(76) 燃料調達17
読者の皆様、お待たせ致しました。
今回も感染者との死闘が続きます。
それでは、第76話の始まりです。
『よし、ここだ!』
ふらつく感染者が口から血を吐き出しつつ、片腕を力無く下げたその一瞬を見逃さなかった和馬は、大きく足を踏み出し勢いをつけると、そのまま相手の腹部へと目掛けた強い左足の蹴りを放った。
攻撃の一手として放たれた痛烈な一撃をまともに受けた感染者は、更に口から鮮血を吐き出しつつ、後方へと向かって大きくよろけ、そのまま、揉んどり打つ形で背中から勢い良く路上へと転倒する。
道路上へと強かに背中をぶつけた感染者が唸り声を上げながら、肩を左右に動かしもがいている隙にポーチ内から予備マガジンを掴み出した和馬は、ベレッタM9のマガジンリリースボタンを押しながら空マガジンを落下させ、左手に握った予備マガジンをマガジンキャッチへと素早く装填させた。
小気味良い装填音を立てつつ、マガジンチェンジを終えたベレッタのスライドを引いた和馬は直ぐ様、ハンマーを引き起こし、射撃体勢を整えると火薬残渣のこびり付いた黒い銃口を再び起き上がろうとして上半身をもたげ始めた感染者の胸元へと向けて、素早く構えた。
2ヶ所のアイアンサイトで照準を合わせつつ、ゆっくりと一歩ずつ近付いた和馬は、起き上がろうとしている感染者の胸板へと右足を乗せると、そのまま体重を掛け、まるで踏みつける様な形で相手の体を再び地面へと押し戻した。
ここで和馬は、相手の右腕へと深々と突き刺さっているマチェットのグリップを掴むと刃を左右へと捻る様に動かした後、力を込めて一気に引き抜いた。
骨まで達する程、しっかりと食い込んでいたマチェットの刃が一気に外れた事で、大きく開いた傷口からは赤黒い血液がみるみる間に噴き出して来るが、痛みなど一切感じる事の無い感染者は、流れ出る血液など全く気にもせずに胸元へと乗せられた和馬の右足に食らいつこうと首をもたげ始める。
今、胸の上へと乗せられた右足には相手が最も渇望している温かな血液が流れており、この血液に対する激しい欲求の為、感染者は頭を左右に振り回しながら口を開け、赤黒く染まった歯を幾度となくカチカチと鳴らし続ける。
『俺が、この足をどかしたら、直ぐに起き上がって噛みつくんだろうな。別にあんたに対して恨みがある訳じゃないんだけど、ここはこのまま静かになってもらうよ』
思わず、耳を塞ぎたくなる様な叫び声を上げ始めた感染者の頭部へと銃口を向けた和馬は、そのままためらう事無くトリガーを引き、放たれた一発の弾丸によって眉間を撃ち抜かれた感染者は反動により、後頭部を激しく地面へと打ち付けた後、直ぐに沈黙した。
眉間から勢い良く血液を吹き出させ、激しく痙攣を始める感染者の体から右足を退かした和馬は左手に持った血に塗れたマチェットを大きく一振りした後、この場から離れる為、再び歩き始める。
渋滞した車列の間を通り抜け、反対車線側を前進し始める和馬の後方からは感染者の発する咆哮が幾多も木霊しており、振り返りつつ、ベレッタを構える彼の目には獲物を狙って迫り来る感染者達の姿が映っていた。
「くそっ!また来やがった。これじゃあ、全くきりがないな。相変わらず耳鳴りだって酷いし、全く今日はとんだ厄日だぜ」
ぶつぶつと不満を呟いた和馬は、右手に握ったベレッタM9の銃口を接近中の感染者達へと向け狙いを定め様とするが、残念ながら、今の彼には迫り来る5人の感染者達全てに対し、銃弾を正確に当てられる自信は無かった。
『俺の腕前じゃあ、あいつら全員に正確に弾を当てるのは絶対に無理だな。ただ、だからと言って、今の俺じゃ、走って逃げるのは無理だし、さてどうする?くそっ!せめて、頭がふらつくのと耳鳴りの音さえ何とかなればなあ。ん?いや、待てよ。音……。そうだ!音だ!こいつならいけるかも!』
今、この危機的状況を乗り切る為の策を思いついた和馬は、マチェットをシースケース内へと収めると、今度は腰に付けているウエストポーチの中へと手を入れた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます。
次回、和馬が必殺のアレを使用します。
それでは、次回をお楽しみに!