王子の話と……
「この世界でルナ達以外に知ってる人って王子だけなんだけど? ……えっと、1人でルナ達の家に入り込んでたってこと……!?」
さすがに不法侵入の言葉は飲み込んだ。この世界にそういう概念があるのか分からないし。
従者の1人も付けずに、あの崖の途中の出っ張りみたいなところにあるルナ達の家に入り込んでいた、というのは驚きだ。
「3つの月が綺麗に輝く夜だったわ……」
言葉だけ聞くと色っぽい話に発展しそうだけど、二人はジャブジャブと水を汲み上げながら話をしていた。
『その夜は、お花を摘みに行ってたの。紫の月が満月で、他の月が半月のタイミングじゃないと咲かない花があって、その花のジャムを作りたかったんだよね』
「私たちが住んでる崖の上に森があってね、その奥にお花畑があるの。……ああ、その森はこの森とはまたタイプが違うんだけどね。で、お花畑には色とりどりの花が咲き乱れてるわ」
また違う森! そしてお花畑。そっちの森はどんな感じなのだろう。
ルナは「ちょっと待って」と言って、水がいっぱいになった瓶に布で蓋をし、何かを呟いた。……またピアスが光ってる。何かの呪文だろうな。こういうのを見かける度についワクワクしちゃうんだけど、仕方がないよね?
……さっきの話と合わせて考えたら、ちょっとした魔法は無詠唱。強く何かを願うときは呪文を唱える、ってことみたい。せっかく汲んだ水が溢れたら嫌だもんね。お金になるんだし。
セレナが新しい瓶を取り出そうとしてるので手伝った。ルナとセレナが引きずる様にして、水の入った方の瓶をソリに乗せる。
「で、家に戻ってみたら王子が寝てたってわけ」
「……王子、何しに来たんだろうね」
『ユリーナだよ』
セレナは手を休めると私の顔を見て答えた。
「私?」
何だ何だ? どういうこと? と思いながら次の言葉を待った。
「王子が言うには、『もうすぐ別の世界から、使命を持った者がこの世界にやって来る。悪いがサポートをしてやってくれ』って」
……へっ?
「えっ、それって、王子には私がここに来ることが分かってたってこと? でもって、何かを私は為さなければいけないってこと?」
ルナとセレナが肩をすぼめる。
「彼は不思議なところがあるのよ。変わり者なの」
ルナはそういうと、またジャブジャブと水を汲み上げた。それからは3人とも特に話をせずに、不思議な森での作業を続けた。私は手を動かしつつ、言われたことを忘れない様に心に刻み込んだのだった。
「あれ? なんか暗くなってきてない?」
最後の瓶にルナが蓋をしているとき、急に日が陰って来た。それほど雲があるわけでは無いのに……。
『ああ日食だよ、日食。ユリーナの世界にもあるでしょ? 別によくあることでしょ』
よくあるか? 日食が起こるときって、テレビ等のニュースに取り上げられて大騒ぎなのに。……って、そうか!
「よく、は無いよ。どれくらいの周期で起きるかは分からないけど。でも確かに月が3つのこの世界では、日食の回数も多そうだね」
そうだ、今、透明とはいえ森の中にいたから忘れてた。ここは月が3つもあるんだった。そりゃ、ここではよくあることになるよね。
そんなことを私は考えていたけれど、不意にルナが空を見上げ、口をきゅっと引き結んだ。
「ルナ……」
私のささやく様な声に振り替える。……ルナ、緊張してる?
「ちょっと不味いタイミングかも。本当は急いで鳥達の所へ戻った方が良かったかもしれないけど、荷物もあるし……」
そう言うとルナは、瓶を積んでいるソリの中から篭に掛けていたのと似たような布を取り出した。
「この中に入って、手をつないで。訳は後で話すから」
シーツくらいの大きさの布地を三人でかぶる。私の左にいるセレナの顔が真っ青になっているように見えた。しかもちょっと震えてるみたい。
私はセレナの背中から腕をまわし、左側の肩にそっと手を乗せた。するとセレナの怯えが私にも伝わり、迷子になったときの様な気分になった。
少しずつ、辺りが確実に暗くなっていく。三人で布の中で肩を寄せ合い、目を瞑って時が過ぎるのを待つ。
すると遠くの方でバタバタと足音がしていることに気づいた。だんだんと大きくなってるみたい。私達は顔を見合わせて息を潜めた。
「早く! こっちだ!!」
少年の声がした。私と同じくらいの歳かな。そして、それに答える少女の声も。
「待ってシオー。もう、……走れない」
ルナは小さく「あっ」と言って、布を振り払って外側へ出た。
「シオー! こっちよ、早く!!」
「その声! 鳥飼いのルナさん!?」
ルナは布の向こうでボソッと「鳥飼いじゃなくて、鳥使いだっつーの」と言った。
セレナに小声とジェスチャーで知り合いか尋ねると、セレナは首を横に傾けながら、知らないと意思表示をした。……セレナ、君はテレパシストなのだから、しゃべってくれて構わんのだがね。
布越しに眺めていると、ルナがソリからもう一枚同じ様な布を出してバサバサと広げた。そこへ少年と少女が表れ、三人で大慌てでその布を被る。
その瞬間、ついに太陽は完全に隠れ、辺りは夜の様な薄暗さに包まれた。
『オオーーーーン』
『キィエアーーッ』
突然遠くから不気味な声が聞こえて来た。最初はとても低い声。その次の声は、逆に神経を逆なでする様な声だ。背中から頭上へと、恐怖心が駆け上がる。
暗闇の上、布を被ってるから分からないが、森の空気がガラリと変わった気がする。
張つめているかの様な、完全な静寂。……あの涼しげで楽しげな、シャラシャラという森の音が、まるでしていない。
『オオオーーーーン』
『キィエアーーッ』
声がだんだん近付いてくる。私は布越しに声の方を見据えた。
ーーだが。何も見えなかった。
ううん、違う。何だかデコボコとした、影の様な物がずりずりと蠢きながら近づいてくる。以外に早い。私達は息を殺し、しがみ付き合った。
直ぐ側を通ったとき、正体を見ようと思った。こういうのって、目線を合わせるのはマズイだろうなと思って、足下の方を見ただけなんだけど。なので、よくは分からないけど、ゼリー状の物が奇声を上げながら通り抜けて行くのが見えた。
その声はとても悲しい声をしていた……。
暫くして徐々に明るくなって来た。それと共に、張りつめた空気も和らいでくる。
太陽が元の明るさを取り戻すと眩しくて、目を開けているのが辛くなってまばたきをした。そして気づいたら、自分の布団の上に座っていたのだったーー。
間が空いてしまって、ごめんなさい。
一応、大まかに話は作ってあるのですけど、全然その方向に向かってくれません、この話の登場人物たち……。
そんなに執筆数多くないけど、今まで書いた話と何か違うんです。
何故出てきた! 日食!! 天体苦手なんだけど……。(;・ω・)
と、思いつつ土星や木星は日食や月食多そうだなー、と思ったメイビでした。
更新遅いのですが、また読みに来て頂けたら、とても嬉しいです。(^^)
よろしくお願いいたします。




