惑わせの森!?
シャラシャラと耳障りじゃない、ガラス製の風鈴の様な音が聞こえる。……何だろう?
「何か聞こえるよね?」
『そう?』
私はルナの「体を解しておけば?」の言葉により、首や肩を回しながら訊ねた。けど、この返事。私より耳の良いセレナがこう言う以上、気のせいなのかな。
「ユリーナの本当の世界での音じゃないの?」
ルナからそんな風に言われたけど、目覚まし時計は電子アラーム音だし。
「ま、いいや。で、今は何処に向かってるの?」
「真っ直ぐ太陽の方角よ。出かけついでに済ませたい用事があるの」
地図を指さしながらルナが言った。ピアスの石を置いたところの少し先に、モサモサしたイラストがある。
「ここはね、『惑わせの森』。悪いけど歩いてついてきて貰うか、鳥達と待ってて貰わなきゃいけないんだけど……」
「何!? そのベタで恐ろしげなネーミングの森は!!」
うげっ、物語にありがちな迷いの何ちゃらですかい!? それってつまり、主人公が迷子になるパターンあるあるじゃないの?
『大丈夫。名前のわりには何も無いから。そんな気分になるだけ』
私の顔から不安を読み取ったセレナがニッコリと笑う。……そう言われてもねー、そんなネーミングが付いてるのは、何かあったからでしょー?
選択肢1、ルナ達に着いていく。
選択肢2、鳥達と待ってる。
どっちもフラグにしか思え無いんだけど、この状況。
……どうせ何か起こるなら鳥達といるよりルナ達といた方が良いよね。ルナみたいに鳥と話せる訳じゃないんだから。いざとなったらコスプレ王子の短剣もあることだし。
……そうだ! 少し短剣を使う練習もした方が良いのかもしれない。この先どんな旅になるのか分からないんだし……。
「見えてきたわ」
地図をガン見していたので、ルナの声に顔を上げる。するとそこに見えたのは、……。
「えっ? これが、森……?」
ごちゃっとしてそうな、透明な何か。いや、ルナ達が言うからには森なのだろうけど、その形は私の知ってる身近な森とは違いそうだ。もう少し近付かないと良く分からない。
その森が太陽の光が当たって風に揺れているのか、眩しい光を煌めかせている。まるで森自体が光を放っているみたいに感じる。そして光ったタイミングでまたもシャランとか、チリンとかの音がした。
「あれ? さっき言った音、あそこから聞こえて来るけど……」
「あの音か。聞きなれてるから気にして無かったわ」
『ユリーナの世界の森は、ああいう音がしないの?』
改めて聞かれると困る。言われて気付いたけど本当の森に行ったことあったっけ? 透明だから分かり辛いけど、見下ろした森の広大さを見ると、……今まで『森』と呼んでた現実界の近所の森、あれは林か!?
「……多分、しない、と思う」
そんな会話をしている間に森にじわじわと近付いて、音がもっとはっきり聞こえる様になった。
鳥達が高度を下げ始めた。
「また少し揺れるから、心配なら何処かに掴まってて」
言われて咄嗟に掴んだのはクッションだった。……意味あるか、これっ! 自分で自分にツッコミを入れる。
目の端で鳥の翼の動きが先程とは違う物になっているのが見えた。着陸体勢になったんだろうな。
鳥達が緩やかに大きなカーブを描きながら、徐々に高度を下げていく。三羽は統制の取れた飛び方をするのに慣れている様で、今のところは私達の乗っている篭は安定している。
だんだん地面に近付いて来たところで先に篭が地面に着くように、鳥達はホバリングをしながら更に高度を緩やかに下げた。このときはさすがに揺れたけど、もう地面に着くと思ったらさっきみたいに身体中力むことは無かった。直ぐ下に大地があるっていうのは物凄く安心出来ることなんだな……。
こうして篭が目的地に着くと、ルナとセレナが網戸みたいな側面の布を一方向だけ開けた。今度はルナも踏み台を使って篭の外へ出ていったので、セレナと後に続く。
そして目の前に広がった森は透明だということを差し引いても、私が見たことも無い森だった……。




