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(41) 物体

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回は、第41話「物体」をお送りいたします。

それでは、どうぞ!

感染者達の追跡から逃れる為、急加速を行い始めたトラックは、助手席ドアが半開き状態のまま、先程のスポーツクーペの横を通り抜け、更に、そのスピードを上げてゆく。

何とか、感染者達を引き離し、ドアミラーに映る相手の姿が完全に見えなくなる迄、走行を続けた雄太は、ここでアクセルペダルを離し、ゆっくりとブレーキを掛けた。



「ここまで、来れば大丈夫だろう。しかし、あれには、焦ったな」



「ええ。雄太さんが、あの時、機転を利かせてトラックを急発進させてくれなかったら、本当に危ない所でしたよ」



「いやあ、それにしても、何とか、無事に脱出出来て良かったよ」



「ええ。本当に助かりました。あ!今、ドアを閉めます」



何とか、無事に危機を乗り切る事ができ、ほっとした和馬が、開いたままの助手席ドアへと手を伸ばし、完全にドアを閉めた事を確認すると、雄太は再びアクセルペダルを踏み、トラックを走らせる。

既に危険地帯と化した住宅街を抜け、緑濃い山間部へと入ったトラックは、いよいよ木更津市へ続く国道410号線へと合流しようとしていた……。




低山連なる房総丘陵の中央を縦断する国道410号線を雄太が運転するトラックがひた走る。

事前に和馬が、予想していた通り、この道路は、走行する上での大きな障害となる放置車両も少なく、やはりルート選択としては正解であった。

また、周囲を緑に囲まれた山間部という地形上、放置車両どころか、道路沿いに建つ民家も少なく、徘徊する感染者の姿も今の所は、見かける事は無かった。

人気の全く無い道路を前進するにつれ、極たまに見かける民家の窓は、そのどれもがカーテンや雨戸によって閉ざされており、今もそこに人が住んでいるのかどうかも窺い知る事が出来ない、こういった民家を見つめながら雄太は呟く。



「あの家には、まだ誰か住んでいるのかねえ」



「さあ、どうですかねえ。まあ、仮にまだ住人がいて、立て籠っているのだとしても、いずれは食料や水が無くなって、どうにもならなくなると思いますよ」




「そうなると、指定されている避難所に行くしか無くなるんだろうけど、それだってなあ」



「避難所は、余りにも人が殺到すると、すぐに機能しなくなりますからねえ。例え、もし機能していたとしても避難生活が長期間になれば、いずれは物資も行き渡らなくなってくるだろうし、外からの補給のあてがあるのかどうかも解らない。それに1ヶ所に人が集中すれば、それを狙って、感染者の奴らも集まって来るのは間違い無い訳だから、襲撃を受けた時に守り抜く事が出来ればいいんですけどね」



「仮に銃で武装した人間が守っていたとしても、襲って来る感染者の数によっては、持ちこたえる事が出来ず壊滅する避難所だってあるだろうしな」


「確かに数に勝る物は、ありませんからね。いくら、バリケードを築いて対抗したとしても、大量に押し寄せて来られたら、ひとたまりもありませんよ」



「一度、相手にバリケードを突破されちまったら、もうそれでおしまいだもんな」



何とか、感染者の襲撃から逃れる為、建物へと避難し立て籠ったとしても、訪れる災厄から逃れる事は出来ないのかも知れない……。

それは、言うならば彼の両親にも当てはまる訳であり、今の和馬にとっては、この厳しい現実が重くのしかかる。




『父さんや母さんは、今も無事なのだろうか?』




ここで、運転をしながらメーターパネルを気にしていた雄太が、急に黙り、何か考え込む様子を見せていた和馬に対し、こう話しかける。



「そういえばさあ、話は変わるけど、和馬君。いよいよ、状況が悪くなってきたよ」



雄太は、やれやれと呟きながら、メーターパネル内の燃料計を指差す。



「う〜ん。確かにこいつはまずいですね」



和馬が隣から覗き込んでいる燃料計の針は、既にタンク容量の1/10程の残量を示しており、どうやら荷台に車両を載せ、トラックの車両全体重量がアップしている事が、思いの外、燃料消費スピードを加速させてしまっている様だ。

恐らく、このままでは最終目的地の千葉市はおろか、遥か手前の木更津市辺りで燃料が尽きてしまう可能性が高く、そうなる前に何としてでも軽油を確保しておく必要がある。

だが、現在のこの状況で軽油を手に入れる事は容易な話ではない。

その証拠に、やっと前方にガソリンスタンドを発見した雄太は、もしもの可能性を考えて立ち寄ってはみたものの、停電状態では、給油機のポンプが作動する筈も無く、給油ノズルのレバーを引いた所で軽油は一滴も出てくる事は無かった。

まあ、仮に今も通電していたとしても、災厄発生当初は、燃料を求めてガソリンスタンドには人々が殺到したと考えられる為、もうとっくに地下タンク内のガソリン、軽油類は枯渇していた可能性が高いといえるだろう。

そうなると、後、他に残されている燃料入手方法といえば、道路上の放置車両の燃料タンクから軽油を抜き出す事になる訳だが、残念ながら、今まで道中で放置されていたのは、ほとんどガソリン車ばかりであり、肝心のディーゼルトラックやバスは、なかなか見つからなかった。

特に、この国道410号線は、元々、他の国道と比較しても交通量自体が少なく、ただでさえ放置車両が見つかりにくい上、やっと何とか見つけ出した放置トラックも、既に誰かによって燃料が抜き取られてしまっている有り様であった。



「和馬君。どうやら、ガソリンスタンドや放置車両は余り期待できない様だな」



「ええ。それにしても、まいったなあ。このままだと、いずれガス欠を起こして、このトラックを乗り捨てる事になりますよ。そうなれば、かわりの車を探す羽目に……」



「かわりの車かあ。そうなると、今、目につくのは、乗用車になるけど、ああいった小型車じゃ、もし感染者達に取り囲まれる事にでもなれば、そのまま、ひっくり返される可能性があるんだよな。やっぱり、気が進まん」


「こうなったら、このガソリンスタンドを出た後も、放置されたトラックを気長に探すしかありませんね。もちろん、気長にと言っても、燃料タンクが空になる前にという条件付きではありますけど」



「後、もう1つの選択肢としては、あえて危険を冒す覚悟で放置車両の多い鴨川市街に向かうかだな」



確かに雄太の言う様に災厄発生前における、交通量の多さから考えてみると、ここより近隣に位置する鴨川市街地の中心部ならば、放置されたトラックやバスが見つかる可能性は高いだろう。

だが、反面、市街地は人口が集中していた分、感染者の数も多い事が予想される為、迂闊に足を踏み入れれば、危険を冒すリスクが非常に高く、下手すれば、二度と生きては戻れぬ可能性もある。

ならば、この先、一体どうすれば良いのか、給油機からぶら下がった給油ノズルを見つめながら和馬は悩む。




『このまま、市街地方面へと進んで、トラックを見つけて持ち帰ってくるか……。いや、いや。待て、待て。市街地には、あの厄介な感染者が大勢いる訳だよな。どう考えても、市街地に行くのは危険すぎる。さあて、どうしたものかな』




これから、どうするべきなのかを悩む和馬を隣で見ていた雄太が、和馬の肩に軽く手を乗せる。



「このガソリンスタンドでは、結局、何も手に入らなかったけれど、このまま先に行けば、もしかしたら、トラックの放置車両が見つかるかも知れない。なあ、和馬君。それに期待しよう」



「確かに、わざわざ危険を冒す必要もないか……。うん。そうですね。そうしましょう」



「よし。それじゃあ、ここを出発するとしよ……。ん?和馬君。あれは何だ?」



どうやら、トラックへと乗り込もうとしていた雄太が、何かに気付いたらしく、ある方向を指差す。



「え?あれって、何の事です?」



雄太が、指差す方向を見た和馬は、ここより、400m程、前方に何やら大きな白い物体が、道路を塞ぐ様な形で放置されている事に気付く。



「あれは、一体何だろう?ここからじゃあ、あれが何なのか、良くわからないなあ。それにしても、雄太さん。良く、あれに気がつきましたね。俺、全然、気がつかなかった」



「いや、たまたまだよ」



確かに雄太が、道路上のその物体を発見したのは、全くの偶然であり、和馬が気がつかなかったのも無理はない。

実は、現在、和馬達がいるガソリンスタンドは、千葉市方面へと向かう国道410号線と鴨川市街地へと続く県道長狭線が交差する十字路の角地に位置しており、発見した物体は、これから向かおうとしている進行方向ではなく、交差している長狭線の路上に鎮座していたのだ。

その為、このガソリンスタンドへと停車した際、偶然にも雄太が発見する事となった訳だが、もしも、走行中であるならば、そのまま素通りし、まず気付く事は無かったであろう。

今、こうして、発見してしまった以上、この未確認物体の正体が一体、何であるのかについては、和馬達にとっても、非常に気になる所ではあり、彼らは、このまま見過ごす事無く、直ぐ様、確認行動へと移り始めた……。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次回は、道路にて鎮座する物体の正体を調べるべく、和馬達が接近を試みます。

目の当たりにする事となる、その物体とは一体何か?

和馬達にとって脅威となるのか否か?

それでは、次回をお楽しみに!

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