ライオンもどきが語るには……
川で出来た洞窟の空洞部分に、ルナ、セレナ、シオー、サートがいて、川の中に美桜と私がいる。美桜の右手にはルナのウィップが絡まり、左手は必死に私に向けて伸ばしてくれている。
私はというと、背中に翼を持ち、指の間に水かきのあるライオンに似た生き物に、服の背中の部分を食わえられている。
「美桜っ!」
「友里奈っ!」
私たちがお互いを呼び合った瞬間、手のひらがかぁっと熱くなった。そして、ほんのりと光り始める。最初は弱々しく瞬いていた光は、点滅の間隔が次第に長くなり、私たちを細く光る糸で繋いでいく。
一体これはどういうことだろう。そう思ってルナたちを見ると、ルナは満足そうな表情をし、セレナはニコッと笑った。
もう一度光の糸を見ると、それはどんどん太くなってきていた。
「もう大丈夫よ。今、引っ張るわね!」
ルナは叫びながらウィップを手繰り寄せた。
「ルナさん、俺たちも手伝うよ」
シオーはサートに向かって頷き、まるで綱引きのように、皆がウィップを掴んだ。
すると翠色に光ってたウィップに重ねて、茶色・赤の光が螺旋を描くように、被さっていった。
翠はルナとセレナの色。茶色はシオーの色。赤はサートの色。そして、美桜と私を繋ぐ光の色は、あの日二人で握った石の色、オレンジ色だった。
それぞれの色の光が複雑に絡み合い、組み紐みたいになったとき、ついに私はライオンもどきと一緒にルナたちのところへと放り投げられたのだった。
「とりあえず一旦、さっきのところまで戻りましょう」
ルナは手の甲で額の汗を拭い、ウイップでライオンもどきの背中の羽をぎゅうぎゅうに締め上げた。どうやらそこが急所のようで、ライオンもどきが悲しげに一声鳴いた。
土の民であるシオーから、再度石を受けとる。その石を美桜と繋いだ手の間で持つ。ごうごうと唸る川のトンネルを潜って来た道を戻ると、ルナがウイップの取手から何かを外した。それをルナが直視した瞬間、ピアスが光った。そのまま小声で何かを唱え、口にくわえて息を吹き込むと、川の壁に反響させながら遥かな音が響いた。
すると暫くして巨大鳩もどきたちが戻ってきて、ルナの前に整列した。ルナは鳥たちに向かって何かしゃべっている。すると奇妙なことに、今度は鳥たちがライオンもどきに何か言い始めた。って言っても、相変わらずな「ギエエッ」、「ギョエエエ」、「グアッ」……なんだけどね。(現実世界で美桜に説明してたけど、美桜は鳥たちを見てびっくりし、鳴き声で怯えてた。そりゃ、そうよね。私だって初めて見たときは驚いたもん!)
ライオンもどきがだんだん元気がなくなり、鳥たちに何かを訴え出した。驚いたことにその声は、体に似合わず子猫声だっだ!
私は妄想大好きだけど、想定外だよ、この世界! ……本当に次から次へと、アリエナイ。
鳥たちの中から1羽がルナのところへ来て、まるで報告するかのように話し始めた。ルナはうんうん頷いて聞いている。暫くしてルナは片手を上げ鳥を静止し、私たちの方を向いて言った。
「なんかこのシルベィシア、探している女の子がいたんですって」
「シルベィシア? そのライオンもどきの名前?」
『ライオンもどき? は分からないけど、これはそういう種族なの』
私の質問には、セレナが答えてくれた。そうか、ちゃんと名前があるのか。当たり前だけどさ。ってことは鳥たちにも、あの蝶々の形の魚にも名前があるのかもしれないな。今度聞いてみようかな。そしてそれを現実世界に戻ったら、あのノートに書くんだ。
「それで、その女の子っていうのは?」
シオーがルナに質問した。
「あまり詳しくは分からないんですって。ただ内なる光を持っている、としか。その子は何処からかやって来て、この世界に何かをもたらす存在で、だから手助けをしたいんですって」
『それって、ひょっとしてユリーナのことじゃないの?』
「そうかと思って聞いてみたけど、シルベィシアにも分からないみたい。でも、この中の誰かから、何かサインのようなものを受けているんですって」
ちょっとセレナさん、めったなことをお言いでないよ。これ以上いろんなことがあったら、覚えきれないって。
ふと気づくと、シルベィシアがすぐ側に来ていた。黒くて艶やかな瞳で見つめられる。
「服に噛みついて振り回して、申し訳なかったって」
「シオー、シルベィシアの気持ちが分かるの?」
「何となくだよ。村ではいろんな家畜を飼っていたから」
シオーに質問したら、もっともな答えが返ってきた。
私はシルベィシアの瞳を見ながら、そうか、申し訳なく思ってくれてるのか、意外と可愛いじゃないと思った。
ら、……
ふいっと、そっぽを向かれた。
前言撤回! 可愛くないっ!!




