鳥の巣の穴の下
ルナに先に降りる様に促されて固まってしまった。だって、階段は人1人がやっと通れそうな幅しかないし、暗そうだし。
「何してるの? 私が後から入ってこの扉を閉めるから、通っちゃってくれないと困るんだけど」
そうだよね、私が閉めるのはおかしいよね。覚悟を決めて階段を下りる。5段ぐらい下りたところで扉が閉められ辺りが真っ暗になった。
「ユリーナ、ちょっと動かないでね」
背後からルナに言われて止まっていると、何かブツブツ呟いているのが聞こえた。お? これはひょっとして魔法を使う際の詠唱とかいうやつか? 魔法が見られるのかと顔がニヤけてしまう。ルナのいる辺りを伺っていると、壁や天井に文字の様な模様がびっしりと浮かんで来た、と思っている間にその模様が光り出して周り中が明るくなった。
「うわーっ、スゴイ!! どうなってんですかコレ。魔法? それとも夜光塗料? のわけないか……」
「やこ……と? ……こんなの魔法の内に入らないわよ? さ、それより行きましょう。突き当たりを右に曲がって」
明るくなったので階段の様子が良く見える様になった。鳥の巣から見下ろしたときは何処まで階段が続いているのか不安に思ったけど、明るくなってみればあと残り5段しか無かった(つまり全部で10段)。思い込みって恐怖心を煽るんだなぁ、と変なところに感心した。
階段と壁は上から覗いたときは焦げ茶色のゴツゴツしてそうな物に見えたけれど、何かで薄くコーティングされていて滑り止めの役目をしているみたい。良く分からないところを通るのには以外とこういうのって大事だなぁと思った。
デコボコしてたり、ふわふわしてたり、逆にヌルヌルしてたら……、いや、最後のヌルヌルは想像するんじゃ無かった!! 滑って突き当たりの壁に激突したところが思い浮かんじゃったよ。階段の上の方から激突したら痛そうな上、ヌルヌルまみれになることだろう……。
そんなことを考えている間に最後の段に着いたので、言われた通りに右の方を覗いてみる。
……扉があった。薄茶色の木製の。扉は真鍮って言うのかな、良く分からないけど燻した銀色の鉄がブドウのつるに似せた形に加工されて、ドアを縁取っていた。真ん中には同じ金属で出来た鳥の形の飾りが、車で言うエンブレムみたいな感じで自己主張している。鳥の目の部分にはルナの目と同じ碧色のガラス? 宝石? が埋め込まれている。
「あー、これって開けちゃって良いんですか?」
「ごめん。ちょっと待って」
ルナが私とドアの間に入り込んでドアに顔を近付けた。すると彼女の両耳のピアスが光り、その光りが作り物の鳥の目に注がれ、カチャリと鍵の外れる音がした。
「おぅ、無詠唱!」
賛美を呟くと「さっきから何それ?」とルナが呆れた様な声を出した。
「さ、入って。」
ルナがドアを開いて押さえててくれてるので、そうっと入った。
「おじゃましま〰す。」
すると部屋の奥からパタパタと軽やかな足音がし、一人の少女が駆けてきた。
「セレナ、ただいま」
少女は私には「あれ?」という視線を送り、私の後ろのルナを見つけるとニッコリとした。
ルナと同じ色の瞳、同じ色の長い髪の毛。彼女は結ばずに長い髪をそのまま垂らしている。妹ちゃんなんだろうな、すごく可愛い。って、私と同じ歳くらいなんだけどね。
「セレナ、こちらはユリーナ。鳥達がやらかしたみたい。」
セレナは肩を竦めてちょっと笑ってみせた。その瞬間、頭の中に鈴の音色に似た軽やかな声が響いて来た。
『いらっしゃいませ。』
えっ!? これは一体……?