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(50) 接近戦3

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回で連載を始めてやっと50回目となります。

果たして雄太は、切り札となるスタングレネードを使って、無事に窮地を脱する事ができるのか?

さあ、接近戦の第3話のスタートです。

今、その両手へと握られているシリンダー形状のM84こそが、これから雄太がこの場から無事に脱出する為の重要な切り札であった。

全体がオリーブドラブ色に塗装された本体に安全レバーと解除ピンが取り付けられた、このM84スタングレネードは閃光手榴弾とも呼ばれ、100万カンデラの強力な閃光と160デシベルの爆音を発する非致死性の手榴弾である。

当然、これを至近距離からまともに食らえば、相手は一時的にではあるが、視覚や聴覚をマヒさせられ行動不能に陥るばかりか、場合によっては失神状態となってしまう。

その為、次々と押し寄せて来る感染者達を一時的に足止めし、脱出への活路を見出だす為にはある意味、銃よりも有効な武器であった。

そこで雄太は、これよりスタングレネードの使用を和馬へと知らせる為、両手に持ったM84を大きく上へと掲げると大声で叫んだ。



「和馬君、今すぐ両目と両耳を塞いでくれ」



運転席側からフロントガラス越しに状況を見ていた和馬は、急いで顔を伏せ両耳を手で塞ぐ。



「さあ行くぞ!」



雄太はM84を2発共、脇へと挟み、解除ピンのリングへと指を掛けると、立て続けに解除ピンを引き抜いた。

解除ピンが抜かれた事により、スプリングが作動し安全レバーが飛ばされたM84を雄太は、走って来る感染者へと向かって次々と投擲する。間も無く発生するであろう爆音と閃光に備え、雄太は急ぎ目を閉じ両耳を手で塞ぐ。

次々と投擲され、空中で放物線を描きつつ感染者達の足元へと落下したM84は、期待した通りの効力を発揮し激しい閃光をもたらすと共に大音響を周囲へと響かせる。

このM84による洗礼をまともに食らった感染者達は、一時的にではあるが視覚をマヒさせられた事により今までの様な行動がかなり制限された上、更には爆音が鼓膜を通して三半規管へと大きな影響を与えた事で平行感覚を失い、そのまま倒れる者も続出した。

雄太が危機を脱する切り札として使用したM84は、期待通りの性能を何とか発揮し、視覚・聴覚・平行感覚を失った感染者達は、もはや獲物を追う所では無くなっていた。

ここで、やっとヘリコプターに群がる感染者達に隙が生まれ、雄太にとっての生き残りを賭けた脱出へのチャンスが訪れた。




『よしっ!今だ!』




塞いでいた耳から手を離し、顔を上げ目を開いた雄太は、目の前が期待通りの状況になっている事を確認すると素早くホルスターからベレッタM9を抜き取りつつ、足元へと置いておいたプレートキャリアを左手で勢い良く掴み上げる。




『さあ、行くぞ!』




セーフティーを解除したM9を構えつつ、感染者が群れていない着地ポイントを瞬時に見つけ出した雄太は、僅かな時間も惜しむかの様にヘリコプター胴体上から着地ポイントへと目掛けて一気に飛び降りた。




『うわっ!くそっ!痛ってえ!』




高所では無いとはいえ、それでもそこそこ高さのある位置から飛び降りた事により、足首全体に対してもそれなりに無理がかかったらしく、痛みと共にビリビリとした痺れる様な感覚が瞬時に伝わって来る。




『くっそう。足の甲と足首がやたら痛えけど、捻った訳じゃ無さそうだな。ようし、行こう!』




現在、雄太のいる位置からトラック迄は、その距離およそ30m。

まだ足首が痺れている事により、全力を出せない状態ではあるが、それでも雄太は右手に拳銃を構えたまま、和馬の待つトラックへと向かって必死に走り出す。




『よし、よし。これなら上手く切り抜けられそうだ』




大小の破片が一面に散乱したヘリコプター周辺には、視覚を奪われた感染者達がふらついた足取りでさ迷い歩いており、その感染者達の間を雄太は上手くかわしながら巧みにすり抜けてゆく。




『よし。ここまで来れば何とか……。ん?』




和馬が待つトラックの位置まで、後もう少しという所まで走って来た雄太であったが、ここで彼にとっては全くの計算外の事態が発生する。

自分の後方から聞こえて来る叫び声が次第に大きくなって来ている事に気付き、慌てて振り返る雄太の目には、疾走し次第に迫り来る感染者達の姿が映る。




『そんな!あのスタングレネードが効かない奴がいるのか!』




この時まで、雄太はM84スタングレネードの性能を過信し、完璧に感染者達を出し抜いたつもりでいた。

確かにM84は、相手の行動及び感覚を麻痺させ、混乱に陥れるのには非常に有効な兵器である。

だが、その持ちうる性能を遺憾無く発揮出来るのは、屋内の様な狭い空間において使用した場合の話であって、スタングレネードの使用条件から考えてみても本来、使用範囲が極端に広い日中の屋外使用を想定した兵器ではないのだ。

この為、今回の様な明るさのある日中の屋外では、本来の性能を遺憾無く発揮する事が出来ず、感染者の中にはスタングレネードによる影響をさほど受けなかった者もいたのだ。

当然、影響を受けなかった感染者は、全力で雄太の追尾を開始し、逃げる雄太本人は重量感あるアサルトライフルとプレートキャリアを身に付け、おまけにもう1着のプレートキャリアの手荷物付きでは、トラックまで無事に逃げ切る事自体まず 無理な話であった。




『くそっ!やばい。このままじゃ、間違いなく捕まっちまう』




後方から聞こえて来る感染者達の咆哮を耳にし、更に高まってゆく恐怖感から少しでも早く逃れる為、必死に足を繰り出し続ける雄太の背中を冷たい汗が流れてゆく。今、雄太は自身の命を守る為、かつて出した事のない程の全力を振り絞って必死に走り続けているというのに追尾して来る感染者との距離を引き離す事が出来ないばかりか、むしろ、その距離は次第に縮まってきている。

必死に逃げ続ける雄太の背後からは、狂気に満ちた感染者達の叫び声が更に近づいて来る……。


最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次回は、接近戦の第4話となります。

感染者達を出し抜きヘリコプターから脱出したのも束の間、再び死亡フラグが立ち始めた雄太にこの窮地を脱する事ができるのか?

さあ次回をお楽しみに!

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