(71) 燃料調達12
読者の皆様、お待たせ致しました。
今回も襲いかかる感染者と和馬の死闘は続きます。
そうそう。忘れちゃいけない。雄太もチラリと登場します。
和馬がベレッタM9を握り締めた右手を前へと伸ばし、アイアンサイトにて照準を合わせている先には、頬の肉が大きく欠損し、赤黒く血に染まった顔を次第に近づけながら侵入して来ようとする感染者の姿が見えていた。
運転席のシートへと両手を付き、今にも相手に喰らい付こうと大きく口を開け、歯を剥き出している感染者の顔面と銃のフロントサイトとを重ね合わせた和馬は、握り締めたベレッタM9のトリガーを素早く引く。
響き渡る射撃音と共に銃口から放たれた9mmパラベラム弾は、迫り来る感染者の眉間を正確に射抜き、受けた銃弾の威力によって陥没した銃痕からは感染者の鮮血が辺り一面へと向けて激しく飛散する。
飛び散る血液をタクティカルベストに浴びながらも和馬は、怯む事無く間髪を入れずに次弾を撃ち、この銃弾の衝撃によって頭部を大きく仰け反らせた感染者は、そのまま一気に運転席上へと崩れ落ちる。
運転席に顔を押し付けたまま、激しく体を痙攣させ始めた感染者の眉間から流れ出した血液は、みるみる間にシートを真っ赤に染め上げ、その有り様を間近で見ている和馬は顔へとかかった血液を手で拭いながら小声でこう呟く。
「こいつは、囲まれてしまう前に車から出ないとな。ううっ。まずいな。何だか頭がフラフラする。こりゃあ、イヤーマフを耳に付けるべきだったかもな。とは言っても、イヤーマフなんて物は持ってはいないけど」
実はこの時、狭い車内において度重なる発砲を行った事により、繰り返し激しい射撃音を耳にしていた和馬は、今度は酷い耳鳴りに悩まされ始めていたのだ。
更に悪い事に耳鳴りの影響からか、頭も少しふらつき始めていた和馬であったが、それでも下手にこのまま車に残り続け、感染者達に取り囲まれてしまう危険性を考えると、いつまでも車内に留まっている訳にもいかなかった。
『直ぐにここから出よう……』
助手席側のドアノブを引いた和馬は、ドアを大きく開くと周りを見回しながら、ゆっくりと車外へと出た。
『駄目だ。どうしても頭がふらつく……』
悪い予感はしていたものの、いざ立ち上がってみると思ったよりも頭のふらつきは酷い様だ。
これは、恐らく狭い車内で何度も耳にした激しい射撃音が鼓膜を通じて平衡感覚を司っている三半規管へと悪影響を与えてしまったからなのだろう。
こうなると最早、今の状態のままでは、走って逃げる事自体もう無理だと悟った和馬は、腰から下げているマチェットを左手で抜き取ると、右手にはベレッタM9を構えながら、ゆっくりと歩き出した……。
一方、その頃、和馬が感染者との接近戦を行っている地点から、やや離れた場所においては、雄太が運転するタンクローリーが鳴り響かせたクラクションと派手な蛇行運転によって感染者達を惹き付け始めていた。
勿論、これは感染者達がこれ以上、和馬のいる場所に近づかせない為の陽動作戦であり、雄太の策にまんまとはまった感染者達は次々とタンクローリーを目指して集まり始めていた。
『よし、よし。こっちに奴らの関心が集まり始めているぞ』
運転席にてステアリングを握る雄太は、自分の車へと向かって次々と走って来る感染者達の姿をフロントガラス越しに見ながら思わずニヤリと笑った。
どうやら、雄太の策は上手く成功した様であり、和馬を追って行った感染者の何人かは、そのまま向きを変えて引き返し、今度はタンクローリーへと向かって走って来ている。
「よっしゃあ。ここでターンをするか」
群がる感染者達を引き連れつつ、ここで大きくUターンをしたタンクローリーは前方にて障害物になっている放置車両を避けながらも感染者の注意を引く為、更に蛇行運転を続けてゆく。
タンクローリーを目指して次々と集まって来る血に飢えた感染者達は、運転者を狙って車体側面へと向かい急接近しては来るが、しきりに蛇行運転を続ける大きな車体相手では全くどうする事も出来ず、接近する度に後方へと大きくはね飛ばされていた……。
最後迄、読んで頂きましてありがとうございます。
次回は、英二さんも登場します。
お楽しみに!