(49) 接近戦2
読者の皆様、お待たせ致しました。
今回も引き続き、感染者との攻防戦が行われます。
和馬達は、この危機を乗り越え無事に生き延びる事が出来るのか?
さあ、いよいよ接近戦第2話の始まりです。
ACOGを覗き込み、感染者を照準に捉え様としていた雄太は、接近中であった感染者の1人が、荷物を持ち動きが遅くなっている和馬に狙いをつけ、方向を変えて追い掛け始めている事に気付くと、すぐに相手の動きに合わせ銃口の向きを同調させ始める。
『まずは、アイツから片付けないとな』
和馬を狙う感染者を最優先で排除する為、トリガーへと指を掛けた雄太は、レティクルクロスポイントと感染者の胴体部分とを重ね合わせ、直ぐ様トリガーを絞る。
発射された3発のライフル弾の内、2発が感染者の腹部と腰を直撃し、身体に致命的なダメージを負った感染者はよろめきながら、アスファルトの路面上へと崩れ落ちた。
『よし、まず1人』
ヘリコプター上にて激しい射撃音が幾度と無く繰り返し周辺へと響き渡った事により、もはや感染者の注意は和馬では無く、完全に雄太の方へと切り替えられ、次々と引き寄せられるかの様にヘリコプターの墜落地点を目指して集まって行く。
『よし、よし。これで、もう和馬君が襲われる事はあるまい。奴らの関心は、完全にこちら側へと移った……』
今の所、雄太の狙い通りに上手く事が進んでいるものの既に感染者達は、ヘリコプターのすぐ近くまで接近してきており、もう雄太にはトラックまで走って逃げ切る余裕などは全く残されてはいない。
こうなれば、最接近中である6人の感染者達も何とか、この場で仕留めてしまうより他はない。
「さあ、いくぞ!」
雄太は素早く照準を変え、最接近して来る感染者へ向けてトリガーを絞る。
一方、和馬は何とか無事にトラックへと辿り着き、掴んでいるアモ缶をトラックの荷台へと素早く置くと、直ぐ様、運転席へと乗り込みシフトレバーをローギアへと叩き込む。
急ぎ、サイドブレーキを解除しトラックを急発進させた和馬は、路上に散乱した破片によるタイヤのパンクも覚悟の上で、ヘリコプター上にて応戦中である雄太のピックアップへと向かう。
その頃、迫り来る感染者達への銃撃を続けていた雄太は、この時点で2人の感染者を射殺、後4人を歩行不能状態へと陥らせていた。
「よしっ!次!ん?」
素早く向きを変えたACOGのレティクルによって捕捉された、最接近中の感染者のはるか後方からは銃の射撃音を聞きつけた、更なる別の感染者の群れがヘリコプターを目指し接近中である事に雄太は気付く。
「くそったれが!また嫌なもん見つけちまったぜ。全く次から次へと!これじゃ、きりがないじゃねえか!」
雄太は、毒突きながらもすぐ真下まで接近して来た感染者に照準を合わせ、コルトM4のトリガーを引くが、何故か肝心の弾は出ず、空撃ちによる虚しい金属音だけが響く。
「もう、30発撃っちまったか。やれやれムダ弾撃ち過ぎたな」
すぐに雄太は、コルトM4のマガジンリリースボタンを押し、残弾ゼロとなった空マガジンを抜き取ると、身に着けているプレートキャリアの収納ポーチから予備マガジンを取り出し素早く装填する。
マガジン装填後、勢い良くチャージングハンドルを引いて薬室内にライフル弾を送り込み射撃姿勢をとった雄太は、再度、銃口を下げACOGのレンズを覗き込む。
ライフル弾の装填作業を行っている間に更に集まって来た感染者達を睨んだ雄太は、最接近している感染者を優先的に排除する為、レティクルで相手を捉えトリガーを引く。一方、和馬は雄太を救出する為、何とかトラックをヘリコプターの墜落地点へと近づけ様とするが、道路上に散乱している大きな金属片が障害となり、前進を阻まれる形となっていた。
ヘリコプター周辺に飛び散った鋭利な金属片は、下手に踏むとそのままタイヤをパンクさせ、走行不能へと陥らせる原因にもなりかねない。
その為、パンクも覚悟の上で前進をして来たものの、いざ緊急脱出の事を考えると、やはり無理して前進をする訳にもいかず、ここから先は何とか雄太にトラックまで走って来てもらうより他は無かった。
焦る和馬は、急ぎ運転席側の窓を開けると、応戦中の雄太へと向かって大声で叫ぶ。
「雄太さん。このままじゃ、まずいです。早くトラックに乗って下さい。うわっ!くそっ!」
突然、別方向から走って来た感染者が、トラックの運転席側ドアへと力一杯体当たりを行い、更にドアノブを掴むと、今度はドアを開け様として思い切り引っ張り始める。
この突然の事態に対し、和馬は激しく動揺しながらも何とかホルスターからベレッタM9を抜き取り、直ぐ様、叫び声を上げ続けている感染者に銃口を向けつつトリガーへと指を掛ける。
この時、力任せにドアノブを引っ張り続けていた感染者は、運転席側の窓が開いている事に気付くとドアノブから手を離し、今度は窓の開口部から和馬を狙って顔を近づけて来る。
ここで素早く窓側から体を離し距離をとった和馬は、向けている銃口を迫りつつある感染者の額へと重ね合わせ、そのまま一気にトリガーを引く。
激しい射撃音と共に黒く鈍く光るベレッタM9の銃口から9mmパラベラム弾が発射される。
インナーバレルのライフリングによって旋条痕を刻みながら高速で放たれた9mm弾は、相手の眉間に穴を開け、その衝撃で頭を大きく後ろへと反らせた感染者は、そのまま路上へと勢い良く倒れ込む。
「ふ〜う、危なかった。しかし、車内で発砲なんてするもんじゃないな。射撃音のおかげで耳鳴りがするぞ」
左手で額に滲む汗を拭いながら和馬は、耳の奥から聞こえてくるキーンとした耳鳴りに思わず顔をしかめる。
無意識に左手を耳へと当てた和馬は、他に脅威となる対象がトラックへと接近してはいないかガラス越しに周辺の様子を確認するが、専ら感染者達の関心は連続した射撃音を出し続けている雄太に集まっているらしく、今の所トラック周辺は全くのがら空き状態であった。
『まずいな。このままじゃ、本当に雄太さんが逃げられなくなってしまう』
和馬は、再びトラックの窓から顔を出すと、応戦中の雄太へと向かって大声で叫ぶ。
「雄太さん。早くトラックへ!」
「わかった!今、行く!さてと、いよいよコイツを使うとするか」
ここで一旦、射撃を止めた雄太はコルトM4のスリングベルトを掴んで肩へと掛け、代わりに先程、入手したばかりのM84スタングレネード2発をウエストポーチから取り出した……。
最後まで、読んで頂きましてありがとうございます。
果たして、雄太が逃げ延びる為の策として取り出したスタングレネードは期待通りの効力を発揮してくれるのでしょうか?
死亡フラグが立ち始めた様にも思える雄太の運命はいかに……。
次回、第50話接近戦3をお楽しみに!