第1話 欠陥品の冒険者
「――はい、採取量が規定数に達していないため、Fランク依頼、『薬草採取』は失敗です」
受付嬢の言葉を聞き、ギルド内に笑いが木霊する。
『おいおい、聞いたかよ』『ああ、薬草採取で失敗するとかオレ初めて見た』『あの人って前からちょくちょく見るよね』『うん、多分冒険者になって1年以上経つと思うよ』『うわぁ、そんだけやっといて薬草採取もできないとか、オレなら恥ずかしくて死ねるわ』
そんな言葉が飛び交うなか、噂の当人、ヒロ・ユニスは、ギルドを飛び出していた。
(ああ、クソッ、恥ずかしいなあ!)
町のなかを走りながら、ヒロは今日の出来事を思い出していた。
最初のうちは良かったのだ。
そのとき、依頼された薬草10個のうち7つ採取を終えていた。そして、そいつらは茂みをかき分け表れた。
――小鬼
知能・身体能力ともに子供レベルだが、高い繁殖能力と人間のように武器を使う知恵を合わせもつ緑色の悪鬼。
数は3匹、武器は2匹がこん棒で1匹がナイフ。
対してヒロの腰には一振りの剣。数では上回られているものの、間合いや筋力などを計算にいれれば、勝算は十分にある……はずだった。
(まただ……)
手が震える。
足がすくむ。
心が……魂が逃げろと叫んでいる。
あの日――自分一人が助かったあの事件から彼が患っている心の病。
「魔物恐怖症」と呼ばれる特定の魔物、または魔物全般に対して一種のパニック状態に陥ってしまう病。
パーティが全滅してしまった冒険者などがかかる精神病を彼は患っていた。
――結局のところ、彼は戦うことなく森を逃げてきたのだ。
戦えない冒険者――『欠陥品』と自分が陰で呼ばれていることを彼は知っている。
歯がゆい、何より否定できない自分が一番情けなかった。
そうしてがむしゃらに走っていたせいだろうか、正面からドンッという衝撃がやってきて、後方に尻餅をつく。
「おいおい、ちゃんと前を見て……て、なんだヒロか」
とっさに謝ろうとした矢先、自分の名前を呼ばれてヒロはぶつかった男を見上げた。
白と青の陣羽織には帝国の象徴である双竜紋、背中には彼の背丈ほどもある長槍を背負った長身の男。
ヒロは彼を知っていた。
リッド・グレイル、帝国軍駐在騎士である。
「リッド兄⁉」
「おう、元気なのはいいが、あまりはしゃぎすぎるなよ」
彼は手を差し伸べて、少年を立ち上がらせる。
ヒロは訝しい顔を浮かべながら青年に問いただす。
「兄貴ってこの時間は見回りじゃないだろ……ひょっとして、さぼり?」
「馬鹿、妙なこと言うなよ、仕事だよ、仕事。
近々、冒険者ギルドのお偉いさんが来るってんでその打ち合わせだよ」
彼はめんどくさそうにため息をつく。
「それって首都からってこと? なんでこんなところに……」
「ほらあれだよ、この前『遺跡』で隠しルートが見つかったろ。
その調査をしたいんだとよ」
この町の周辺にある5つのダンジョン。
「森」「遺跡」「洞窟」「湖」そして「山」。
そのうちの一つ「トレイユの遺跡」で先月、隠されていた通路が発覚し、ギルド内で話題になったことは記憶に新しい。
「なるほど、それはリッド兄も忙しいや」
「……それだけだったら、よかったんだけどな」
ヒロは納得する、しかしリッドはまだ何かあるのか、ヒロに耳を貸すようにジェスチャーしてきた。
ヒロは不思議に思いつつリッドに近づいた。
「今回来る人物の中に『異世界人』様がいるんだよ」
その言葉を聞いて、ヒロも目を白黒させる。
――異世界人
召喚術の最奥にあるとされる「異世界召喚」よりもたらされる最強の使い魔、「異世界」。
曰く、それは人型の化け物。
人類が持ちうる最強の「最終兵器」。
そして1年前、彼を助けた彼女と同じ――Bランクオーバー冒険者、物語の主人公だ。
「まあそんな訳で俺はそろそろいくわ、お前の気を付けて帰るんだぞ」
そう言って青年は立ち去った。
その姿を見送ったあと、少年もまた帰路に戻る。
――ざわつく心を、しこりのような何かをごまかして。




