心の中の風船
近所の公民館に来た。学校の体育館は運動部の子達が使っているし、教室は日当たりが良すぎて暑いので、此処に集まることになったのだ。
公民館に以前からいる職員さんに理由を話すと、「エアコン完備の広い畳の部屋が空いてるよ」と笑顔で言って貰えた。皆で口々にお礼を言ってお借りした。
この『女子全員でダンスの宿題をやろう!』ということに決まったとき、副委員長の上田さんがまとめ役を買って出てくれた。そして、体育の先生にも話を通して了承を得てくれた。と言っても、元々「グループでやって良い」とは言われてたんだけどね。一応打診してくれたらしい。ちなみに公民館の人との話も彼女がしてくれた。ちゃっちゃと動いてくれる副委員長さま! 感謝しております! パチパチ。
ってな訳で今日の集まりは副委員長と、体を動かすのが得意な子達と、テレビの歌番組が好きで良く見てる子達が中心になって進めてくれている。私は美桜と端の方でその様子を眺めていた。
「皆それぞれ部活とかがあるから全員は無理だったけど、初回にしては集まり良いね」
美桜が皆を眺めて言った。
「そうだね、しかも皆ダンス詳しいんだね。助かった!」
中心になってくれた子達が、アイドルグループの振り付けを取り入れようと踊りながら説明してくれる。待て待て待て、あんまり複雑なのは私には無理だぞ。と心で突っ込みを入れた。
「合唱もだけどさ、こういう皆で1つの事をするのって良いよね」
美桜は皆の方を向いたまま、しみじみと言った。
「そうだね……」
美桜の言葉を聞いて、ふとあることが思い浮かんだ。それは心の中や頭の中にヒキダシがあるという話だ。大切なことはそのヒキダシにしまっておく……という話。
でも私は、ヒキダシより風船があるんじゃないかな? って思った。色とりどりの色んな形の風船。
好きなものを吸収して、苦手なことも吸収して、たくさんの風船が心の中に膨らむ。今は皆の中の風船を繋げ合って、アートバルーンを作っているみたいだと思った。
部活動によってはチームプレイを求められることもあるけど、競技によっては個人プレイだ。比率でかんがえたら個人プレイの方が多いかな?
勉強だって、グループ学習もあるけど結局最後は個人プレイだ。……そう考えると友情って実は綱渡りしてるみたい。
でも今は真逆のことをしてる。それぞれが得意だったり詳しかったりすることの風船を繋げていってるみたい。中心になって考えてくれてる皆を見てるとなんだかワクワクしてくる。きっと素敵なダンスが、目には見えないアートバルーンが出来上がるに違いないと思った。
私が妄想力を発揮していたら、急に美桜が話しかけて来た。
「そういえば、あの夢ってまだ見てるの?」
「へっ?」
思わずすっとんきょうな声が出た。慌てた美桜が私の口を塞ぐ。が、時既に遅し! こちらを皆が注視している。上田さん達の方に手を合わせて、『ゴメンね』の合図を送った。真面目に話し合ってくれてるのに、申し訳なく思う。
……いや、あっちも脱線してた様だ。上田さんが笑いながら「少し休憩にしよう!」と声を張り上げた。その声に皆それぞれ水筒等を取り出し水分補給を始める。私も兄が薦めた例のドリンクを飲んだ。
美桜が「ごめん、びっくりさせて」と謝りながら話の続きを始めた。
「異世界の夢のことなんだけど……」
「ああ見てるよ。なんか訳分かんなくなって来てる。だからノート付けて整理してるんだよ」
「まだ見てるんだ、すごいね。……そのノート見たいな。見ても良い?」
「良いよ、じゃあ帰りに見に来る?」
「うん。行く!」
ってな訳で美桜が家に来ることになった。