コスプレ王子と新人冒険者
夢の中に囚われの王子さまがいた。薄暗い部屋。石で出来た壁。粗末なベット。……ベタである。
王子さまは短いけど短すぎないふわっとした髪形で、色は薄めの金髪っぽかった。が、顔立ちは東洋系イケメンで、何だかコスプレっぽくて、正直『なんじゃこりゃ?』と思った。けど、私はこの王子さまを見たことがある、とも思った。
ちなみに私のいる場所は鉄格子の外側だった。王子さまは大事な秘密を打ち明ける、といった感じでボソボソ早口で言った。
「幻の花を見つけ出してくれ……。それは朝露を集める花だ。朝一番の光は神聖な物。その朝露が宿った花ならば悪を砕くことがきっと出来る……。頼む、その花さえあれば世界も浄化され、人びとも目を覚ますだろう……」
「ちょっと待って!」
「シッ、声がでかい!」
怒らりた。王子さまは少しの間辺りの様子を伺い、ボソッと聞いてきた。
「何だ?」
「その花の名前は? あと探すって何処をどうやって探せば良いのか……」
王子さまは腕を組み、考え込んだ。
「……お前、新人冒険者か?」
へっ? 新人? 冒険者? ってことはつまり……ついに異世界!! 私は憧れの世界にいるの!? ……ってか、覗くだけで良いっつったじゃーーんっ! マジか、マジなのか?
心の中で絶叫中の私に向かって、王子さまが溜め息をつく。
「まあ良い」
……良いんだ。
「ならば、先ずはギルドを目指すのだ。ここから真っ直ぐ東に進め。そんなに遠く無い。カリフォという町に出る筈だ。そこにクロ爺という人物がいるから、いろいろ教えて貰え。……武器はあるのか?」
そこで始めて自分の服装を見た。ありがちな薄汚れた灰色の長ったらしいマント。まるで剣道の胸当てみたいな鎧? 皮の編み上げの様なブーツ。武器になりそうな物は持って無いし、……下っぱ感ハンパねぇし貧相だ。
「無さそうだな。ちょっと待て」
王子さまはそう言うと、いきなり服を脱ぎ出した。
ぎゃあーーっ、いくらイケメン王子でも、こっちが下っぱ新人冒険者でも、一応うら若き乙女よ、私は! 水泳の授業中だって男子を直視しない様にしてるのに!!
私はドキドキしながら下を向いた。
「おい、これを持っていけ」
顔を上げると、鉄格子の隙間から伸ばされた王子さまの手には、金色の短剣があった。真ん中に青い石がはめ込まれている。どうやら隠し持っていたこの剣を出す為に、服を脱いだ様だった。王子さまは服を直しながら言った。
「これしか持ちこめなかった。その短剣はただの短剣では無い。使う者のモチベーションに応えてくれる便利な物だ。……金はあるのか?」
私は首を横に振った。
「だろうな」
そう言って袋を出した。
「これも少ししか入って無いが、ギルドの登録料には足りるだろう」
言われたことをブツブツと復唱する。
「東に真っ直ぐ、カリフォのギルドでクロ爺、朝露を集める幻の花……」
「そうだ」
メモ書き出来そうに無いから、ふと、いつも見てる異世界アニメのオープニングの替え歌にして、頭の中で歌ってみた。……おおっ、これなら覚えられる!!
私の表情が少し変わったのだろう、王子さまもホッとした様な顔をした。
「では頼んだぞ、ユリーナよ」
私は頷くとその場を離れた(心の中では、もうちょっとイケメン王子さまを眺めていたかったのだが……)。
すると場面が変わり、今度は広い草原にいた。草原と言っても牧場やゴルフ場の様に芝が刈り込まれている。空は晴れて青々とし、広ーい空間に、黄緑色のとてつもなく大きな絨毯が敷かれた感じだ。
「東に真っ直ぐ……。今って何時ぐらいだろ? 朝だったら太陽の方角に行けばいいんだよね?」
しゃがんで芝を触って、良く観察してみる。うん、朝露が付いて湿ってる。
「よっしゃあっ! 行くぜぇっ!!」
叫んで気合を入れ、草を踏みしめながら太陽の方向へ歩き出した。
が、突然大きな日影の中に入った。あれ? 周りに太陽の光を遮る物なんて、何も無かったはず……。と思ったら両腕を後ろから掴まれた、…………鉤爪で。
「えっ!? ちょっと!!」
私の体が地面から離れて行く。そして頭上から雄叫びがっ!!
「ギョエエエエエエッ!!」
びっくりしつつ見上げるが光の影になってて良く見えない。巨大な鳥? ということだけは分かる。
「ぎょええって、それはこっちのセリフだよっ!!」
思わず怒鳴り返すと、鳥はぐんっと羽を動かし、空に近付くスピードを上げやがった。
「おーっ、ろーっ、せぇぇえーっ!!」
青空と草原という平和な空間に、私の大声は響きもしない様だった。バタバタと手足を動かし暴れたが、思う様に体が動かない。それどころか窮屈さがアップしていく……。
あれ? と思って目が覚めた。私は自分のベッドの上で、汗だくで、タオルケットにぐるぐる巻きなっていたのだった。
こんな感じで現実と夢の世界を交互に書いて行きます。
毎日更新はしませんが、良かったら続きを読みに来て下さい。
よろしくお願いいたします。