表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/86

(58) もう1人の住人

読者の皆様、お待たせいたしました。

さて、前回は最後にチラッとだけ別の住人が登場しましたが、今回はこの女性と和馬達とのやり取りがメインの話となります。


では、第58話「もう1人の住人」の始まりです。

『あれっ?誰かこちらに来るぞ』




足早に歩いて来たインディゴブルーのジーンズに赤黒チェックのネルシャツを着こなした白髪の女性の手には、一丁のピストルクロスボウが握られており、コンテナフェンス上に立つ和馬達をじっと睨み付けると、今度は射出先端部を和馬へと向け、正確に照準を合わせ始めた。



「ちょっ、ちょっと待った!」



相手に警戒された上、確りと狙いをつけられた事に動揺した和馬は、慌てて上げた両手をオーバーに振りながら、敵意が全く無い事を必死にアピールし続ける。



「俺達、何もしませんよ!」



「あ〜、待った。待った。この2人、え〜と、中城君と川島君が言う事は本当だよ。だから、花菜さん。クロスボウを下ろしても大丈夫だ」



和馬達が怪しい者達では無い事を慌てて説明する英二であったが、花菜と呼ばれた女性はどうやら、すぐには2人を信用出来ないらしく、構えたクロスボウを決して下げ様とはしなかった。



「本当に?英二さん、その人達に騙されてない?」



「いや、花菜さん。この人達は大丈夫だよ」



「じゃあ何で、こそこそと無断でフェンスに上がろうとしていたの?私達に見つかったら困るから、そういう事をするんでしょ?ねえ、英二さん、騙されちゃ駄目よ。どうせこの人達、何かを盗む目的でここに来たんだろうから」




確かに和馬達が、所有者に黙って無断でコンテナフェンスへと上がろうとした事は事実であり、相手から略奪者ではないのかと疑われるのは無理もない話ではあった。



「中城君、川島君。花菜さんは、ああ言ってるけど、どうするかね?」



一見、和馬達の肩を持とうとしているかの様に見えた英二だったが、身内と思わしき花菜のいる手前もあって、どうやらここは中立の立場を取る様である。




『さあ、どうする?どうやって、相手に誤解を解いてもらう?考えろ、考えろ』




しかし今、急に考えた所で相手が納得する様な弁解が思いつかなかった和馬は、苦し紛れにこんな返事を返す。


「黙ってコンテナへと上がろうとした事は、確かに悪かったと思います。でも、ここに用事があっても、このフェンスには呼び鈴が付いている訳では無いし、どこが入り口なのかも解りません。だから、そうかといって中の人を呼び出すのにクラクションを鳴らす訳にもいかないですしね」



「クラクションか。まあ、そうだな。下手にそんなもん鳴らされちまったら感染者どもが一斉に集まって来るだろうし、そんな事をしたら、儂が速攻でこいつを使っていた所だ」



英二はあの時、和馬達がおかしな行動をとる様であれば、すぐにでも問答無用で撃つつもりであった事を告げ、肩に掛けているクロスボウのストックを軽く手で叩いてみせた。



「でもなあ、中城君の言う事は、もっともな話でもあるんだよなあ。そうは思わないかい?花菜さん」



「まあ、言われてみれば、そうねえ。例え、用事があっても、こちらに伝える方法が無いのなら、そういう行動をとっても仕方がないのかも知れないわね」



今の英二のフォローにより、花菜が柔和な姿勢を見せ始めた事を見逃さなかった雄太は、ここで透かさず冗談を交えながら弁解を行う。



「そうでしょ。用事があっても、そちらに電話連絡する訳にもいかないし……。そうだ。火を焚いて狼煙でも上げれば良かったかな?」



「狼煙?ふふふっ。あなた、面白い事を言うわね」


雄太の何気無い冗談に対し、口元へと手を当て小さく笑った花菜は、一先ず警戒を解く気になったのか、構えていたクロスボウのセーフティーを掛けると射出先端部分をそのまま下へと向けた。



「ふ〜う。一先ず何とか相手の警戒は解けたみたいだな」



「はあ〜、焦った……」



何とか、危機的状況を脱した事で安堵の溜め息をつく和馬と雄太の姿を見ていた英二は、コンテナフェンス内側に設置された金属製階段の前に立っている花菜へと向き直ると、コンテナ上へ上がって来る様に呼び掛ける。



「花菜さん。今から2人を紹介するから上がっておいで」



「解ったわ。今、行くわ」



握り締めているクロスボウのボルトを外し、弓部を空撃ちした花菜は、目の前にあるアルミ製階段のステップへと足を掛ける。



「足元に気をつけてな、花菜さん」



「ええ、ありがとう。英二さん」



それなりに幅はあるものの、手摺が全く取り付けられてはいない階段をゆっくりと慎重に上がって来る花菜の元へと歩いて行った英二は、大切な人をこの場へと迎える為に紳士的に手を差し伸べる。



「さあ、花菜さん」



「あっ、悪いわね。ありがとう」



差し伸べられた手を握る花菜をコンテナ上へとエスコートした英二は、そっと彼女の背中へと手を回した後、側に立つ和馬達を紹介し始める。



「花菜さん。紹介しておくよ。こちらが中城和馬君。それから、そちらが川島雄太君。2人には訳あって、今回ちょっと儂に協力をして貰う事になった。それから、中城君、川島君。こっちが儂のかみさんである花菜さんだ」



「初めまして、川島雄太です」



「中城和馬です。よろしくお願いします」



深々と頭を下げる若者達の姿を見た花菜は、先程とは変わって2人に対し良い印象を受けた様であり、彼女も和馬達へと向き直ると丁寧に頭を下げた。



「森川花菜です。先程は、あなた方にあんな物を向けてしまって申し訳なかったわ。だけど今は、こんな世の中だし、強引に者を奪おうとする様な物騒な輩も多いから、あんな行動を取ってしまったの。それでも、あなた達を驚かす様な無礼をしてしまった事には変わらない訳だし、出来る事ならば許して欲しいんだけど……」



「いえ。許すも何も、俺達にも落ち度があったのは事実な訳だし、どうか頭を上げて下さい」



「和馬君の言う通りです。俺達の方こそ、こんな形で進入した事で森川さんを驚かしてしまって申し訳ないと思っています」



「よし、よし。まあ、まあ、お互いに詫びた事で警戒心も解けたみたいだし、そろそろここいらで本題に入るとしようじゃないか」



「そうですね。そうしましょう」



「それでだ。儂が考えてみた各自の役割分担について聞いて欲しいのだが…」



ここで、路上放置されているというタンクローリーへと到着してからの各自の役割分担について英二から説明がなされ、軽油の抜き出し作業については英二が担当し、作業中の警護については和馬、感染者への陽動は雄太が担当する事が決まり、いよいよ燃料調達に向けて動き出す事となった……。




最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次回は、いよいよ目的のタンクローリーへと向けて出発します。

では、次回をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ