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(39) 住宅街にて 1

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回は、和馬達が乗ったトラックがいよいよ住宅街へと突入します。

いったい、住宅街はどんな惨状になっているんでしょうか?

果たして、生存している者はいるのか?

それでは、第39話「住宅街にて 前編」の始まりです。

田園風景が周囲に広がる、のどかな景色を目にしつつ、更に市道を進むにつれ、次第に周りには民家が増え始め、周辺の様子は道路沿いに家屋が建ち並ぶ住宅街へと変わってゆく。



「住宅街か。和馬君。この辺りは、感染者が潜んでいる可能性が高いんじゃないか?」



「そうですね。ここから、先は更に警戒して進まないと……」



周辺に家屋が多くなるという事は、同時にそれだけ感染者と遭遇する確率も高くなるという事であり、その事を充分に理解している雄太はトラックを運転しながらも、周辺の状況に注意を払い、決して警戒を怠らない。同様に助手席に座る和馬も車窓から、外の様子を注視し、道路沿いの家屋から、不意に人影が現れたりはしないか確認を続ける。



「雄太さん。この辺り住宅街だというのに不思議と人影はありませんね」



「うん。今の所は、大丈夫だね。ようし、今の内にさっさとこのエリアを抜け出そうぜ」



不気味に静まり返った住宅街周辺を見回しながら、雄太は一刻も早く、このエリアを通り過ぎ様と考えるが、次第に路上には、放置車両が増え始めた事により、スムーズに前進していた今までとは変わり、今度はトラックの減速を余儀無くされ始める。

今、路上には乗り捨てられた車の他、フロント部分を大きくめりこませ街灯へと衝突している事故車、更には多重衝突を起こしている事故車両も見られ、災厄発生当時、感染者達による襲撃が、いかに人々のパニックを招いたのか、その混乱ぶりを物語っていた。



「うあっ。こいつは酷いな。おっと、危ない!」



路上へと散乱した事故車両の破片と大破した車両をかわす為、雄太は右や左へとハンドルを切り、巧みにジグザグ走行を続ける。



「事故車も酷い有り様だけど、周りの民家もえらい事になっているな」



「そうですね。ほら、雄太さん。あの家なんて、随分と酷い状態ですよ」


和馬が、そう言って指差す先には、赤茶色に変色した飛沫が染みとなって壁一面に放射状に広がっている民家やブロック塀の下へと横たわる幾つもの腐乱死体が見られ、他にも民家の窓という窓は、感染者による襲撃を受けた為なのか、破壊し尽くされてしまっていた。

更に道路沿いの商店については、もっと酷い有り様であり、ショーウインドは破壊され、ガラス入口ドアは、略奪者によって粉々に割られた上に、店先には、商品とおぼしき物が多数散乱した状態となっている。

これは、恐らく感染者が人々を襲い、社会機能が麻痺し始めていた当初、次第に供給が途絶えてゆく物資を何とか確保する為に略奪行為が横行していたのだろう。

まるで、嵐でも過ぎ去った後かの様な、余りにも酷い有り様を見て、思わず溜め息をついた雄太は、ここでトラックのスピードを落として徐行させ、運転席側から、とある一軒のコンビニエンスストアをチラリと見るが、外観の荒れ様から考えても、薄暗い店内は、既に荒らされ、食料や生活物資などのめぼしい物が全て持ち去られている事は容易に想像できた。

ここで、視線を移動し、この店の隣に広がる駐車場へと目をやれば、店内から持ち出されたと思われる商品の類いが、派手に撒き散らかされており、その傍らには、商品を持ち出した当人と思われる1人の男が、遺体へと変わり果て、仰向きに横たわっている姿が見える。

まるで、空を掴むかの様に、上へと突き出された2本の腕が、感染者からの攻撃から、何とか逃れ様としていた犠牲者の必死の抵抗を物語る。

恐らく、略奪行為に夢中になる余り、周囲への警戒を疎かにしてしまった事により、感染者に襲われ、その餌食になるという悲惨な末路を辿る結果となってしまったのだろう。

照りつける強い日差しに晒されて腐乱し、無数の蝿が黒山になってたかる遺体を見つめつつ、雄太はトラックを更に先へと前進させてゆく。

やがて、道路上には、放置された車両が更に増え始め、とうとう、センターラインを大きく跨ぐ形で、斜めに停めたまま乗り捨てられた車両も現れ始める。



「くそっ!何て邪魔な車だ」



雄太は、小さくぼやきながら、やや左側へとハンドルを切り、トラックはガードレールと放置車両との狭い隙間をぎりぎりで通り抜ける。



「ふ〜う。今のは、ぎりぎりだったなあ。まあ、何とかなったけど……。と、思ったら、またかよ!」



何とか、トラックの両サイドを擦る事無く、上手い具合に通り抜けられた事で、雄太がホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、再び前方には道路上を大きく塞ぐ放置車両が姿を現す。



「なあ、和馬君。あの隙間を通り抜けるのは、ちょっと無理だよな?」



「ああ〜。まずいなあ。あれは、流石に無理ですよ」



「仕方無いな。ここで、一旦停車しよう」

今度は、今までとは違い、道路中央と路肩にそれぞれ停められた車両によって、トラックが通り抜けられる隙間がほとんど残されてはおらず、ここで雄太は、仕方無しにトラックを放置車両のすぐ前へと停車させる。



「とりあえず、あの2台の内、どちらが動かせるのか、ちょっと確認してみます。雄太さん、そのまま待っていて下さい」



「わかった、和馬君。それから、周りには充分、気をつけてな」



「了解です」



ここで、一旦、窓を開け、首を窓から出した和馬は、トラックの前後や道路沿いの民家に人影は無いか、注意深く確認を開始する。




『トラックから降りた途端にいきなり感染者に襲われたら、かなわんからな。そうならない為にも念入りに確認しておこう』




腰に装着しているマチェットのシースロックを外した和馬は、わずかな気配も感じ取ろうと感覚を研ぎ澄ませ、割れた民家の窓や建物の陰、放置車両の周辺に感染者の姿は無いか目を凝らす。




『よし、今の所は、大丈夫そうだな。奴らがトラックのエンジン音を聞きつけてやって来る前にとっとと済ませよう』




周囲の安全確認を終え、静かにドアを開けた和馬は、ゆっくりと助手席から降りると、マチェットのグリップを握り締め、そのままシースから刀身を抜き出した。




『頼むから、何も出て来るなよ』




ドアを静かに閉め、前方へと向けてマチェットを構えた和馬は、何も起きない事を心の中で祈りつつ、目の前の放置車両へ向かって歩き出す。

周囲を警戒しながら、一歩ずつ、ゆっくりと前進してゆく和馬の耳には、今の所、トラックの発するディーゼルエンジン音以外、特に気になる音は聞こえては来ず、かえって、その様な周りの静けさが更に不気味さを際立たせる。

いつ何時、周辺民家の開け放たれたドアや窓から、突然、感染者が現れ、襲いかかって来るかも知れないという恐怖感と緊張感から、和馬は構えたマチェットのグリップを更に強く握り締めた……。


最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次回は、和馬達の前に×××が出現します。

和馬達は、迫る危機をどう切り抜けるのか?

それでは、次回をお楽しみに!

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