表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/86

(40) 住宅街にて 2

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回は「住宅街にて 後編」をお送りいたします。

道路を塞ぐ邪魔な放置車両の撤去を行う和馬を狙って、再び奴らが姿を現します。

それでは、どうぞ!

今、目の前の路肩側には白いスポーツクーペ、車線中央には2tトラックが道路を塞ぐ形で放置されており、まず和馬は車両サイズから考えて、一番撤去し易いと思われるスポーツクーペへと近づき、サイドガラスから運転席を覗き込んだ。




『どれどれ。あれっ?こいつ、エンジンキーが刺さって無いな。なら、ドアの方はどうかな?』




エンジン始動に必要な、肝心のエンジンキーは刺さってはいないものの、それなら替わりに掛けられているサイドブレーキだけでも、何とか解除出来ないものかと和馬は、ドアを引いてはみるが、この車は元々、駐車車両だったらしく、しっかりとドアロックがされたままの状態であった。


『くそっ!駄目か。なら、仕方無い。トラックの方にするか』




スポーツクーペの移動を諦め、次にトラックの方へと移動した和馬は、運転席側のサイドガラスから、車内の安全を確認後、ドアノブへと手を掛けた。




『おっ!ドアロックは、されていないな』




意外にも、あっさりと開いたドアの隙間から、ハンドル下を覗き込んだ和馬は、まだエンジンキーが差し込まれたままである事に気付くと、早速、キーを回して、エンジン始動をしてみようと試みる。




『あれっ?うんともすんともいわないぞ』




ここで、和馬は、何度か繰り返しエンジンキーを回してみたものの、肝心のセルモーターが回る気配は全く無く、どうやら、このトラックは、エンジンを掛けた状態のまま放棄され、既にバッテリーはおろか、燃料すら使い切って、完全にガス欠になってしまっている状態の様であった。




『こいつ、もしかしたら、ここでガス欠になって、仕方無しに放棄していったのかも知れないな。しようがない。こいつは、雄太さんに牽引撤去してもらうとするか』




自走による移動を諦め、すぐにサイドブレーキを解除後、急ぎ雄太の待つトラックへと戻った和馬は、状況を説明すると共に、牽引による撤去の必要性を雄太へと伝える。



「まず、スポーツクーペの方の移動は、難しいですね。移動をするならトラックの方になりますけど、こっちは燃料タンクが空、バッテリーの方は死んでますね」



「そうか。自走はむりか」



「でも、一応、サイドブレーキは解除したし、ハンドルロックはされていませんでしたから、牽引による撤去は可能ですよ。と言う訳で雄太さん。ここは、トラックの牽引撤去でいきませんか?」



「そうだな。うん。よし、解った。それじゃ、大急ぎで、そいつを撤去するとしようか。今すぐ、俺の方で牽引用ワイヤーを準備するから、和馬君、ちょっと待っててくれ」



すぐに運転席を降り、後方の荷台部分へと歩いて行った雄太は、積み込んでおいた牽引用ワイヤーを掴むと、今度はキャビン側へとまわり、フロントバンパー下にある牽引用フックへとワイヤーを接続する。



「和馬君、すまないが、このワイヤーを相手のトラックへ接続してくれ」



「了解です」



雄太から渡された機械油まみれの牽引用ワイヤーを掴んだ和馬は、相手のトラックの牽引用フックへと素早く接続させると、そのままトラックの運転席へと乗り込み、ハンドルを握った。

一方、和馬側から送られてきた「準備完了」を表すハンドサインを確認した雄太は、直ぐ様、運転席へと戻ると、シフトレバーをバックギアへと入れ、トラックの後退を開始する。




『よ〜し。上手くいってくれよ』




ディーゼルトラック特有の大きな排気音と共にトラックの後退が開始され、それと同時に牽引用ワイヤーが張られ、和馬の乗ったトラックは、そのまま引っ張られる形でゆっくりと前進を始める。




『良いぞ!その調子だ』




『よし、よし。上手くいってる』





運転席でハンドルを握る和馬は、トラックが真っ直ぐに前進する様、ハンドルを微調整して対応し、後退を続けていた雄太は、トラックが通り抜けられる程の充分なスペースが確保できた事を確認すると、ここで後退を止め、撤去が完了した事を知らせるハンドサインを和馬へと送る。




『何とか、上手くいったな』




何事も無く、撤去がスムーズに完了した事で、安心した和馬は、すぐにトラックを降りると、牽引用ワイヤーの取り外しに取り掛かる。




『よし。外れた。後は、もう一方だな』




外した牽引用ワイヤーを手に持ち、今度は雄太の乗るトラック側のワイヤー接続部分を外そうとしていた時、今まで静かだった住宅街に突然、大きな叫び声が響いてくる。




『しまった!奴らか!どこだ?』




一体、どこに感染者が現れているのか、位置を確認しようと和馬は、後ろを振り返るが、声はすれども相手の姿は見当たらない。



『こちら側からじゃないという事は、このトラックの後方から来ているのか?まずいな。急がないと!』




「和馬君。そのワイヤーは、もういい。とにかく、早く車に乗れ!」



運転席の窓を開けた雄太は、すぐにトラックへ乗る様に大声で伝えては来るが、このまま、長いワイヤーが接続したまま走行し、車軸側へと絡んで走行不能に陥る可能性を考えた和馬は、焦りながらも、何とか外そうと試みる。




『くそっ!くそっ!外れねえ!』




元々、多少は、きつ目ではあったものの、普通ならば、割と簡単に外れる筈の接続部分も、今の様に動揺し焦っている状態ならば、手間取ってしまい、中々思い通りには外れてはくれない。



『畜生め!何で外れない。くそっ!あっ、外れた』




「急げ!和馬君!」



何とか、接続部分を外し、手に握ったワイヤーを引きずらせたまま、助手席側ドアへと回った和馬は、血塗れ姿の感染者達が、もう目前にまで迫っている事に、ここでやっと気付く。



「うあああっ!」



獲物の血を求め、集団で迫る異様な者達の姿を目にした和馬は、恐怖の余り、思わず叫び声を上げながら、握っていたワイヤーを投げ捨てると、勢い良くドアを開け、慌てて助手席へと乗り込んだ。



「間に合わなくなる!行くぞ!」



シフトレバーをローギアに入れたままの状態で待機していた雄太は、和馬がドアを閉めるのを待たずして、トラックを急発進させる。




『あっ!ドアがまだ……』




助手席側のドアがまだ閉まっていない事を雄太に知らせ様としていた和馬は、間近にまで接近してきた感染者の血に染まった赤い指先が、今、正に自分の足元へと届こうとしていた事にここで気付く。



「うおおっ!」



思わず、叫び声を上げながらシートから腰を浮かし、後退りをしようとする和馬であったが、ここで雄太の咄嗟の判断でトラックを急発進させた事により、すんでの所で何とか足を掴まれずには済んだ。




『危なかった!もし、あの時、雄太さんが急発進をしてくれなかったり、あのままドアを閉め様と手を伸ばしていたとしたら、間違い無く腕を掴まれて、車外へと引っ張り出されていた……』




あのまま、引っ張られて、車外へと落下し、次々と感染者に襲われ、噛みつかれてゆく自分の姿を想像した和馬は、思わず身震いをせずにはいられなかった。

この時、和馬は、今の世界では、何気無い些細な行動一つでも生死を分ける可能性があり、生と死との間が紙一重である事を今、改めて思い知らされたのだった……。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

第40話、いかがだったでしょうか?

次回は、和馬達も首を傾げる謎の物体が登場します。

それでは、次回をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ