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湧き上がる水と魔法薬の話


 シャラシャラと鳴り続ける森の中を歩く。ルナの引くソリの上の瓶は、私達の歩調に合わせ時おりカチャリとおしゃべりする。足下は土というよりは固い砂っぽくて、踏むとモギュッて言う。シャラシャラ、……カチャリ、……モギュッ、モギュッ、モギュッ。…………メルヘンだ。私というキャラに似合わないけど、メルヘンだ。


 暫く無言のまま歩いて行くと、木と木の……いや、ゼンマイやワラビの巨木の生えていない場所に出た。


 そこには半透明のゴツゴツとした岩の様な物が円形に配置されていて、その中央から水が()き上がってモコモコと水面が盛り上がっている。


 円形に……とは言っても、その一方向に水が流れる様な水路が作られていて、それが森の奥へと続いていた。見た目は勢いの無い噴水の様だ。

 

「これって、あの神話の湖?」


『違うよ、あれはもっと山奥らしいよ』


 そっか、そうだよね。そんな簡単に伝説の湖に辿り着けるはず無いよね。湖にしちゃ規模も小さいし。


 1人で納得していると、ルナ達がソリから瓶を降ろし始めたので手伝った。


「ここの水を汲んでカリフォに持っていくのよ」


『魔法薬を作ってるお店に買い取って貰うんだよ』


「水を売るのが仕事なの?」


 ルナが水路脇にしゃがみこみ、瓶を1つずつ水洗いし始めた。


「まぁね、それ以外にもあるけど。旅人や荷物を送り届けたり、薬草等を集めたり……。そんな感じかな?」


 タクシー兼宅配サービス兼行商って感じかな。


 セレナが手桶を出して、これも丁寧に(すす)いでいた。それから手桶で泉が湧き出ている中心に近いところの水を掬い上げ瓶に注ぎ入れた。


「手伝うよ、手桶ってまだある?」


 手伝いながら「この水はそのままでも充分飲める」と聞き、手桶から掌に少し足らして飲んでみた。冷たくて軽やかな……でも普通に水だった。


 魔法薬を作ってるお店では飲み薬の他に、加工する為の魔法薬も作ってるらしい。どういうことか質問を重ねると、あのルナ達の家の階段や壁のコーティングに、その魔法薬を塗布してあるということだった。ちなみにルナのピアスの石にも魔法薬がコーティングされてるらしい。


 あのときの階段の踏み心地や、壁が光り出したことを思い出した。……あれ?


「あの階段で呪文を言って無かった?」


 私の質問にルナが少しばつの悪そうな顔をした。


「盗賊避けの仕掛けがあるのよ。ユリーナがそれを越えることが出来たから、家の守りに客として認める様に話をしたの」


『私達以外、通れない様にしてあるんだよ』


「えっ、ちょっと待って! どーゆーこと?」


 何ぃ? 今さらりと物騒なこと言いませんでした?


「だから、鳥の巣の下の階段を降りるでしょ? その上から数えて3段めに人の悪意に反応する仕掛けがあるの。そこだけ、そういう魔法薬を塗ってあるのよ。で、ユリーナはそこをすんなり通ったから、『この子は信用して大丈夫なんだな』と思って、盗賊用の魔法が発動しない様にユリーナを認める魔法に書きかえたってわけ」


「も、もし盗賊だとか、悪いやつだと思われてたらどうなってたの?」


『階段と壁がヌルヌルになるだけだよ』


 ……あのときヌルヌルの階段想像したっけ。……うぇぇええっ!! 悪人認定されなくて良かったーーっ。


「そ、そうなんだ、そんなことが、……。まあ、仕方無いよね。うん、二人だけで暮らしてるんだもん。それくらいの防犯しとかないと危ないよね」


「そう。一度侵入者に家に入られてるからね。それから強固なトラップにしたの」


 えっ! あの住宅環境で!? 驚いてルナとセレナの顔を交互に眺めると、セレナがぶんぶん頷いた。


『今日みたいに丁度二人で出かけてたから良かったのか、悪かったのか……』


「訪ねて来る人もめったに無いから、玄関ドアも鍵を付けて無かったのよね」


「鍵って、あの鳥の仕掛けのこと?」


「そう。侵入者があったから、町で購入してその足で魔法薬を買って取り付けたのよ」


「侵入者って、大丈夫だったの!?」


「……その日家に入ったら……」


 ルナが手桶を動かす手を止めて、顔を真っ赤にしながら私を見たと思ったら、慌てて横を向いた。


「家に入ったら、どうしたの?」


『あのね、黄色いジャムがあったでしょ?』


「……うん、セレナが入れてくれたお茶に、私が入れたやつだよね?」


 セレナも顔が赤くなる。ルナが堪えきれない、といった風に笑い出した。


「ごめ、ごめんね、ユリーナを笑ってるんじゃないの。……その、空き巣がね……」


 ピンと来た。


「食べちゃったわけね、あの良く眠れるジャム」


 ルナとセレナが笑い出した。


『誰かがいるのは家に入る前から気づいていたの。私は()えるから……。でも、怯えた気持ちで家に入ってみれば、大の字でイビキをかいて寝てるんだもの! そういうときって、余計可笑しくて』


 あー、大真面目にルナの話を聞いてる、姿勢正しい鳥達を見て私も笑うに笑えなかったなー。ツボに入ってるときに笑っちゃいけないって思うほど、可笑しくて堪らなくなるんだよね。


「分かる! 経験あるよ。それで? その人どうしたの?」


 ルナが真顔に戻り、ちょっと困ってる様な目の色になった。


「侵入者はね、ユリーナも良く知ってる人だったんだけどね……」


 へっ? 良く知ってるって、ルナ達の他にこの世界で知ってる人って、……アノ人か……。




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