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(63) 燃料調達4

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回は、話の内容が少々気持ち悪いので、グロ苦手な方はご注意下さい。

それでは、第63話の始まりです。

「和馬君、雄太君。ここは儂が行こう」



もしも、音の発生源が脅威対象であった場合、発砲した際の銃声が周囲一帯へと響いてしまう事を懸念した英二は、ここは射出音が比較的小さなクロスボウを使用する事が一番懸命だと考え、射出先端部分を車両へ向けると自らが先に前へと出た。

一方、和馬と雄太は、もしも英二が止め損じた場合を考慮し、両サイドへと回ると援護射撃の体勢を整える。



「英二さん。もしも止め刺しを失敗した時は、すぐに後ろへと下がって下さい」



「解った。その時はよろしく頼むよ」



一度深く深呼吸をし、クロスボウのセーフティーを解除した英二は、和馬達の顔を見て小さく頷くと運転席側ドアへと向け更に前進してゆく。

汗ばむ手でバレルを握り締め、2ヶ所のアイアンサイトを重ね合わせた先には、大きく開け放たれ血液飛沫が付着した運転席ドア内側が見え、更に座席の上には突き出す様な形で2つの靴先を少しだけ覗かせている。

この光景により車内から聞こえる音源が人間の物であるのは確信へと変わり、果たしてそれが排除すべき対象なのかを突き止める為に英二は漂う悪臭に耐えつつ、ドア内側へと体を近づける。



「うっ!」




いつでも応戦出来る様、クロスボウのトリガーへと指先を掛け、車内が確認できる位置まで接近した英二は、アイアンサイトから見える予想外な光景を目の当たりにしてしまい、息が止まりそうな程の衝撃を受ける。




『ううっ!こいつは感染者じゃない!しかし、これは酷いな』




車内には懸念されていた感染者の姿が無かったかわりに、被害者と思わしき亡骸が助手席側ドアへと頭を預ける形で座席に横たわっており、全身にわたって、たかり蠢く無数の昆虫が腐肉へと食らい付く事で咀嚼音と羽音による不気味な多重音を途切れる事無く発し続けていた。

更にこの被害者は感染者によって顔面を喰いちぎられたのか、性別すら解らぬ程に上皮組織を大きく失い、僅かに残された腐肉にも甲虫類がびっしりとまとわりついている有り様だ。




『これは、もしかしたら事故を起こして気絶した所を奴等に襲われたのかも知れんな。当然、痛みに気付いて逃げ様と暴れたんだろうが、それでも相手の力には敵わなかったという所か。まさかなあ。自分の人生がこんな形で終わりを迎えるなんて思いもしなかっただろうな。こんな姿を見ていると、もうこの世の中じゃ安らかな死を迎える事自体、難しいんじゃないかと思えてくる』



至る箇所から腐汁が流れ出している無残な亡骸からアイアンサイトの照準を外し、小さな溜め息をつく英二の両隣では、和馬と雄太が車内を確認する為、銃を構えながら更に近付いてくる。



「英二さん。車内はどんな様子ですか?」



どうやら、英二の様子から見て、車内には脅威対象がいない事を悟った和馬達は、音の正体を確認する為、車内を覗き込もうとするが、英二は彼らに対しこれ以上近付かぬ様、手を伸ばし制止をする。



「いや、これは見ない方がいい。トラウマになるだけだろうから。さあ、それよりも先を急ごう」



ゆっくりと車から離れ、構えていたクロスボウを下げた英二は、この哀れな死者への冥福を祈る為に小さく手を合わせた後、路上に置いた燃料携行缶を手にすると目指すタンクローリーへと向かって再び前進を開始する。

埃にまみれた車列へと銃口を向けながら前進を続ける和馬達の目前に、いよいよ目的のタンクローリーが渋滞列によって身動きが取れない状態で見えてくる。

ここで和馬と雄太は、タンクローリーの陰側や後部に脅威対象が潜んでいないか、二手に分かれ念入りに安全確認を行う。



「問題なし。クリア」



「後ろ側もクリア」



「そうか。了解した」



タンクローリー周辺の安全確認を終え、更に後方に並ぶ渋滞車両に脅威対象が紛れてはいないか、双眼鏡で哨戒行動を取る雄太の隣では、タンクローリーの燃料タンク側へと近付いた英二が、持っていた燃料携行缶と手動式給油ポンプを地面へと下ろし軽油の抜き取り準備を開始する。




『さあて、まずはここから確認してみるとするか』




車体の側面に設置されている角形の燃料タンク前へと立ち止まった英二は、早速、タンク内の燃料残量を確認する為、手の甲を使って軽く数回程、繰り返し叩いてみる。




『ん?音が響くな。やれやれ、初っぱなから当てが外れたか』




この時、英二は燃料タンク内が満タン状態である事を期待していたのだが、残念ながら叩いて聞こえてきた音は予想とは違い、物が詰まった様な鈍い音では無く、空間部分が多い事を示す響く様な軽い音であった。



「あ〜、こりゃあ駄目だなあ」



「もしかして、外れですか?英二さん」



「ああ。残念ながら、タンク内には期待できる程の量は残ってないな」



「なら、本命の積載タンクはどうです?」



腕を組んだまま、溜め息をついている英二の隣へと並んだ和馬は、目の前の大型積載タンクへと指を差す。



「あ〜、これは流石に大丈夫だろう」



「じゃあ、ここから先はいよいよ本命である積載タンクからの抜き取りという訳ですね」



「そうだな。それじゃ、肝心の積載タンクの方に取り掛かるとするか」



一旦、道路上へと置いていた燃料携行缶と手動式給油ポンプを再び両手に持った英二は、和馬と共に今度は車両後部へと向かって歩いてゆく。



「これで、やっと燃料が手に入りますね。雄太さん」



「そうだね。本当にやっと……だな」



やっと軽油が入手出来るチャンスの訪れに安堵の表情を浮かべる和馬達の後ろへと立った英二は、両手の荷物を下ろすと彼らの肩へとそっと手を乗せる。



「2人共、燃料確保には相当苦労していたみたいだな。でも、もうこれで大丈夫だ。好きなだけ燃料が手に入るぞ」



「それで、英二さん。どこから軽油を抜くんですか?」



「ああ、そこからだよ」



積載タンク後部側へと立つ英二の目の前には、ハンドルの付いた燃料抜き出し用バルブがあり、英二が考えた計画では、このバルブを開く事で出てきた軽油を燃料携行缶へと充填し、そのまま回収する手筈であった。



「よし、じゃあ早速、燃料抜き出しバルブを開けて軽油を抜き出すとしよう。ただし、それにはまず、送油用に使うホースの類いが必要になるから、手始めにそこにある圧送用ホースの取り出しから行おう」



「了解です」



燃料携行缶と手動式給油ポンプを再び路上へと置いた英二は、和馬達と共に圧送用ホースが格納された車両側面側へと向かって歩いてゆく。




最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次回は、12月20日投稿予定です。

お楽しみに!

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