森の中
……森って普通は樹木だよね? 世界中の森を形成している植物を知ってるわけじゃ無いけど、この森に生えてるのってどう見ても樹木じゃないんだけど!?
首を上下左右に動かしながらよく眺めてみる。先ずはゼンマイやコゴミといった、しゅっと細長くて先端がくるくるっとまるまってる山菜が目に止まった。それから、春の川辺で見かける、ひょろっとして小さな可愛らしい葉っぱをつけるセリ。某アニメで傘変わりに使われていたフキとか、道端でよく見かけるネコジャラシにメヒシバ。空地なんかに咲いてるオオイヌノフグリにカタバミにタンポポ。……つまり、全て樹木じゃなくて巨大サイズの草花で出来た森だったのだ。
季節関係無く生えてるし、何度も言うけど透明だし。その植物達が揺れると葉と葉がぶつかってシャラシャラ音が聞こえてくるのは確認出来た。改めて地球じゃ無いんだなー、と思う。
森を眺めながらいろいろ考えていたら、ルナ達が私達が乗っていたのとは別の篭の中から、ソリの様な物と大きな瓶を出していた。おっと、これくらいは手伝わなくちゃ!
「ありがとう、その上に乗せてくれる?」
瓶は見た目より軽くて全部で4つあった。ソリの中にスッポリと納まる。それが終わるとルナは又、鳥達に何事か話しかけに行った。鳥は頷いて小さく「ギョエッ」と返事をしている。ルナがリーダーの鳥に話しかけ、リーダーの後ろには他の鳥たちが集まっていた。
鳥達がルナの話を聞いてる姿は、……シュールだ。何だろう、コレ。まるでアニメの一部みたい。今にも鳥達が敬礼しそうだ。ヤバいっ、ツボに入る! ……笑いを堪えてるときって余計笑いたくなるよね? 私は慌てて目を逸らした。
「じゃ、行きましょうか?」
そんな私の気持ちを露ほどにも気付かずに、ルナが振り向きキリッと言った。
「ユリーナ! 顔が赤いわよ、大丈夫? 具合悪いの?」
『ルナ、気にしなくて大丈夫だよ』
私の気持ちをセレナが代弁してくれる。って、セレナには隠し事出来ないみたい。……気を付けよう。
「そう? セレナがそう言うなら大丈夫ね? ……じゃあ行くわよ」
ルナはそう言うとソリの紐を掴んで森へ向かって歩き始めた。その後ろをセレナと二人で追いかける。
「ところで森でどうするの? どうして鳥達は置いていくの?」
「んーー、どの植物でも良いから触ってみて?」
質問を質問で返すってのはこういうことを言うんだな、と思いながら森際の草に触れてみる。質感がガラスみたいにつるつるとして、ひんやりしている。
「それを取ってみて」
ルナが指差しした所にしゃがんでみると三つ葉のクローバーがあったので、茎を持って引っ張ってみた。
「わわわっ!」
ガラスが割れる様なパキンッという感触がしたと思った瞬間、手の中のそれは液体となってさらさら流れて滴り落ちた。
慌てて立ち上がり自分の手を凝視する。指先に茎の感触は残ってるのに、手のひらがびっしょりだ。
ルナが森の中へ続く一本道の入り口から声をかけてくる。
「分かった? この森は壊れやすいの。あの鳥達を連れて歩いたり、上空を飛んだりすればこの森は消えてしまうでしょうね」
『その樹液は無害だから安心して』
二人から説明を受ける。あのー、口で説明してくれて良かったんですけど、という言葉を飲み込む。明らかにこの二人、私の反応を楽しんでる。顔に笑顔が張り付いてるぞ。
なんか今回のこのアナザー パート オブ ザ ワールド、びっくりすること多すぎるんだけど。(……そしてこのネーミングやっぱ長過ぎ。略してAPOWだから、アポゥ。……りんごって呼ぶことにしよう!)
私の動きが固まっていたから、ルナが声をかけてきた。
「ユリーナ、行くわよー」
「分かったー、今行く!」
なんかルナってお母さんみたいだな。しかし、知らないところなんだからはぐれない様にしなくちゃ。と、慌てて追いかけた。
森の中は少し眩しい。葉に当たった日の光が乱反射して、虹色の光の帯があちこちに出来、ひんやりとしてるのに気温が高そうに感じる。視覚からの情報と体感が合って無い感じで、とても不思議だ。
…………プリズム。不意に思い出した。理科の授業で使ったアレだ。あの中に入ったら、こんな感じかな? 空間も歪んで感じる。
森の植物は何処までも透明で、でも何本もの植物を通して外の景色を見るからか後ろを振り返ったら鳥達が灰色の歪な生き物に見えた。
『惑わせの森』……。なるほど、透明さ故に頭の中では外の景色を分かっていても、目に映るのは別の物ってことなのか。確かに1人で森に入ったり、夜間だったりしたら恐ろしい思いをしそうだ。
私はそんなことを考えながら、ルナ達の後を付いて行った……。




