(55) 所有者
読者の皆様、お待たせいたしました。
今回は、ジャンクヤードの所有者と思わしき人物がチラッとだけ登場します。
それでは、第55話「所有者」の始まりです。
コンテナ側面とトラック前面が上手くお互いに面合わせの状態になった所で、和馬と雄太はフロントガラス越しにコンテナ上部の様子を確認しようと首を伸ばしてはみるが、やはりトラックと比較してコンテナ自体により高さがある関係からコンテナ上部は良く見えず、どうしても確認する事が出来ない。
「くそっ!やっぱり、ここからじゃ見えないな」
「こうなったら、予定通りコンテナに登り上がるしかなさそうですね」
「そうだね。それじゃあ……。あっ!ちょっと待った!今、何か見えたぞ!」
「えっ?何かって?」
「一瞬、チラッとだったけど、あれは人だった……。と思う」
どうやら、雄太は一瞬ではあったが、コンテナ上部にいた人影を目撃したらしい。
「あれは多分、ここの住人なんだと思うんだけど、すぐに隠れちまったよ」
ここで、和馬も雄太が人影を見たと言いながら指差しているコンテナ上部へと向かって首を伸ばしつつ確認をしてみる。
「う〜ん。やっぱり、ちょっと此処からでは見えませんね」
どうやら、コンテナ上部にいたという人物は屈んで身を隠しているのか、運転席側の位置からではその姿を確認する事はやはり出来ない様だ。
「和馬君、今すぐトラックのキャビン上へと上がって確認してみよう」
「ええ。そういえば雄太さん。武器の方はどうします?一応、携帯して行きますか?」
和馬は、ベレッタM9を収納した腰のホルスターを軽く手で叩く。
「そうだな。念の為、持って行くか。ただし、出来る事なら、こいつを使う事態だけは避けたいな。なるべく交渉は穏便に済ませたい所だよ」
「そうですね」
恐らく、交渉へと入る前に銃を携帯している事に相手が気付いてしまえば、和馬達に対しより強い警戒心と不信感を抱く事は間違いないだろう。
更に銃器が放つ威圧感によって、その圧倒的な武力をちらつかせ、物資を強奪に来た略奪者だと勘違いをされてしまう可能性も考えられる。
この為、出来る事ならば、交渉を上手く進める為にも、ここは武器などは持たずに丸腰のままで行きたい所なのだが、これから交渉しようとしている相手が一体どんな人間なのか、皆目見当がつかない以上、武装をしないのはやはり危険にも思える。
何せ相手がまともで良識があり、悪意など持った人間でなければ良いのだが、もしもそうでなかった場合には下手をすれば、略奪に遇って身ぐるみを全て剥がされるか、最悪はそのまま殺害されてしまう可能性も無いとはいえないのだ。
そう考えると、どうしても護身用武器は必須であり、和馬達は拳銃を携帯した上で交渉へと臨む事にした。
「よし、それじゃあ雄太さん、行くとしましょう」
「了解」
ここでエンジンを切り、両側のドアを開けた2人は、そのまま身を乗り出しつつ屋根の縁へと手を掛けると勢いをつけて一気にキャビン上部へとよじ登り、次に足を滑らさぬ様、慎重に立ち上がり始めた。
『よし!次はコンテナか』
和馬達は、ゆっくりと立ち上がりながら、更に一段高くなっているコンテナフェンスへと上がる為、顔をコンテナ側へと向けた、その時……。
「誰だ!貴様ら!ここへ何をしに来た!」
これから、コンテナへとよじ登る為、前へと足を踏み出そうとする和馬達の耳に突然、コンテナ上部から男の大きな声が聞こえて来る。
『おっ!何だ!』
『さっきの人物か?』
まるで、侵入者を威嚇する様な強い口調に対し、驚いた和馬と雄太が慌てて顔を向けた先には一人の小柄な老人が立っており、その手によってしっかりと構えられたリカーブクロスボウの射出先端部は確実に和馬の体を捉えていた……。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
果たして、コンテナフェンス上にてクロスボウを向けている人物と交渉など上手く出来るのでしょうか?
敵意剥き出しの相手と交渉するよりも、ここは一先ず退散した方が良い様にも思えますが……。
話の気になる続きは、10月1日にて!
それでは、また。