表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/38

水流にもまれながら


 派手な水しぶきをあげながら、ライオンもどきは川の中へ戻った。その手には、しっかりと私の服を掴んだまま。


 そうして、川の中で一瞬私から手を放すと、背中の部分の服を鋭い顎でくわえ直したようだ。


 ってか、こんなワケわかんない川の中で、どうやって水面に顔を出して息をすればいいの!? やばい! 窒息しちゃう!!


 思わずため息をついて、そのまま普通に息を吸い込んだ。


 アレ? 息、できるじゃん。


 これが異世界補整ってやつか? 呼吸に関しては無問題だったのか……。一瞬だけど、必死になっちゃった自分が、なんだかこっぱずかしい。


 呼吸が出来たことで冷静になれたので、ルナ達を目で追いかける。ここで、はぐれる訳にはいかない。って、移動してるのはこっちだけどさ。


 目を細めてルナ達の方を見ていると、何のことはない。このライオンもどき、ルナ達をからかうように、水のトンネルの周りを行ったり来たりしている。


 落ち着け! 子供か、(ライオンもどき)は!?


「皆、集まって。シオー、この石は一人で一つじゃないと、この空間を維持出来ないの?」


「そんなことないけど……」


「じゃあ、一つを紐から外して三人で手を合わせて持っていて。それで、残りを私に貸して?」


 反響して聞き取りにくいけど、ルナ達のそんな会話が聞こえてきた。見ると、どうやらシオーが言われた通りにしているみたい。


 ルナはシオーから石の連なってる紐を受けとると、いつも腰につけてるウィップに手早く絡ませていった。ウィップの飾り石と、ルナのピアスがぼうっと鈍く光る。


 ルナが顔を上げた瞬間視線がぶつかった。その途端ルナは自信ありげに、にっこりと笑った。


 ーーその笑顔は、出会ったばかりの頃のちょっと不敵な笑だ。口元は笑っているけど、目は笑っていない。だけどその目は、まかせてって言ってる。


 しかしルナって、やっぱり美女っていう言葉が似合うなぁ。何かをやってくれようとしているのが伝わって来て、頼もしいような、ちょっと不安になるような、……こっちが緊張しちゃうよ!


 ルナが何か呟きながらウィップを構える。するとウィップに絡まった、シオーの石が光りだす。その光が川の水に淡く伝わって、だんだん眩しくなってきた。


「はっ!」


 ルナのするどいかけ声と共に、ウィップが空気の層をまといながら水の壁を突き進み、こちらへ飛んできた。あっぶねーーっ!!


 ライオンが方向転換をして、直撃を免れる。……おいおい私、どっちの味方してんのよ。でもさ、空を切って、なのか、水を切って、なのか、石付きのウィップが、凄いスピードで近くに来たら、誰でもこう思うんじゃないかな?


「くっ……」


 ルナはウィップを手繰りよせ、直ぐにまたこちらへ目がけて投げて来た。


 ルナの顔が真剣なので、「あれが当たったら痛そうだ」等と思ってる場合じゃない。私もウィップを掴もうと腕を伸ばす。


 が、またもライオンもどきは川の中で軽くジャンプして逃げてみせた。


 くっそお! 背中側が捕まってるんじゃなきゃ、爪立てて引っかいてやるんだけどな。


 と、そのとき、目の前の水が揺らいだ。


「呼んだ?」


 現れたのは、


「美桜!?」


 眠そうで不機嫌そうな美桜だった。


「……」


 急遽召還された味方は、ボーッとした顔のまま私を見、ウィップを構えたまま驚いた表情で固まってるルナを見、それから私の背後のライオンもどきを……睨んだ。


 おーーっ、こっええ!! 美桜ってさ、普段大人しくて優しくて、こっちが守ってやんなきゃって感じなんだけど、いざって言うときは、……"(ぬし)"だな。うん、この名詞が似合う子なんだよ。


「ルナさん、ウィップ投げて。友里奈、つかまって」


 私達は、あの夜のように手を繋いだ。

 

「ルナさん、さあ!」


 ルナが半透明の美桜目がけて、ウィップを振るう。それに気づいたライオンもどきが飛び上がる。


 ウィップは美桜の空いている方の腕に絡まったけど、それぞれの引力で、美桜と私の手が離れてしまいそうになる。


「美桜っ!」


「友里奈っ!」


 お互いを呼びながら、必死に手を掴むけど、ライオンもどきが翼で起こした水流に体がなぶられる。


 そして、ついに手が離れてしまった。


 だけどそのとき、不思議なことが起こった。とっても不思議なことが……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ