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美咲ねーちゃんの悩みごと


「くぅーーっ! 可愛くなぁーーいっ!!」


「何叫んでるのよ? ホラ、起きなさい」


 今の声、……お母さん!? 


 ってことは現実界の方か。ライオンもどきのシルベイシアの態度に腹を立てたまま帰って来たから、叫んじゃったんだな。


 シヤッと音がして、遮光カーテンが開けられる。うっ、母ちゃん、眩しいよ……。


「本日の予定は?」


「今日って何日だっけ? ……えっと、部活もダンスの練習も無いよ」


 予定を記入しているカレンダーを見ながら答える。今回、向こうが長かったからなぁ。メモって大事だ。


「なら良かった。隣街のプールの無料券を貰ったんだけど、今日までなのよ。5人まで使えるけど、兄達は都合が合わないし、当然お父さんと私は仕事だし。美桜ちゃんでも誘って行ってくれば? って思って」


 うお! やったあ!! ……って、もう水はいいかも。とはニコニコしながらチケットを差しだしている母には言えぬ。


「ありがとう、後で電話して向こうの都合を聞いてみる」


「そうね。じゃ、お母さん、そろそろ行くから。出かけるときは戸締まりお願いね」


「はあい」


 そっか。母の顔、お化粧が終わってた。もうそんな時間か。私はゆっくり背伸びをすると、ベッドから勢いよく立ち上がった。


「ふぅうーーっ。麦茶、麦茶ーーっと」


 夏の朝は、冷たーーい麦茶だよねっ!




「もしもーし、望月さんのお宅ですかぁ?」


「友里奈? おはよ。って、あんな経験してるのに朝から元気ね」


「うん、慣れた」


 なんか向こうのあのドリンクが合ってるのか、疲れないんだよね。頭は混乱するけど。


「それより、母がプールのタダ券をくれたんだよ。だから美桜は暇かな? って思ってさ」


「暇だけど。……お姉ちゃん、誘っていい?」


「美咲ねーちゃん? いいよ! あのライオンもどきのことも聞きたいし」


 ってことで今一テンションの低い美桜と、美咲ねーちゃんと3人でプールに行くことになった。




「おじさんに、コミケに行くのを反対されちゃったんだ?」


 プールにチャプチャプと浸かりながら、3人で話をしていた。


「そうよ! 慌てて印刷止めたんだから!!」


 美咲ねーちゃんは、お怒りモードである。


 来月の終わりに大都会で開かれる大規模なコミック・マーケットで、友人達と作った趣味本(美麗カラーイラスト多数らしい)を売ろうとしたら、おじさんから却下されたらしい。


「コミケに参加することは反対して無いんだよね。ただ、ここから行くんじゃ日帰りって訳にはいかないから」


 美桜の言葉に成る程なぁと頷く。


「遠いもんね、何日間行くつもりだったの?」


「3泊4日」


 仏頂面のまま、美咲ねーちゃんが言う。


「そんなに? 何処に泊まるつもりだったの?」


「行きと帰りは夜光バスを使って、向こうでの泊まりは、バックパッカーが素泊まりする安いホテルを使おうと思って。ホテルが取れなきゃ、女性限定のカプセルホテルもあるし。ちゃんと下調べしたんだから」


 ほええー! なんかびっくりした。私たちと美咲ねーちゃんは二つしか違わない。


 私たちは自分達のよく行くところより外へは、あまり行くことがない。基本は自転車だし。見知らぬところへ飛び込むのは、なかなか勇気がいる。


 それを美咲ねーちゃんは友達と一緒とはいえ、泊まりがけでやってのけようとしてたのか。いつも家でイラストを描いてたり、本を読んでたりしてたから、こんなに行動力がある人とは思ってなかったよ。


「……誰か大人の人はついて行くの?」


 思わず根掘り葉掘り聞いてしまう。


「誰も」


「都会慣れしてる人は?」


 美咲ねーちゃんは「よいしょっ」と、プールサイドに勢いよく腰かけると、両手をすくめて首を横に振った。


 明るいオレンジ色のワンピースタイプの水着が、直射日光が当たって光る。


「あー、おじさんの気持ち、分かるかもー」


 美咲ねーちゃん、純日本人的美人なのだ。癒し系って言うのかな。でも出るとこ出てて、ウエストはキュッて感じ。……うん、女だけの泊まりの旅はマズいって!!


「まぁね。分からなくも無いのよ、親の気持ちは。……でもさー、若いときにしか出来ないことってあるじゃない?」


 美咲ねーちゃんの話を聞きながら、美桜と私もプールサイドに上がる。


「とりあえず、何か飲も? 水につかっていても、意外と汗をかいているって聞くし」


 美桜がそう言ったので、私たちは売店に行くことにした。ジリジリとした真夏の太陽が、冷えた体に心地良い。


「で、どうするの? 諦めちゃうの?」


 荷物を置いていたところで、軽くバスタオルで体を拭きながら聞いてみた。


「んー、友達と話し合う。別のグループを巻き込んで出店を共催にして、交代をするようにして、販売部数も変更するかなぁ。そしたら宿泊数が減らせるから、もう一度父と話し合う。……こんなとこかな」


 ほー。ただ拗ねてるんじゃなくて、ちゃあんとその先を考えてるんだ。


「何よ、何か顔に付いてる?」


 美咲ねーちゃんに聞かれる。


「いや、大人だなあと思って」


「拗ねてるだけじゃ、前に進めないからね」


 そっかあ、そうだよね。参考になります、オネエサマ! 人はこうやって、大人の階段を昇っていくものなのかもしれないなぁ。


「じゃ、買いに行こう! 何を飲もっかな~?」


 美咲ねーちゃんが明るく言ったので、バスタオルを軽くたたんで荷物の上にかけ、小銭入れを持つと売店へと向かったのだった。




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