(79) 帰投
読者の皆様、お待たせ致しました。
今回は、久々の花菜さん登場です。
本線を離れ、細い市道へと入り、尚も家路へ向けてひた走るトラックの前方には、安全地帯であるコンテナブロック群の姿が次第に見えてくる。
感染者による侵入を防ぐ為、2段積みにされたコンテナブロックの上には留守番をしていた花菜が立って待っており、帰って来たトラックの姿に気付くと、両手を挙げ、ゆっくりと大きく振り始める。
どうやら、これから帰って来る事を英二が事前に無線連絡によって知らせておいたらしく、連絡を受けた花菜は、見晴らしの良いコンテナ上において3人が無事に戻って来るのを今か今かと待ちわびていた様である。
やがて、安全地帯へと無事到着し、コンテナフェンス前へと停められた2台のトラックの姿を間近に見た花菜は、口元へと手を当てると驚いた口調でこう呟いた。
「酷いわね。一体、何があったの……」
まあ、確かに花菜が驚くのも無理は無かった。
無論、和馬達が大型タンクローリーを1台そっくりそのまま持ち帰っての来た事に対しても驚いているのだろうが、やはり何より衝撃を受けているのは2台のトラックの無惨なその姿だ。
トラックのフロント部分を見てみれば、英二御自慢のピックアップトラックのグリルガードは醜く曲がり、ボンネットと左フェンダーは血塗れの有り様だ。
更に、その隣に停められたタンクローリーについても似た様なものであり、前後のバンパーは酷く歪み、車体のフロント部分とサイド部分は、やはり同様に血塗れの状態となっている。
あまりに酷い車両の有り様から、今回、現場へと同行しなかった花菜でさえ、彼等が向かった現地が大変な修羅場であった事を想像するにさして難しくは無かった。
「かなり酷い様子だけど、みんな本当に大丈夫なのかしら?」
車両の状態を目にし、英二らの安否についての心配をする花菜であったが、車のドアが開き、車外へと出て来た和馬達3人の無事な姿を見た事で、まずはホッと胸を撫で下ろした。
『みんな無事そうね。ああ、良かった……』
「みんな~、お疲れ様~」
「おう。ただいま花菜さん」
コンテナフェンス上から手を振る花菜に気付いた英二は、微笑みながら手を振り返す。
これから、安全地帯へと入る為、コンテナゲートへと向かって歩き出す3人であったが、どうやら和馬の体調はまだ完全には回復してはおらず、足元がややふらついている事から、英二は体を支えるべく彼の側へと直ぐに駆け寄ってゆく。
「和馬君、大丈夫か?ほら、肩を貸そう」
「あっ。英二さん、ありがとうございます。でも、大丈夫。何とか、自分で歩けますよ」
「本当に大丈夫かね?」
「ええ。まあ、大丈夫」
「そうか。わかった。それじゃ、今から花菜さんにゲートを開けて貰うから、ハシゴを使わずにそこから中へと入ろう。お~い、花菜さん。ゲートを開けてくれるか?」
「貴方、わかったわ。ちょっと待ってて下さいね」
英二からコンテナゲートを開ける様、頼まれた花菜は、コンテナフェンス内側に設置された階段を使い、ゆっくりと下側へと向かって降りて行く。
安全区域である敷地内へと降りた花菜はコンテナゲート前に停車させてあったクレーン車の前まで小走りに進んで行くと、車両のドアを開け、運転席へと乗り込んだ。
直ぐ様、エンジンを始動させ、クレーンアーム部分が操作出来る条件が整った所で花菜は、アクセルペダルへと足を掛け、操作レバーを両手で握る。
ここから先は、このクレーン車を操作する事でゲートとなっているコンテナをワイヤーで吊り上げ、人が通る為の隙間を開けるのだ。
「あっ!そうだ、そうだ。うっかり忘れる所だった。花菜さんがゲートを開けてくれている間にタンクローリーの給油ホースを取り出しておこう。すまんが雄太君、ちょっと手を貸してもらえるかな」
「了解です」
この後、積載タンクから軽油を抜き出すには一旦、給油ホースを敷地内へと持ち込んで、ホース先端部分への加工が必要となってくる為、先ずは車体側面に取り付けられている収納ケースを開けた英二と雄太は、収納されている給油ホースを掴み、ゆっくりと引っ張り出した。
「あ~、こいつは重いな」
「うわっ、全くですね。くそっ!マジで重い!」
ズシリと重い給油ホースを肩へと担いだ英二と雄太は、目の前のゲートを目指し、ゆっくりと慎重に歩き始める。
更にその隣では、コルトM4を構えた和馬が体調不良を抱えつつも、彼等の護衛の為、周囲を警戒しながら随伴する。
幸いな事にこの場所が元々、人口の少ない郊外である為か、今の所、感染者らしき者の姿は見当たらず、コンテナフェンスのゲートが開き始める迄の間も特に襲撃を受ける事はなかった……。
最後まで、読んで頂きましてありがとうございます。
次回も宜しくお願い致します。