第3話 金貸し商人ゴールディ
あの『薬草採取』から翌日、今日の依頼『薬屋の店番』を終えて無事に孤児院に帰還を果たすヒロ。気分は給料袋を提げて帰宅するお父さん。
しかし、孤児院の建物が見えてきたとき、「帰ってください」という怒気を孕んだ声が聞こえた。
急いでそこに向かうと、孤児院に奇妙な馬車が止まっていた。
……いや、奇妙ではなく変なという方が正しいか。
一言で説明すればゴージャス。金・宝石その他もろもろ高価でド派手なデコレーション、デコ車とも言えるであろう持ち主の感性を疑う代物だ。
そんなものが萎びた孤児院に停まっているのだから、異常事態だということは馬鹿にだって分かるというものだ。
「それでは困るのだよ、
こちらには、ほれ、このようにしっかりと証拠があるのだからね」
「それが何かの間違いだと言ってるんです!」
ヒロは馬車に隠れ、様子をうかがう。
玄関の向こうでは黒服のたちがアリシアと子供たちを囲むようにして威圧している。
その真ん中で恰幅のいい男がデンッっと立っていた。
服までピカピカなその男こそ、間違いなくこの騒動の元凶だろう。
「わっはは、何を言っているのかね。
ここにちゃんと君たちの養父のサインがあるではないか」
「――⁉」
ヒロからでは何が書いているのか分からないが、彼女の表情から察するにそれは紛れもない本物のようである。
男はニヤリと笑うと、話を進めた。
「期限はあと1年足らず、だ。
私も鬼ではない、故に今すぐここを退去するのであれば、温情として多少の礼金くらいは出そうではないか」
したり顔で男はのたまう。
アリシアは不安そうな子供たちをなだめながら、決意の目を成金男に向けた。
「分かりました……その借金、私が払います!」
男はそれを聞いて黒服の一人と目配せしたあと、返答を返した。
「ふむ、君が……かね、
しかし見たところ君たちはたいして金など無いのではないかね?」
「お金は1年まっていただければ、1万Gくらい……」
「100万Gだ」
「へ?」と驚くアリシア。
金貸しはクククと笑う。
「君たちが私に支払う金額は100万Gだと言っているんだ」
「な……さっきの紙には1万Gだと……」
「借金には利息というものがあるのだよ、お嬢さん」
借金に利息が付くことは理解できる、しかし100倍になるまで音沙汰がなく、今になって言ってくるこの手口。
ヒロには心当たりがある、冒険者の間でも有名なその手口を。
『ゴールディ商会』その守銭奴を。
「さて、君に100万Gなんて大金が払えるのかね?」
「……!」
キッとにらみつけるアリシアであるが、それはゴールディの嗜虐心を煽ることでしかなかった。
「ふん、『聖女』などと呼ばれて浮かれていた小娘もこれでようやく現実が理解できたようだな。
それとも何かね、貴様も顔だけはいいんだ、いっそ身体でも売って返済するかね?
何なら私が相手をしても……」
アリシアの顔を指で持ち上げながらそう告げるゴールディ。
そのもう一つの手が彼女の胸元を触ろうとしたとき、ヒロはいても立ってもいられず、馬車の影を飛び出した。
「待ってください、その借金……お、オレが返します!」
「ヒロ……!」
ゴールディは少年の姿を一瞥する。
「ふん、そういえばここにはもう一人年長者がいたのだったな、聖女の金魚の糞が」
興が削がれたのか、ゴールディはアリシアから手を放す。
「今日のところは引き上げやる、小僧、お前は確か冒険者だったか? ならお宝の一つや二つ見つけてみたまえ、まあ貴様のような落ちこぼれでは無理だろうがな。フハハハハ」
黒服たちとともに引き返していくゴールディ。
ヒロはただ黙ってその馬車が過ぎ去って行くのを見ることしかできなかった。




