第2話 孤児院の聖女
少年が「ユニス孤児院」と書かれた玄関の扉を開け「ただいま」と言う。
が、特に返答がなかったことで、今が「お祈り」の時間なのだと気づいた。だとすれば彼女がいるのは「お祈り部屋」だろう。
ヒロは廊下を渡って奥にある「お祈り部屋」と書かれた扉を開けた。
――そこには一枚の絵画があった。
5人の子供たちの前で少女が祈る。
白い部屋にただ一つ置かれた木製の像、何一つ珍しい物などはない。
しかし、静かに祈る少女はそれでもなお美しかった。
まだこちらには気づいていないのだろう、少女は静かに祈りをささげている。
少年の一人がこちらに気づいて「ヒロ兄だ」と言葉にする。
それをきっかけにして少女も祈りを止めてこちらに振り向いた。
――美しくなった、少年は素直にそう思う。
ハーフアップに纏めた金糸の髪は絹のように輝き、碧眼の瞳は宝石のように澄んでいた。
これならいつでも嫁に出しても問題はないだろう、あるいは貴族だって求婚者がでても可笑しくない、そんな少女へと彼女は成長していた。
「おかえり、ヒロ」
「ああごめん、邪魔しちゃったかな」
彼女は首を振り、「今、終わったところ」と答えた。
「怪我してる……」少女はヒロの頬にあった怪我を見つける。
小鬼から逃げる際に木の枝か何かでできたかすり傷、彼女はそれにそっと触れ、その瞬間、触れていた彼女の手が淡く輝いた。
手を離すと頬の傷は無くなっていた。
――治癒の奇跡
一般的には回復魔法の呼び名で有名な魔法技術。彼女にはその適正があった。
アリシアはこの町でも有数の回復魔法の使い手として、昼にはこの孤児院で冒険者や仕事で怪我した町の人の治療をしている。
――孤児院の聖女
町の人にはそう呼ばれていることをヒロは知っていた。
「あ、そうだ、お腹空いてるよね、下準備は出来てるし、すぐご飯にするね」
そう言って彼女はキッチンに向かっていった。
その後ろ姿を見送っていると、少年の一人、アインが服の裾を引っ張ってきた。
「なあ、ヒロ兄はいつアリシア姉と結婚するんだ」
「んなっ⁉」
その一言にヒロは変な声を上げてしまう。
ヒロとアリシアは所謂幼なじみである。
ほぼ同時期にこの孤児院で育った同い年。
養父が亡くなってからは二人でこの孤児院を支えてきた。
ヒロにとってアリシアは幼なじみという言葉では言い表せないほど、大切な少女である。
でも、だからこそ――
「そんな予定はないよ」ヒロはきっぱりと答えた。
彼女には幸せになって欲しい、今まで苦労した分ずっっと――
(だから、オレじゃだめなんだ)
自分じゃ彼女を幸せにできない、苦労から解放してあげられない。
金持ちの貴族、王都を守る偉い騎士さま、そういった人物と彼女は結ばれるべきだ。
「ふ~ん」と納得したのかしていないのか分からない返事を返すアイン。
そんな時、キッチンの方から「ああ! 薪を持ってくるの忘れてた!!」という声が聞こえてきてヒロは苦笑する。
夕食はもう少しかかりそうだ。




