(64) 燃料調達5
読者の皆様、お待たせ致しました。今回は、和馬達が予定外の燃料ホースのトラブルで頭を抱える話です。それでは、どうぞ!
「それじゃあ、格納ケースから圧送用ホースを取り出してもらえるかな」
「解りました」
目の前に見える車体側面に取り付けられた長方形型の格納ケースへと手を伸ばした和馬と雄太は、留められているロックを端から順番に外し、はめ込まれていた金属蓋をゆっくりと下へと下げた。
「あ〜、圧送用ホースって、これかあ」
「雄太さん。これ結構、重たそうだから2人で両端を持ちながら、ゆっくりと降ろしましょう」
「よし、解った。それじゃ、慎重にいこう」
「あっ!2人共、ちょっと待ってくれ」
和馬達が格納ケース内へと手を伸ばし、収納されている太いフレキシブルホースを掴もうとした時、何かに気付いた英二が突然取り出しを止める様に言ってきた。
「えっ?どうしました。英二さん」
「いやあ。問題発生なんだよ。参ったなあ、これは。ほら、これを見てくれ。これじゃあ軽油を抜き出せないよ」
「あっ!」
やれやれと頭を掻きながら、英二が指差しているフレキシブルホースの先端部分を見た和馬は、自分達がこれからやろうとしていた事の致命的なミスにここで気づく。
「あ〜、確かにこれじゃあ抜き出せないですね」
「だろう。いや、参ったな。これどうするかな」
「ちょっと、予定を変更するしか無さそうですね」
当初の予定では、タンクローリー後部の抜き出しバルブへと圧送用ホースを繋ぎ、その後、バルブを開ける事で燃料携行缶へと軽油を充填する筈だったのだが、残念ながらホースの出口側には接続用カップラーが取り付けられている為に今の状態では、そのまま抜き出す事が出来ない様である。
実は本来、燃料圧送用ホースはガソリンスタンドの地下タンク行きラインとタンクローリーとを送油用に接続する為の物であり、ラインに繋がずに直接、軽油を抜き出す事を想定している訳では無い為、今の状態では接続用カップラーの径が余りにも大き過ぎるのである。
その為、上手く軽油を燃料携行缶の小さな口へと注ぎ込むには、カップラーの径を更に細く絞る為のレジューサー(カップラーに接続してライン径を絞る器具)が必要であり、今、その様な物を持ち合わせてはいない英二達は、この想定外の状況に対し、どうしたものかと首を傾げ考え込む。
「いやあ、こりゃあ出直しだなあ。こいつから燃料を抜き出す為には、どうしてもレジューサーと漏斗が必要だ。なあ、和馬君、雄太君。今から、このホースを持ち帰って加工するから、儂のトラックまで運んでくれないか?」
「えっ?今から、また家に戻るんですか?」
「そうだよ。ホースを持ち帰って加工しないことには、このままではどうにもならないからね」
「そうは言ってもなあ。一旦帰って、また戻って来る間にこの一帯の状況が悪くなったりはしませんか?」
「確かに雄太君の言う通り、ここにまた感染者達が舞い戻って来る可能性もあるだろうが、ただ何にしてもこのままじゃ、どうやっても燃料は抜き出せないぞ」
「う〜ん。なら、仕方無いか」
「いや、ちょっと待った。英二さん、雄太さん。俺に良い考えがあります」
このままでは、作業が遅れる上、下手をすれば今より状況が悪くなる可能性がある事を心配する雄太を前にし、和馬は何か名案でも閃いたのか、タンクローリーの車体を見つめ小さく頷きながら微笑んだ……。
最後まで読んで頂きましてありがとうこざいます。次回は、1月1日投稿予定です。お楽しみに❗️