第7話 あの日の決意
この話で終わらせる……そんな話をしたような気がしたが、そんなことはなかったぜ!
「ちっ……なんだ一番乗りじゃねーのかよ、クソッ、どこのどいつだ、俺の獲物を掻っ攫おうっていう命知らずはよ」
その声を聞き、ヒロは振り返る。
そこには見慣れない、肩に燃える炎の羽をもつ禿鷹を乗せた隻眼の男がいた。
「まったく、他の連中を出し抜くために貴重な転移のスクロールまで使ったってのに、来たらもう先客がいますたぁどういうことだよ!」
男がこちらに近づく。
ヒロは腕でセーラを守るようにしながら男を警戒する。
男はが会話できる距離まで迫る。
そこでヒロは気づく、その男の眼帯が冒険者プレートだと。そして、そのプレートの材質は……金。
つまりこの冒険者はCランク――英雄候補クラスの化け物だということだ。
「ああっ……? こんなダンジョンに裸マントの女だぁ? おい、ガキども、そういうプレイならよそでや…」
「違います、そういう趣味じゃありませんから!」
いきなり少女を露出させて歩かせる変態扱いされたヒロは慌てて訂正を入れる。
男はヒロの首にかかっている銅のプレート――最下級冒険者のあかしを見て、がっかりしたようにはぁ~と息を吐く。
「なんだ素人かよ……偶然でここまで来ましたってか……」
「ヒロさん、ヒロさん、素人ですって、私たちAVの撮影だと思われてるみたいですよ」
「違うよ、その素人のことじゃないからね」
「まあいいや、おい坊主ども、とっと帰ってさっさと……」
『まてウルフ、その少女はクロスギアだ』
そのとき、彼の肩の禿鷹が喋った。
男――ウルフの眼つきが変わる。
「『ファイ』形態変化だ」
その言葉で禿鷹の姿が消える、そしてウルフの手には燃える炎の戦斧が握られていた。
「退きな、ガキ、俺はその女に話があるんだよ」
戦斧を二人に向けて男は言い放つ。
「なんだ……鳥が……武器になった!」
「あれがクロスギアです。武器となり所有者と一体になって戦う兵器」
「クロス……ギア……」
突然のことに驚くヒロと珍しくシリアスなセーラ。
あっけに囚われるヒロをよそに男はセーラに話しをつづける。
「なあ嬢ちゃん、俺たちと一緒に行かねぇか。
ま、どうなるかの保証何てしねぇけどよ」
「待って、彼女を連れていくって何処へ⁉」
ウルフは面倒くさそうに言い放つ。
「ああん? そんなの武器商人に売りに行くに決まってるじゃねーか、人型のクロスギアなんてレア、大金のにおいがプンプンするぜ」
「売りに行くって、この子は女の子なんだぞ!」
ウルフはその言葉を鼻で笑い飛ばす。
「ちげーよ、そいつは武器だ、人間じゃねーんだよ」
「ふざっ……」
「ふざけるな」ヒロがそう言おうとしたとき、強烈な打撃がヒロの腹を襲う。
「うっ……おぇぇっ……」
「退けと言ったのが聞こえなかったか、小僧。
テメーに用はねぇ、殺されたくなきゃ引っ込んでろ」
打撃の正体はウルフの蹴りだった、たったの一撃でヒロは膝を屈し、胃液をまき散らす。
(結局、オレは何もできないのか……)
1年前もそうだった、今回もそうだし、孤児院もきっと守れない。
(アリシア……)
ヒロは目蓋を閉じる。
『ゆーびきりげんまん、ウソついたらハリセンボンの~ます、ゆびきった』
――――――――――
『――こうして、勇者ロアは四体の邪悪な竜を打ち倒し、エルフのお姫様を救い出しました。
そして二人は結ばれ、世界は平和を取り戻したのでした』
(これは、子供の頃の夢……?)
二人の子供――ヒロとアリシアが仲良くお話を読んでいる。
二人は読み終えた本をゆっくり閉じた。
『あーやっぱり、勇者ロアはかっこいいなー」
子供の頃のヒロはそう感想を述べる。
(そうだ、かっこよかった。ドラゴンだって打ち倒す強さが、どんな困難だって乗り越える心が)
「オレもいつか冒険者になってロアみたいな大冒険がしたいなー」
(ああ、この頃は大人になればきっと勇者みたいになれるなんて本当に思っていたんだっけ、馬鹿だよな……)
子供の頃にもつ漠然とした将来への期待、だが、それは1年前のあの日に完全に砕かれた。
(じゃあ、なんでオレ、冒険者をつづけているんだろう……)
そのとき、映像のなかのアリシアが彼に聞いてきた
『ねえヒロ……ヒロはもし私がお姫様みたいに悪い人につかまっちゃったら、助けてくれる?」
(そうだ……オレはこのとき、決めたんだ強くなるって、勇者みたいにつよくなって目の前の女の子を――アリシアを守るって!)
ヒロは決意を持って少女に告げる、生涯の誓いを。
「そのときはオレが――オレがアリシアの勇者になる!」
―――――――
「そうだ――決めたんだ、オレはアリシアを――目の前の女の子を守るって……だから、お前にだけは……女の子を物のように扱うお前にだけは、絶対に渡さない!」
少年は立ち上がり、男をにらみつける。
それに対し、ウルフはつまらなそうに言った。
「ああ、そうかよ、じゃあ――死にな」
男が少年に斧を振るう。
だが、その斧は少年に当たることはなかった。
風の壁によって二人きりになった世界で、少女は少年に問いかける。
「あなたの覚悟は見させていただきました。
――力が欲しいですか?」
次回第1章最終話「ただいま」
セーラ「終わる終わる詐欺ですね、分かります」




