地図を広げて
ひーっ、変な悲鳴出ましたっ。我ながら、乙女にあるまじき野太い声が出たーーっ。頭では分かってる、絶対大丈夫だって! 心では可愛い悲鳴を上げたいって思ってる! でも、こんな物だよねっ!!
ただ今、鳥たちに3方向から吊られた篭に乗って空に浮かんでます。3羽それぞれが翼を大きく動かしている為、安定感は……無い! 乗り物酔いはしない方だけど、流石に、これは、ちと、……厳しい。
『ユリーナ、大丈夫?』
「な、なんとか」
セレナとルナが心配そうにこっちを見てる。私は篭の縁を掴んだまま棒立ちだったことに気付いて、篭からゆっくり指を1本ずつ放すとそのままへたりこんだ。
「腰、抜けた……」
全身筋肉痛になりそうなくらい体中に力が入ってたことに、今更気付く。安心したら緊張からの解放感に、そのまま動けなくなる。
「ユリーナはそのまま座ってて、私達でルーフを張っちゃうから」
いつもしている作業なのか、ルナとセレナは当たり前の様に動き出す。私は邪魔にならないように端の方で膝を抱えて小さくなった。
この篭の中は割合広く、クッションが幾つか置かれている。底は円形で、底の中心から側面3方向に元になってる太めの枝の様な物があった。その枝が途中で上に向かって曲がり、そのまま上部の支柱になってるみたいである。支柱の天辺は傘の持ち手の様な突起になっていて、そこに鳥たちの首輪へ繋いだ太い紐の反対側が括り付けられていた。
ルナはその紐をしっかりと握ると、器用に篭の縁によじ登って立った。見てる方が悲鳴を上げたくなる。そしてセレナから大きな三角形の布の角に縫い付けられた紐を受け取ると、掴まってる紐の上の方に結び付け、この前の夜、光を作り出すのに使ってた小瓶を受け取り結び目に中の液体をかけた。身軽にそこから飛び降りると、残りの2つの紐にも同じことを繰り返す。そうして白い布製の屋根が出来た。
それから二人は篭の縁の内側に垂れ下がってた、薄手の布の隅っこを又も紐に括り付けていく。ちゃんと大きさが考えられている逆さまの台形の布の様だ。3方向が網戸の様な物が被さった感じになっていく。
「これなら少しはマシでしょ?」
振り返ったルナに言われた。……成る程、さっきまでビュンビュンと吹いていた風が和らいでいる。確かに恐怖心が薄くなり周りを見る余裕が出てきた。
今は水色の空の下。日射しは結構あるけど心地好い風が体が熱くなる前に温度を下げてくれる。
鳥たちの飛び方が最初より安定したので、篭が揺れなくなった。翼を大きく広げ空をを滑る様に飛んでいる鳥たちは、とても気持ちよさそうに見えた。
水平線がまっすぐ延びていて、とても見晴らしがいい。……って、ルナの家から見た景色も良かったんだけどね。取り合えず、その窓から見えてた方向に今は飛んでるみたい。
遠くに見えてた森が、じわりと近付いてくる。空を見ると色の薄い月が右に2つ、左に1つ見えた。
「ユリーナ、説明しておくわ」
ルナはそう言うと脇に置いた荷物の中から、大きな皮製の何かを取り出して床に広げた。
「これは、地図?」
「そうよ」
どれどれ。カラーで見やすいな。……地名、書かないんだ、この世界。見やすいけど、それってどーなんだろ?
「えっと、北はどっち?」
『キタってなに?』
あ? そういう概念無いのか。どう説明しよう?
「ちょっと待って」
そう言ってルナが片方のピアスを外して、地図の上に乗せた。するとピアスがススス……と動き左上の方で止まる。
「何これぇーっ!!」
「私達が今いるところだけど?」
ルナとセレナを見ると、こんなの当たり前だよ? といった顔をしてる。うっわーー、魔法と言うか、逆にハイテクと言うべきか。 なびげーしょん、しすてむですよ! これは!!
「直ぐ上のマーク、これは崖ってこと?」
『そうだよ』
鳥の動きを見たり、風を感じたりしてると崖から大分離れた気がするけど、ピアスはぴくりとも動かなくなっている。むむむ、この世界、思ってたより広そうだ。
「で、カリフォはここ」
ルナが右下の端の方を指さす。……えっと、結構あるよね。
『王子が捕まってるのはここ』
セレナが指した場所はカリフォから近そうに見える。そう言えば王子さまがそんなに遠くないって言ってたっけ。
「ここからどれくらいかかるのかな、カリフォまで」
「この鳥達1羽ずつなら1日あれば行けるけど……。荷物を持って貰ってるから休ませながらだと3日だね」
片道3日。……どんな旅にになるんだろう。どんな世界が広がってるんだろう。ワクワクする。
と、そこへ何かシャリシャリというか、シャンシャンという音が微かに聞こえてきた。ルナもセレナも何事もないかの様に過ごしてる。私だけ? 聞こえるの。でも、だんだん音が大きくなって来てる気がする。……はて?




