(43) 遺体
読者の皆様、お待たせいたしました。
今回は、ヘリコプター内に進入した和馬が、墜落の原因について推理します。
それでは、どうぞ!
倒れている兵士に注意しつつ、備品類が多数散らばった機内へと足を降ろした和馬は、まずは身を屈めつつ、足元の兵士へ向かって手を伸ばす。
『うああ。体がうつ伏せ状態なのに、顔がこっち側を向いちゃってるよ。この首の曲がり方じゃ、完全に首の骨が折れちまってるだろ。やっぱり、これじゃ死んでるよな』
カッと目を見開いたまま、微動だにはせず、どうみても死亡しているとしか思えない2名の兵士の中から、和馬は、念の為、まず1人の兵士の首筋へと指を当て、脈と体温の確認を行う。
「どうだい?和馬君」
雄太から声を掛けられ、首筋から指を離した和馬は、強張った表情のままで首を小さく横へと振る。
「やっぱり、駄目ですね。脈は無いし、既に体も冷たくなってます。一応、もう1人の方も確認してみます」
「わかった」
『多分、この人の生存も期待できないとは思うけど、念の為、見てみるとする……。うっ!何だ!これは!』
脈を確認する為、首筋へと手を伸ばした和馬は、兵士の顔面から胸元にかけて、赤黒い血液がべっとりと付着している事にここで改めて気付き、ギョッとしながら、慌てて手を引っ込める。
「うわっ!薄暗いから、良く見えなかったけど、こいつは随分と酷く出血しているな」
「どれどれ。ああっ。これは、酷いな。和馬君、その出血量じゃ、もうその人、絶対にアウトだろ」
「ええ。そうですね。目だって、もう見開いたままですしね。この怪我の直接原因も墜落時の衝撃による物といった所かな」
「う〜ん。その怪我じゃ、恐らくそうだろうね」
「多分、首筋には、大きな傷口がパックリと開いているんじゃないですかね。どれどれ。ん?えっ?あれっ?傷口がどこにも無い……」
これだけ大量の出血をしている以上、当然、大変な怪我を負っているのだろうと考えた和馬は、改めて兵士の首筋周りを覗き込んで確認してみるが、何故かどこにも傷口らしき物は見当たらない。
「傷口が無いって、どういう事だ。なら、この出血は、一体どこから?」
「和馬君。その人、背中からも出血しているぞ」
開口部から身を乗り出し、機内を覗き込んでいる雄太は、兵士の背中や脇腹にも、赤黒い染みが広がっている事に気付き指を差す。
「あっ!本当だ!でも、雄太さん。この出血は、墜落時に受けた傷による物とは違う様ですよ」
「えっ?それって、どういう事だい?」
ここで、和馬は、兵士が着用している迷彩服の上着を引っ張りながら下へと伸ばし、ある箇所に指を差す。
「雄太さん。これ、どう思います?」
和馬が指を差しながら、指摘をしている箇所には、幾つか開けられた小さな丸い穴が見える。
「服に穴が開いているな。う〜ん。何だろうな?まさか……。その穴は、銃痕という事は……」
「雄太さん。その可能性ありですよ」
「いや、でも、まさかねえ」
「まあ、まあ。ちょっと、これを見て下さい」
和馬は、兵士が銃撃を受けた可能性を証明する為、兵士の上着をまくり上げ、背中の地肌を剥き出しにすると、血塗れになっている幾つかの傷口へ向かって指を差す。
「ちょっと、わかりにくいですけど、ほら、ここを見て下さい。傷口が何ヵ所かあって、しかも丸いでしょ。その上、周りには空薬莢も転がっているし」
「空薬莢?あっ!本当だ!」
確かに機内に横たわる2体の遺体の周りには、銃撃が行われた事を証明する、金色に鈍く光る真鍮製の空薬莢が幾つも転がっている。
「雄太さん。ただ、ここで解らないのは、何故、仲間の兵士に発砲する必要があったのかという点についてなんですよね。それと、傷口が見当たらないのに顔面から胸にかけて、おびただしい量の血液が付着しているのも気になります」
「う〜ん。それなら、撃たれた事が原因で口から血を吐き出したとか」
「なるほど。ただ、そうだとしたら、顔面が血塗れになったりはしないですよね」
「確かに言われてみればそうだな。なあ、和馬君。この遺体は、顔面に傷口がある訳では無いんだよね」
「ええ」
「傷口が無いのに顔面血塗れか……。何だかさあ、それって血を浴びた様にも見えるよな」
「浴びた?浴びたか……。ん?ちょっと待てよ」
ここで、ふと、ある事を考えついた和馬は、すぐに視線を機内の上部へと移動させ、天井や壁の至る所に開けられた幾つもの弾痕らしき穴を見つけ出す。
『あれは、どう見ても銃弾が当たった痕だよな。方々に着弾している点からみて、多分、こいつは、発砲の際の流れ弾といった所か。銃撃を受け、更に上半身に血を浴びた遺体。壁には、流れ弾の弾痕。コックピットルームには、首筋に大きな傷を負ったパイロットの遺体。この3つの点から導き出される結論は何だ?ん?あっ!そうか!そういう事か』
「雄太さん。このヘリコプターの墜落原因が何となく解ってきましたよ」
「えっ?墜落原因がかい?」
「ええ。これは、あくまでも俺の推測なんですけど、墜落の直接原因は故障ではなく、殺噛症の発症による物じゃないかと思うんです」
「という事は、つまり、このヘリコプター内に感染者がいたという事かい?」
「ええ。恐らく、体に銃弾を受けている、この兵士が感染者だったんじゃないかと」
「でもさあ、和馬君。相手が感染していると解っているのなら、いくら仲間の兵士といえども、絶対に感染している者をヘリコプターに乗せたりはしないだろう?」
「いえ、雄太さん。もしも……。もしも、ですよ。相手がその時、発症しなかった為に、誰も感染者だと気付けなかったとしたらどうします?ほら、少し前の館山航空基地の事を思い出してみて下さい」
「確かに館山航空基地が壊滅した原因は、感染していると気付けずにキャリアを基地内へと入れてしまった可能性が高いんだよな……。だとしたら、つまり、それと同じ事が、このヘリコプター内でも起きたという訳か」
「ええ。多分、この兵士の体には、どこか感染者によって噛まれた傷痕がある筈です。今、傷があるかどうかを確かめてみます」
和馬は、自分の仮説を証明する為、すぐに兵士の体を抱き起こし、どこかに噛まれた事による外傷が無いか確認を行い始めた……。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
次回は、いよいよ感染者から身を守る為のとっておきのアイテムが登場します。
それでは、次回をお楽しみに!