(61) 燃料調達2
読者の皆様、お待たせいたしました。
今回は、ガソリンスタンドへと辿り着いた和馬達が、目標であるタンクローリーを発見します。
果たして、ここから先、何の障害も無く、目的を果たせるのでしょうか?
それでは、第61話「燃料調達2」の始まりです。
充分な状況確認を行いつつ、依然として慎重に徐行運転を続ける英二達は、懸念されていた感染者との遭遇も無く順調にガソリンスタンドの目前にまで接近しようとしていた。
「英二さん。追い越し車線側にも随分と放置車両があるんですね」
「ああ、これもガソリンスタンドの給油待ちだった車の列だよ。ほら、対向車線側にあるガソリンスタンドの前にもずらりと車が並んでいるだろ。当時、少しでも燃料を手に入れ様とガソリンスタンドに殺到したお陰で上下線共に大渋滞になっていたらしいんだ。結局、その後、連中がマイカーを放置したお陰でこの有り様さ」
「成る程ねえ。でも、あの当時じゃ、給油制限だってされていただろうに、それでもこれだけの長蛇の列を作ってでも給油を待っていたという事は、少しでもガソリンを手に入れる為に相当切羽詰まっていたという事か……」
「ああ、そうだろうね。感染者共がうようよしている人口密集地帯から少しでも早く離れる為には、移動手段としての車が必須な訳だし、長距離の移動に備えるとなると少しでもタンクに燃料を入れておきたかったんだろう。ただ残念ながら……」
「給油待ちの所を感染者集団に襲われた……」
「そういう事だ」
「ところで英二さん。この車線、放置車が邪魔でもうこれ以上、進めそうにないですよ」
「ああ、そうだな。仕方無い。こっちへ行くしかないか」
前方にて列を成し、今や進行上の厄介な障害物と化して鎮座する放置車両の集団を避ける為、英二は対向車線側へと向けハンドルを大きく右へと切る。
車線中央分離のマーカーとして幾つも並べられたオレンジ色のラバーポールを難なく押し倒したトラックは対向車線側へと進入すると、車線を塞ぐ数十台もの放置車両を横手に見ながらガソリンスタンドへ向けて逆走を開始する。
程無くして青い大型看板が掲げられたガソリンスタンドへと接近したトラックは、スタンド入口付近で少し空いた車列の切れ間から再び元の車線へと戻り、上手く渋滞の回避を完了する。
「ようし、上手く躱したぞ」
「雄太さん。あれ見て下さいよ。酷い有り様だ……」
和馬がそう言いながら指差す先には、ガソリンスタンド入口側にて血液の飛沫がボンネット上一面に付着した車両が多数放置されており、更にそれら車両の下には無数の噛傷を負った犠牲者が無残な骸を晒していた。
「最悪だな」
「あれが逃げられなかった者の末路か……」
夏の強い日差しによって既に腐乱が進んでいる遺体と変色した血液による赤茶けた手形が幾つも残された車両を眼にした雄太は、余りに凄惨な状況に思わず顔をしかめる。
「ああ。この人達、車から慌てて逃げ出したものの、結局すぐに捕まっちまったんだな」
「こうして目の当たりにしてみると、この世の終わりを思わせる最悪の光景だよ。おっと!まずい!ドライブはここまでか」
渋滞回避に成功し、ガソリンスタンド前における長蛇の車列を横手に見ながら走行をするも束の間、直ぐに走行車線は発生していた多重衝突によって大きく塞がれ完全に前進を阻まれてしまう。
「くそっ、仕方無い。ここで車を止めよう」
街灯へと激突し、車体フロント部分を支柱へと大きくめり込ませているセダンを避けた英二は、更に前方を塞いでいる3台の事故車両の手前で已む無く車を停車させた。
「ここから先は歩きになるな。はあ〜、計画が狂っちまった」
どうやら、目標のタンクローリーまでは難なく車が接近でき、隣へと横付けまで出来ると英二は思っていた様であるが、当てが大きく外れてしまった所をみると、遠方から双眼鏡を使った視認程度では残念ながら正確な道路状況の把握までは出来ていなかった様である。
「くそっ、こりゃあ、燃料缶を持って往復しなきゃならないぞ」
「まあ、流石にこれじゃ仕方無いですね。ところで英二さん。肝心のタンクローリーは何処に?あっ!あれか!」
ガソリンスタンド周辺の道路状況を目視確認していた雄太は、現在地点より更に50m程先において、青いボディーカラーのタンクローリーが渋滞車両に混ざる形で停車している事に気付く。
「どうやら、あのタンクローリーは燃料の配送に来たものの、この渋滞にはまって結局はガソリンスタンドに燃料が届けられなかった様だ」
「という事は、燃料は……」
「そう。積載タンク内に満載されたままになっているという訳さ」
「そうか……。でも折角、スタンドに燃料を届けに来たというのに、よりにもよって給油待ちの渋滞に巻き込まれて届けられなかったなんて何か皮肉な話ですね」
「でも、そのお陰で俺達に燃料が入手出来るチャンスが生まれたんだよな」
「その通り。もし、予定通りに燃料がガソリンスタンドに届けられていたら、儂らが手に入れられる機会は生まれなかったよ」
「俺達にとっては、幸運だったという訳ですね」
「まあ、そういう事だね。さて、それじゃ、いよいよ燃料を抜き取りに行くとするか。和馬君、雄太君。今の所は、徘徊している感染者は見当たらない様だが、こちらから死角になっている所に潜んでいる可能性もあるから充分に注意してな」
「了解。放置車両の陰には、特に要注意ですね」
「すぐ側のガソリンスタンドにも要注意だな」
「ようし、みんな、細心の注意で行こう」
これより車外へと出る為、エンジンを切った英二は、ドアノブへと手を掛けると、運転席側のドアを静かに開けた……。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
次回は12月1日頃に投稿予定です。
お楽しみに!