児院の外で待機させた後、ヒロは玄関のドアを開けた。


「ただいま……」


 ヒロは勝手に夜に出て行った後ろめたさで少々小声で帰宅の挨拶をした。

 そこでヒロはリビングの机の上に、突っ伏すようにして寝ているアリシアを見つけた。

 寝間着の上に上着を羽織ったその姿を見てヒロは状況を理解した。


(オレのこと……待ててくれたんだな)


 心配させたことに罪悪感を覚えつつも、待っていてくれたことに心から感謝した。

 だからこそ、この平穏な日常を守ろうと改めて思うのだった。


「いつも心配させてごめんな、アリシア。

 それから――ただいま」

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