(77) 燃料調達18
読者の皆様、お待たせ致しました。
今回、和馬は感染者から逃げ切る為の策として、アレを使用します。
それでは、第77話のスタートです。
「これは、雄太さんがやった策の二番煎じにはなるが、ここは一丁、奴等にも耳鳴りになって貰うとしよう」
現在の危機的状況を打開する為の策を思いついた和馬が、そう呟きつつ直ぐ様、ウエストポーチから引っ張り出したのは、M84スタングレネードであった。
このM84スタングレネードとは、アメリカ海兵隊ヘリコプター墜落現場での感染者遭遇戦において、雄太が感染者に対して使用した閃光手榴弾であり、墜落していたヘリコプター内で各種銃器を手に入れた際、和馬達はこのM84をそれぞれ2本ずつウエストポーチ内へと収め、持ち帰っていたのだ。
どうやら和馬は、前に雄太が行った策と同じく、このスタングレネードを使用する事で感染者達の視覚、聴覚を麻痺させ、その隙に危機的状況から上手く脱する考えの様である。
ただし、この案を実行する上で気掛かりなのは、屋外、しかも白昼において、スタングレネードの閃光能力が充分に発揮出来ない事は、先の感染者遭遇戦での使用により、既に実証済みであり、それでは策として考えてみても不充分なのではないかという点である。
そこで、和馬は、スタングレネードを使用しても感染者の足を止められなかった場合も想定し、投かく後は直ぐ様、ベレッタM9による連続射撃を加える二段構えの防御体制をとる事にした。
『よしっ!行くぞ!』
ここで、右手に握っているベレッタM9を一旦、小脇へと挟んだ和馬は、今度は左手に握り締めたスタングレネードの安全ピンのリングへと指を掛けると安全レバーを外す為、そのまま一気にピンを引き抜いた。
『せめて、爆音だけでも奴等に効いてくれよ』
スタングレネードが放つ160デシベルの爆音が感染者達を失神状態へと陥らせる事を期待し、和馬は迫り来る感染者へと向けて、安全レバーの外れたスタングレネードを力一杯、放り投げた。
投かくした事で激しく回転しながら宙を飛ぶ円筒型のスタングレネードは、そのまま感染者の前方へと落下し、一度だけ小さくバウンドした後に対象の足元へと向かって勢い良く転がってゆく。
間もなく訪れるであろう、閃光と爆音に備える為、直ぐ様、目を閉じた和馬は両耳を手で塞ぎながら頭を下げる。
『頼むぞ。効いてくれよ!』
策が狙い通りに上手くいく様、和馬が心の中で祈った次の瞬間、周辺にはスタングレネードが放つ100万カンデラの閃光と共に160デシベルの爆音が響き渡る。
びりびりとした空気の振動が肌へと伝わって来る中、一呼吸置いてから和馬は、右手に握り締めたベレッタを前方へと突き出し、感染者達へと向けて狙いを定める。
『おっ!効果があったみたいだな』
ベレッタM9を構えつつ、フロントサイトと感染者とを重ね合わせた先には、こめかみに両手を当てたまま、まるで目標を見失ったかの様にふらつき歩く感染者達の姿が見えており、どうやら和馬が放ったスタングレネードは限定的ながらも、その持ちうる効力を発揮してくれた様であった。
このスタングレネードの威力により、視覚の麻痺よりも聴覚及び平衡感覚への影響を大きく受ける事になった感染者達は足がふらつき、最早、獲物を追う所の話では無くなっており、今ならば絶不調な和馬の足でも何とか逃げ切る事は出来そうだ。
『スタングレネードが時間を稼いでくれている今の内に何とか逃げ切らないとな』
感染者達を行動不能へと陥らせたスタングレネードも実際の所、三半規管へと与えたダメージについては一時的な物に過ぎず、その事を充分承知している和馬は、今の内に一刻も早く、この場を離れる為、急ぎ歩き出す。
何しろ、脅威排除の切り札として放ったM84スタングレネードが響かせた爆音は、付近にて徘徊していた更なる別の感染者を呼び寄せる事になるのは間違い無く、もしも次に集団で襲われた場合も今の脱出方法がまたも上手く通用するとは限らない。
『さっさと、この場から離れないとな』
再び、やって来るであろう感染者達の襲撃に備え、周囲に銃口を向けながら進む和馬の耳元にトラックが発するディーゼルエンジン音が聞こえて来る。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます。
ここで、現在の執筆進捗状況なのですが、下書きは第2章が終了し、いよいよ第3章分が始まった所です。
ゆっくりペースではありますが、加筆修正しつつ随時投稿してゆく予定ですので、今後とも宜しくお願い致します。