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兄2号 蒼太


 夕方、家に帰るとリビングのエアコンの真下で兄2号こと次男の蒼太(そうた)がのびていた。夏休みのデパート近くのファミレスのバイトは、さぞかしハードだったのだろう。バイトの日の夕方はいつもこんなんだ。が、しかし設定温度、何度よ! 寒いんですけど!? 本人寝息立ててるけど、消してしまえ。

 

 一応兄の部屋からタオルケットを取って来てやることにしたのだが、ドアを開けると、夏の気温で蒸された匂いが鼻を襲って来た。


「ぐあああっ!」


 息を止めて窓に駆け寄り全開にする。いや! 良いんだけどね!? 仕方ない事だし、私だって自分で気付かないだけで臭いかもしれないんだし。って、脱いだ靴下転がってんじゃん!コイツはTVのCM並みにベタな物体だぞ? しょうがないから回収して、タオルケットも持って行く。


 タオルケットを兄に適当にかけ洗面所に靴下を持って行ったついでに、消臭・除菌スプレーを持って兄の部屋に戻った。それを布団と枕にぶちまいてやる。ついでに兄1号の部屋と自分の部屋と階下の親の寝室の窓も開け、同じことをしておく。寝るまでには乾くだろう。(……兄1号の部屋からも靴下出てきました)


「……友里奈、……お茶。……麦茶くれ」


 リビングに戻ると、私が2階をバタバタと駆けずり回っていた音が聞こえていたのか、目を覚ました兄に頼まれる。


「ほーいっ」


 麦茶を二人分用意してローテーブルの上に置き、「ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど、……」と切り出した。兄は体を起こして胡座をかきながら、不穏な空気を滲ませる。


「……数学と英語かっ? 俺にそれを聞くのか?」


「違う、違う。それは終わらせて来た。異世界物のゲームとかアニメの話なんだけどさ。」


 そうだよね、夢の話までする必要無いもんね。私は兄が以前やっていた異世界物のゲームの名前を2つほど言って、疑問に思ったことを話してみることにした。


「……でね、いろんな職業の人がいるわけじゃん。これだけは仲間にしとけ、ってのはあるの? あとギルドのおさらいもしたい。」


「何だ何だ、俺の得意分野かぁ」


 兄がウキウキと答えながら、麦茶を喉を鳴らして一気に飲んだ。


「悪ーい、もう一杯」


 あんたは懐かCMですか。今度はアイスピッチャーごと持ってきてやった。


 兄はテレビ台の引き出しから、裏面が白い新聞広告やカレンダーを切って作ったメモ用紙を取り出し、自分のバッグから出した筆箱と共にローテーブルに置いた。


「そうだなぁ、まあゲームによっても多少の違いもあるんだけどさ。……これは俺の勝手な見解だからな。他の人が見たら、『それは違うだろ!』って思うかも知れないからな。」


 兄は念を押しながら、紙にシャーペンを走らせる。


「先ずは闘士だな。で闘士(こいつ)のくくりの中に、剣士、弓使い、槍使い、ハンマー使い、&エトセトラ。それから情報収集系に盗賊、スパイ、暗殺者(スナイパー)、工作員、たまに忍者。神に仕える系なんだけど、以外に多くてゲームによって呼び方は様々だな、分かりやすいのだけで良いか? 教皇、枢機卿、司教、司祭、牧師、僧侶、聖騎士、あっ、聖騎士ってのはゲームによっては、パラディンとかホーリーナイトとかとも言われるからな。それから巫女もよく出てくる。後は魔法使い系か。魔術師、魔導師、死霊魔術師(ネクロマンサー)祓魔師(エクソシスト)召喚師(サマナー)癒者(ヒーラー)。……後は王族系と、うーん、店屋か。ま、この辺は大体わかるだろ?」


 白かった紙があっという間に細かい文字に埋め尽くされていく。うわっ、宿題より面倒だ。これが全部頭の中にはいっている兄2号を……、尊敬するところ? ここって尊敬すべきなのか?


「あ、ありがとう」


「おう! 任せとけっ! んで、仲間(パーティ)組むときに、絶対入れとけってのは、まぁ自分は最初は新米冒険者なわけじゃん。経験値高い闘士は1人欲しいわな。んで、剣士みたいな直接攻撃系と弓矢みたいな遠距離系が一人ずついると俺的には楽だった。あとゲームによっては魔導師が慰者兼ねてたりとか、スナイパー兼探索能力者だっりとかの便利でありがたーい場合もある。ま、その辺のを1人ずつかな。で、自分(プレイヤー)入れたら5人か」


「もし、さ、自分がその世界にはいっちゃって旅をすることになっちゃったら、兄なら仲間に何を選ぶ?」


 思わず聞いてしまったら、全く違う観点から返された。


「……そりゃ、職業からは選ばないっしょ?」


「えっ、マジで? さっき経験値とか言って無かったっけ?」


 私は目をパチクリさせてしまった。


「それは自分がゲームをする場合だよ。ゲームの中に入り込んじまったら右も左も分かんないんだし、とにかく信頼できる奴じゃなきゃ一緒に旅なんか出来るかよ」


 うお? 兄2号、こういう考え方だったのか。


「……そっか。ゲームに入っちゃったら、そっちが自分にとっての現実だもんね……」


「そうだよ。お互いに只でさえ命懸けなのに、寝首かきそうな奴とダンジョンでギミック解いたりしたくない」


 成る程ねぇ。……でも、そこを見極めるのって一番難しい気もする。確かに「私は信頼に値する人間ですよ」なんて、自分から言う奴ほどアヤシイんだろうけど。えーっ、もしも夢の続きが見られたら、この先どうしたら良いんだろう!


「……なんか頭、疲れた」


 私がそう言ったら、何かあったのか「バイトする様になれば分かるよ」と重くて、ちょっと大人な言葉を頂いた。



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