(82) 安全地帯にて3
読者の皆様、お待たせ致しました。
今回は、部屋でまったりとくつろぐ和馬の話です。
それでは、第82話の始まりです。
「ほらほら、和馬君。座って、座って。今、お茶を煎れるからね」
茶葉の入った急須にポットの湯を注いだ花菜は、少し茶葉を馴染ませた後、急須を手に取ると4つ並べられた湯飲みの1つにお茶を煎れ始める。
肩に描けていた銃を下ろしセーフティーをロックした和馬は、銃を部屋の角へと立て掛けた後、勧められるまま用意された座蒲団へと腰を下ろす。
「さあ、どうぞ。今日はお疲れ様でした」
「ありがとうございます。頂きます」
湯飲みを手に取り、ホッとした様子でお茶に口をつける和馬の姿を見つめながら微笑んだ花菜は、側に置いていたエプロンを手に取ると、ゆっくりと立ち上がり、ちゃぶ台の真ん中にある菓子器へと指を差した。
「私は夕飯の支度があるから、ちょっと失礼するわね。あっ、そこにあるお菓子も良かったらつまんでね」
「ありがとうございます」
手に持ったエプロンを広げ、身に着けた花菜は、そのまま居間を出ると台所へと向かって歩いて行く。
居間にて一人残された和馬は、一旦、手にした湯飲みをちゃぶ台に置くと、後ろのタンスへと背中と頭をを預け、そのまま目を閉じた。
他には誰も居らず、静まり返った部屋内には、壁に掛けられた年代物の柱時計が発する時を刻む音だけが繰り返し小さく聞こえて来る。
『はあ~、やっと落ち着けるな。ん?そういえば、この部屋の感じって何処かで……』
頭の後ろ側をタンスへと着けた状態から、今度は、ゆっくりと右や左へと顔を向けた和馬は、目の前に置かれた年代物のちゃぶ台の他に水屋箪笥や船箪笥、真空管ラジオ、昔懐かしいチャンネルツマミ付きのブラウン管テレビが置かれている事に改めて気付く。
『そうだ。そうだ。こんな感じの物が田舎の婆ちゃん家にもあったよなあ。なんだか、凄く懐かしい感じがする……。はあ~、それにしてもここにいると……。何だか少し眠くなってきた……』
昭和年代の落ち着いた雰囲気を感じて一気に緊張が解けたのか、次第に微睡み始める和馬であったが、廊下側から聞こえて来た雄太と英二の賑やかな話し声によって、直ぐに現実へと引き戻される事となった。
「……でまあ、散々な目にあった訳なんですよ」
「そうか。そりゃあ大変だったなあ。おっ!和馬君。今日はお疲れ様」
お互いの近況についての話をしながら居間へと入って来た英二達は、もたれていたタンスからゆっくりと体を起こす和馬の姿を見つけるとにこやかな表情を見せながら小さく手を挙げる。
「あっ、どうもお疲れ様です。先に休ませてもらっています」
「和馬君、目眩の方はどうだい?大丈夫かい?」
「ええ。さっきよりは大分ふらつきが無くなりましたよ」
「そうか。それなら良かった。よし、さあてと、それじゃあ儂らもちょっくら休ませてもらうとするかな。さあ、雄太君も座って座って」
「あっ、どうも!それじゃあ失礼します」
小さな丸いちゃぶ台を囲んで座った3人は、和馬が煎れたお茶を飲みながら、情報収集も兼ねて近況や状況について話し始める。
「英二さん。さっき花菜さんから聞いたんですけど、前に千葉の方と無線通信をやっていたんですか?」
「ああ。千葉と船橋のハム仲間と交信をやっていたよ。ただ、流石に今はもうこんな有り様で交信出来ない情報になっているがね」
「今は交信しようにも中継局が機能していないから、長距離無線は全く駄目なんですよね」
「そうだね。まあ近隣の市までだったら無線電波も何とか届くんだが、それ以上になるとやっぱり駄目だなあ」
「英二さん。実は俺達、色々と事情があって千葉市に向かう予定なんですけど、この機会に何か千葉市に関する情報を聞けたら助かるんですが……」
「情報か……。和馬君、情報と言っても2週間位前の物になるんだが、それでも良いかね」
「ええ。是非ともお願いします」
「解った。じゃあ、ちょっと待っててな。確か、記録したメモ帳がポケットの中にあったんだよな……。え~と。あっ!あった。あった。これだ」
ズボンの後ろポケット両側へと手を当てた英二は、片方のポケットへと手を入れると一冊の古ぽけた手帳を取り出して見せた。
最後まで読んで致しましてありがとうございます。
次回は、千葉市の状況についての話です。
では、次回をお楽しみに!