本
この物語はフィクションであり、個人・団体名は 以下略
ちなみに7割ほどはノンフィクションです。
息抜き程度にお時間を頂ければと思います
私こと鍵ノ原 壱はオカルトに興味がある。
理由はまあ簡単で、お化けや幽霊を信じていないからだ。
だって見たことがないものを信じるのは難しいじゃないか。
ちなみに宇宙人や地球外生命体は、いるかもな~とは思うのだが。
信じるためには、きちんと存在の証を見て感じたい!!というスタンスだ。
けれどもそれなりに生きてきて、まあ幾つか不思議な体験はしているので、今回はその一つを紹介したいと思う。
まだ私が自分を僕と呼んでいた中学2年の夏である。
梅雨が明け、これから本格的な夏になろうとしていた時期に、祖母が亡くなった。
寝たきりで、幾ばくも無いと医師に言われて、そこから1年近く経っていたため、多少なりとも家族には気持ちを整える時間があったが、悲しい気持ちには変わらなかった。
そして、通夜や葬儀も無事に終わり、居間で父の弟にあたる猛叔父さんとオードブルや折詰弁当の残りをつついていた時のことである。
「2人とも、疲れただろう?」
と父が缶ビール2本とサイダーを持ってやってきた。
「兄さんこそ、喪主お疲れ様」
猛叔父さんが言うと、父が猛叔父さんの前にビールを、僕の前にはサイダーを置いて、座った。
「まあ、飲もうか」
少し目の腫れた父が、静かに音頭を取って、大人2人はビールを傾ける。
僕もサイダーのプルタブを開けた。
炭酸が喉に痛い。
1時間程、取り留めなく3人で話をしていたのだが、途中、アルコールで顔を赤くした父が何かを思い出したように、立ち上がり、「2人ともちょっとついてこい」と歩き出した。
お酒に強い猛叔父さんは顔色を変えずに「おっ?何々」と言いついていくので、僕も一緒にくっついていった。
といっても父が向かったのは、仏間で、ごそごそと仏壇を弄っている。
手元を覗くと、どうやら仏壇の下側に引き出しが付いていてそこを開けているようであった。
「ちょっとあっちで待ってな」
と父に言われて猛叔父さんと仏間に腰を下ろしして待っていると、引き出しから何かを取り出した父が「何か」を畳の上に置いた。
僕たち3人はそれを囲むように覗き込む。
本?
一冊の古びた本の様なものが置いてある。
ボロボロの色あせた表紙と太めの糸で綴じられた、素手で触って良いのか躊躇われる程、歴史を感じさせる本である。
「何の本なの?」
僕の質問に、父は腕を組みながら答える。
「舟おばさんは覚えてるか?」
僕と猛叔父さんは頷いた。
舟おばさんは僕の祖父、猛叔父さんと父にとっては父の姉にあたる人物で、僕の家より更に、山奥の古い大きな家に一人で住んでいた。
僕が小学生の頃に無くなっていて、ものすごく沢山の人がお通夜に来ていたのを覚えていたのだ。
「舟おばさんが亡くなる時に、親父が預かって、親父が亡くなった後、お袋が預かったらしい」
父が本に視線を向けたので、僕たちも本を見る。
「そして、それを俺が預かったんだが、ちょっとめくったけど・・・・・・気持ち悪い感じがした」
と言葉をきった。
「あ~。舟おばさん、不思議な人だったからな」
と続けたのは猛叔父さんだった。
不思議な人?
僕はあまり舟おばさんと会った記憶は無かったのだ。
「よく舟おばさんの所には、いろんな人が来ていたからな。親父に聞いたら、失せモノ探しの名人とかいっていたなあ」
「失せモノ探しって?」
「無くしたモノや探し物なんかを、こう、言い当てたりする・・・・・・らしい」
猛叔父さんも詳しくは知らないとのこと。
「ふ~ん」
僕は本に手を伸ばすが、「やめておけ」と父が本を取り上げる。
「まあ、四九日が過ぎて、しばらくしたらお寺に持っていてお焚き上げをお願いするよ」
「え~、なん〇も鑑定団とかに出したら高いかもよ」
と僕が言うが、「だ~め」と言われて、その場は解散となった。
翌日の夜、僕と小学2年になる妹、そして猛叔父さんと居間でTVを見ていた。
明日には猛叔父さんも帰ってしまうため、少し残念だ。
しばらくすると妹が「眠い」と言って部屋に戻っていった。
妹がいなくなると、猛叔父さんが「壱くん、壱くん、アレ見てみない」と悪い笑顔で僕に言ってくる。
すぐにアレの意味が分かった。
あの本のことだ。
僕は頷き、少しドキドキしながら猛叔父さんと一緒に仏間に向かった。
僕と猛叔父さんは本を畳において向かい合って座る。
「じゃあ、いいかい。開くよ」
猛叔父さんが古めかしい、何も書かれていない表紙を、丁寧に捲った。
・・・・・・かっこいい!!
僕の目に飛び込んできたのは、見たことの無い記号の羅列。
びっしりと隙間なく、手書きなのだろうが、印刷物の様に歪みなく美しかった。
「これは、梵字ってやつだな」
「梵字?」
「ああ、なんか、仏教とか関係していたと思うけど、詳しくは知らん」
「へ~、何だかカッコいい文字だね」
昔流行った、キョン〇ーや映画の孔雀〇に出てきそうな文字だと思うと楽しくなる。
次々と捲っていくと、突然、内容に変化があった。
それまでは、隙間なく書かれていた梵字が、何か円をかくように、けれども何処か歪な文様を文字で形成していたのだ。
「なんだか、魔法陣みたいだね」
「魔法陣?ああ、確かにそうだな」
と猛叔父さんは少し気味が悪いものを見るように本を覗いている。
こんなにカッコいいのに何でだろう?
次のページ、次のページも様々な形が梵字で作られていて、いよいよ最後のページとなった。
叔父さんがゆっくりと捲った。
違和感があった。
最後のページはこれまでとは違っていたのだ。
一瞬、人の手形が押されているのかと思ったが、よく見ると、沢山の小さな梵字が手の形をつくっていた。
けれども其れだけではない。
文字の色が違うのだ。
これまでと墨の色が異なる。
黒ではなく、うっすらと赤黒く、気のせいかこのページを開いてから、何か生臭いのだ。
錆びた鉄が混ざった臭い。
更に手形の上には、梵字とは異なる、これまで見たことない、文字が書いてあった。
「猛叔父さん。これも、梵字?」
「いや、これは、梵字じゃないと思うけど、見たことないな」
臭いのせいか何処か顔を歪めて猛叔父さんが答えた。
「この手形に、手を置いたら何か起きたりしてね」
僕が冗談めかして僕が言うと、同じことを考えていたのか、苦笑いしながら、けれども少し気分悪そうに猛叔父さんは答えた。
「やめておこう。なんだか――」
次の瞬間――
「お前たち何してるんだ!」
見事に父に見つかって、説教されたのだった。
父が部屋に戻り、僕と猛叔父さんは仏間でだらりと足を延ばして「アレは雰囲気があったね」「そう、僕はちょっと欲しいかも」と話を続け、最後に「ちょっと気分転換にドライブでも行こうか」と猛叔父さんが誘った。
明日には帰ってしまう。何だかすぐに眠れなさそうだし最後にドライブも楽しそうだと思った。
父に確認しようと、仏間を出るために立ち上がると、小さな足音が廊下から聞こえてきた。
目を擦りながら、パジャマ姿の妹が、殆ど目を閉じた様子で、廊下をよたよたと歩いてくる。
「おにいちゃん。おしっこ」
「うん。いっておいで」
「ん」
頷き、よたよたとトイレに向かう妹とすれ違いに廊下に出る僕と猛叔父さん。
「おにいちゃん」
「何?」
僕と猛叔父さんは振り向いた。
「あれはね、手を置いたら――――――――って言うんだよ」
笑顔の妹はそういうと、トイレのドアの向こうに消えていった。
「・・・・・・・・・・・・猛叔父さん、杏がなんて言ったか判った?」
「手を置いたらまでは、あとは聞き取れたけど、・・・・・・意味が分からなかった」
「うん。僕も」
僕と猛叔父さんは顔を見合わせると、ドライブは中止して、それぞれの寝室に戻ったのだった。
後日、妹に話を聞いたが、全く覚えておらず、更にしばらくして、あの本はお寺で焼いてもらったそうだ。
僕は仏壇に手を合わせる。
今日でこの家ともサヨナラになる。
というのも、来週から他県の大学に通うため、一人暮らしをするのだ。
ふと僕は、仏壇の引き出しが目に入り、ぼんやりと中学2年の夏にあった不思議な出来事を思い出した。
仏壇に近づいて、何気なく引き出しを開ける。
「え?」
そこには―――――
「おにいちゃん」
突然の声に僕が振り向くとそこには笑顔の妹がいた。
「はやく行かないと、高速バスの時間来ちゃうよ」
「ああ」
「うん。いってらっしゃい」
冷たい汗を背中一杯にかいて、僕は玄関を出る。
いつまでも笑顔の妹が僕に手を振っていた。
如何だったでしょうか。
何分初めてホラーぽい雰囲気の作品を書いたので、全然怖くなかったぞ!とお怒りの声は何卒ご容赦を。
なお、筆者下記の作品連載してます。毛色は全く異なりますが、お時間御座いましたらお待ちしております。
B級冒険者の生きる道 ~女性ばかりのA級冒険者の中で~
http://ncode.syosetu.com/n5825dz/
よろしくお願いします。