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(57) 交渉2

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回の話では、コンテナフェンスエリア内に住む老人と燃料調達に関するやり取りが行われます。

果たして、調達に関する交渉は上手くいくのでしょうか?

それでは、第57話「交渉2」の始まりです。


「どうする?和馬君。相手はクロスボウを下げるつもりは無さそうだぜ」



「じゃあ、雄太さん。今度は、俺が説得してみますよ」



「解った。頼むよ」



ここで雄太に替わり、今度は和馬が老人への説得を試みる。



「あのう、俺達があなたに対して危害を加えないという事を証明するのは、ちょっと難しいのですが、あなたが俺達を攻撃さえしなければ、こちらも銃を抜く事はありませんよ。それから、ここに軽油が無いと言うのなら、俺達はもうここにいても意味が無いので、直ぐにでもこの場から立ち去ります。ですので、そのクロスボウを下げては貰えませんか」



「う〜ん」



老人は、和馬が今言った言葉を信用すべきかどうか、少しの間だけ迷っていた様であったが、どうやら信用する気にでもなったのか、構えていたクロスボウをゆっくりと下げると発射が出来ぬ様、セーフティーを掛けた。



「わかった。今の君達の言葉に嘘は無さそうだな」



「良かった……」



和馬達は、一応相手が武器を下げてくれ、取り敢えずは何とか危機的状況を抜け出した事にホッと胸を撫で下ろす。



「ただし、まだ、あんたらを完全に信用した訳じゃないからな。もしも、少しでもおかしな素振りを見せたら、その時は……」



「ああ、勿論それは解っていますよ。とにかく、俺達はもう退散します。それじゃ、雄太さん行きましょう」



「ああ、そうだな」



腰のホルスターへと手を当てていた雄太は、ゆっくりと手を離し、敵意が無い事をアピールしつつ撤退の為、じわじわと後退りをし始める。



「雄太さん。キャビンの屋根から降りる時、足元に注意して下さいね」



「了解。ところでさあ、和馬君。軽油の入手についてはどうしよう?」



「いやあ、それが今の所は何も思いつかないし、もうお手上げ状態ですよ」



「そうなると、いよいよこのトラックを手放すしかないのか」



「う〜ん」



いよいよ、燃料切れによるトラック放棄の可能性が高くなった事から、渋い表情を浮かべたままキャビンの屋根から降り様としている和馬達に対し、意外にも老人の方から、こんな言葉が掛けられてくる。



「まあ、待ちなよ。あんたら、直ぐにでも軽油が欲しいんだろ?儂は確かに、ここには軽油が無いとは言ったが、在り処を知らない訳では無いんだ。もしも、儂がやろうと考えている事に協力してくれるのならば、軽油だって手に入らない訳でも無いぞ」



「えっ?協力?本当にそこに軽油があるんですか?」



「ああ、あるとも」



ここで、老人の提案に対し、不信感を持った雄太が和馬の側へと寄り、相手に聞こえぬ様、小声で耳打ちをする。



「あの爺さん、ああ言ってるけど、どうするよ和馬君。何だか今の話、怪しい気もするんだけど」



「ええ。確かにどこか引っ掛かる部分はありますね。そもそも、あの人が今の言葉通りに軽油の在り処を知っているのだとしたら、どうして自分で取りに行かないんだろう?」



「そうだろ。今は自家発電機の燃料としても軽油は欠かせない訳だし、今、持っていないと言うのなら、とっくに自分で取りに行っている筈だぜ。それに俺だったら、軽油の在り処を知っていたとしても絶対に誰にも教えない。それも俺達の様な、何処の誰かも解らない様な奴は特にね」



「まあ、そうですよね。あっ、いや、待てよ。本当は、あの人も軽油を手に入れたいんだけど、容易には手に入らない場所にあるんじゃないのかな?」



「或いは、最初から俺達を騙す気でいて、油断させてから突然、身ぐるみを剥がされるかだな」



どうやら、雄太はこの老人の事がどうにも信用ならないらしく、和馬に話し掛けつつも、老人に対し疑いの眼差しを向けている。



「でも、雄太さん。あの人が本当に俺達から物資を奪う気があるのなら、クロスボウを向けたあの時にやってませんかね」



「まあ……そうだな。確かにな。あの時は、爺さんの方が圧倒的に有利だったもんな」



「でしょ。だから、あの人は俺達から物資を奪ったり、騙したりする様には思えないんですよね」



「まあ、確かにそう言われてみればそうかな」



「雄太さん。これは、もしかしたら軽油が手に入る本当に最後の機会なのかもしれない。だから、雄太さん。話だけでも聞いてみませんか?」



「う〜ん、そうだなあ。和馬君がそう言うのなら、まあ一応、話だけでも聞いてみるとするか」



「何やら、2人でひそひそと話をしている様だが、話の方はまとまったかね?」



先程から相手に聞こえぬ様、小声で相談しあっている和馬達を見ていた老人は、待たされている事に対し苛立ちを感じてきたのか、今度はやや強い口調で尋ねてくる。



「ええ。まずは、そちらの話だけでも聞いてみようと思います」



「ほう。そうか」



「それで、さっきの話では協力すれば、軽油が手に入るかも知れないと言っていましたけど、一体その協力の内容とは何ですか?」



「あ〜、実はな。ここから10Km程、先へ行った所にガソリンスタンドがあるんだ。このガソリンスタンドに面した道路上には、配送途中だと思われるタンクローリーが放置されたままになっているんだが、要はそのタンクローリーから軽油を抜き取ろうという訳さ。ただし、そのタンクローリーから軽油を抜き取るのにはある厄介な問題があってな。その問題を何とかせん事には、タンクローリーに近づく事すら出来んのだ」



「なるほど。もしかして、その問題を解決する為の協力を俺達に頼みたいと?」



「まあ、そういう事だ」



「もしかして、その厄介な問題というのは、感染者達の事ですか?」



「ほう。察しがいいな。その通りだ。実はな。そのタンクローリーは、物資調達に出掛けた際に偶然見つけた物なんだが、場所が割合、市街地に近いせいもあって徘徊している感染者の数がやたらと多いんだ」



「やっぱり感染者か。どうりで軽油の在り処を知っていても取りには行けない訳だな……。あ〜、ところで、1つ聞きたい事があるんですけど」



「何かね?」



「俺達が徘徊している感染者達を何とかする為の具体的な案は何かあるんですか?」



「ああ、それなんだが、まずは感染者の集団を上手くタンクローリーから引き離さない事には、燃料の抜き取り作業自体が出来ない訳だ。そこでだ。まず、あんたらの内の1人が車を使って感染者の注意を引き、そのまま誘き寄せる」



「つまり、陽動という訳ですね」



「そうだ。次に感染者が上手くこちらの陽動に引っ掛かって誘き寄せに成功したら、その隙に儂ともう1人がタンクローリーへと行って燃料の抜き取りを開始する。この時の燃料抜き取りに関しては、儂が責任を持って行うから、もう1人はその間の護衛をしてくれれば良い」



「なるほど。まあ、手順については解りましたけど、奴らに対する誘き寄せ自体が上手くいきますかねえ」



「それは、やってみなければ解らんよ。まあ、もっとも、陽動が上手くいかない様なら、すぐに行動を中止すれば良いだけだし、今はお互いに軽油を必要としている事は間違いない訳だから、折角のこの機会を見す見す逃す手は無いと思うんだが、どうかね?」



「折角の機会を逃す手は無いか……」



「和馬君。聞いた感じでは、案としては悪く無いんじゃないか。どうだい?この話、受けてみないかい?」



どうやら、雄太は老人の説明を聞き終え、提案を受ける気になったらしく、和馬の肩に手を乗せながら小さく頷いている。



「確かに悪い話ではないですね。それで、軽油が上手く手に入った場合の此方の取り分はどうなります?」



「取り分か?そうだな……。あんたらのトラックの燃料タンク満タンになるまで給油できる量が取り分というのはどうかね?」



「満タンか……。まあ、それだけあれば充分だな。よしっ、解りました。それでいきましょう」



「よし、決まりだな。それから、今からお互いに共同戦線を張る上で、いつまでもあんたら呼ばわりするのも流石に失礼だろうから、お互いに名前だけでも名乗っておこう。まずは、儂の名は森川英二だ。よろしく頼む」



「自分は、中城和馬です。それから、こちらが……」



「川島雄太です」



「中城君と川島君か。まあ、何だ。このまま足場の良くない屋根の上で話をしているのも何だから、コンテナの上に上がって来てはどうかね?」



やっと警戒心を解いたのか、コンテナフェンスへと上がって来る様、手招きをした英二は、クロスボウのスリングベルトを手に持つと、そのままゆっくり肩へと掛けた。



「それじゃ、雄太さん行きましょう」



「そうだな」



つるつると滑り易い足元に注意しつつ、コンテナ側まで移動した和馬達は、金属製の縁へと手と足を掛け、一気にコンテナ上へと登り上がる。




『へえ〜。コンテナフェンスの内側はこうなっていたのか』




コンテナ上へと立った和馬達が先程から気になっていたフェンスエリア内へと覗き込んだその先には、小さな平屋の家が一棟と各種のアンテナ類が並んで立っており、更にコンテナフェンス正面の位置には、アーム部分を下げたクレーン車が1台停められているのが見える。

このクレーン車のアーム先端部から吊り下げられたフック部分には、吊り上げ用ワイヤーがコンテナ上部へと4点掛けで接続されており、どうやら見た所、物資搬入の際にはこのクレーン車を使ってコンテナフェンスの上げ下げを行っている様であった。




『なるほどねえ。あそこが物資の搬入口な訳か。クレーンを使ってコンテナを上げ下げするとは上手く考えたな』




ふむふむと頷きながらも、今度は住居と思われる平屋の建物を観察し始める和馬の視線の先に突然、こちら側へと向かって足早に歩いて来る、もう1人の住人と思わしき女性の姿が映った……。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

一難去って、また一難……。

次回は、最後にチラッとだけ登場した、もう1人の住人とのやり取りが始まります。

武器を構え、敵意丸出しの彼女が果たして交渉に応じてくれるのでしょうか?

それでは次回、第58話「もう1人の住人」をお楽しみに!


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