(30) 国道への移動
読者の皆様、お待たせいたしました。
今回は、第30話「国道への移動」をお送りいたします。
それでは、どうぞ!
先程、現れた感染者が公園内から姿を消してから、10分程の時間が経過し、何とか上手く感染者をやり過ごす事に成功した和馬と雄太は、恐る恐る、植え込みから顔を出すと、周囲を見回しながら慎重に安全確認を行い始めた。
「雄太さん。どうやら、上手くいきましたね」
「うん。これで、何とか見つからずには済んだ。しかし、さあ、和馬君。あれには驚いたぜ」
「ええ。実際に目の当たりにしてみると、あの姿は、もう……」
「ああ。全くなあ。前に録画映像では、見ていたものの、実物は、あんな姿だとはなあ。おかげで冷や汗をかいちまった」
「雄太さん。俺もですよ。まあ、とにかく、見つからなくて良かった」
「全くだよ。なあ、和馬君。さっきの感染者が、また戻って来るとまずいから、その前にここから移動しないとな」
「ええ。今の所は、誰もいないし、移動するなら、今の内ですね」
「よし。じゃあ、行くとするか」
安全確認を終え、今、公園内が無人である事を把握した2人は、植え込みの影から立ち上がると、公園出口へと向かって、再び遊歩道を前進し始める。
「よし、出口だ」
急ぎ、公園出口へと辿り着いた2人は、そのまま、出口側に設けられた車輌進入防止柵の間を通り抜けると、マチェットを構えたままの状態で前方、及び周辺に感染者が徘徊をしていないか安全確認を開始する。
「よし、よし。人の気配は無いぞ」
「ふ〜う。取り敢えずは、問題無しだな」
これより、詳細な状況確認を開始する和馬達の目の前には、道路幅の広い二車線道路が一直線に続いており、今の所は、幸いにも人影らしき物は見当たらず、代わりに路肩には、駐車車両が停められ、車線中央付近には、ドアが開いたままの車両が数台程、放置されたままの状態となっている。
無論、通常ならば、車線中央に車両を停車させておく事など、明らかな道路交通法違反として、即刻、取り締まりの対象とされるのであろうが、今は取り締まるべき執行機関が機能していないばかりか、こういった放置車両を撤去する者も存在してはおらず、結果として災厄発生当時の混乱状態をそのまま残してしまっている様である。
また、これら放置車両のどれもが、ドアが大きく開かれたままとなっている状況から想像するに至っては、突如、感染者集団に襲われ、車両前後を塞がれるなど、緊急事態に陥った挙げ句に、パニック状態になった運転者が、そのまま車両を放棄して逃げ出したといった所だろうか。
その後、この車の持ち主が、いったい、どうなったのかについては、その安否が気になる所ではあるが、あの感染者達が相手では、上手く逃げ切れたかどうかについては、甚だ疑問であり、たまたま運良く建物内にでも逃げ込むか、余程の脚力の持ち主でもない限りは、追跡を振り切れる可能性は、限り無く低いといえよう。
つまりは、こういった悲劇的結末を回避する為にも、感染者との遭遇は極力、避け、移動の際にも周囲の様子に注意を払いつつ、周りから目立つ様な行動を絶対にとらない事が、この世界で生き残れる最良の策であり、今まさにそれを実行しようとしているのが和馬達であった。
「路上には、放置車両が数台か。思ったよりも少ないな」
「ええ。確かにそうですね。俺の予想じゃ、もっとあるんじゃないかと思っていたんですけどね」
「しかも、さあ。普通乗用車ばかりで、肝心のトラックが見当たらないんだよなあ」
「まあ、見つからなければ、トラックは諦めて乗用車で我慢するしかないんですけどね。我慢すると言っても、徒歩で前進するよりかは、マシでしょうから」
「そりゃあ、まあ、そうだな。このまま手っ取り早く、あの放置車両を頂いてしまうっていうのも手かもな。ただ、さあ。ちょっと、ここで不安なのは、あの放置車両内にも、感染者が潜んでいたりはしないのかって事なんだよな」
このまま迂闊に放置車両に接近する事で、感染者による放置車両内や陰からの不意討ちを懸念する雄太は、少しでも安全性を把握しておく為に、首から掛けていた双眼鏡を手に取ると、すぐに放置車両へとレンズを向け確認を開始する。
「どうですか?雄太さん」
「う〜ん。どの車も車内には、誰もいないみたいだな。ただし、車両の陰になっている部分については、ここからじゃ、わからん」
「なら、通り沿いの民家については、どうですか?」
「あ〜、ちょっと待ってくれ。見てみる」
ここで、雄太は、レンズの向きを放置車両から道路沿いへと変え、密接した状態で建ち並ぶ民家へと焦点を合わせると、更に安全確認を続ける。
「どの家も雨戸が閉まっていたり、窓にカーテンがかかっていたりしているから、室内の様子までは、今一わからんなあ。中には、窓ガラスが割れていたり、玄関ドアが開いたままの家もあるけど、まあ、今の所、人影らしき物は見えないな。ん?あれ?ちょっと待てよ」
どうやら、雄太は、安全確認の最中に何か気になる物を見つけたらしく、後方を警戒していた和馬の肩を軽く叩くと、前方のとある場所を指差した。
「何か、ありましたか?雄太さん」
「うん。和馬君。ほら、あれ」
振り返り、雄太が指差す方向を見た和馬は、ここより100m程先に、何やら倉庫にも似た大きな建物が、建ち並ぶ民家との間に建っている事に気付いた。
「雄太さん。あの建物って何ですか?」
「あれってさあ、ちょっと期待の持てそうな建物なんだよ。ほら、こいつで見てみるといい」
雄太から差し出された双眼鏡を受け取り、指差す方向へとレンズを向けて覗き込んだ和馬は、何故、その建物が期待が持てそうな物なのかをすぐに理解し、大きく頷いた。
「ああ、なる程ね」
今、和馬がレンズ越しに見ているスレート張りの倉庫風建物の正面には、大型トラックが余裕で出入り出来そうな程の搬入口に大型シャッターが下ろされており、更にシャッターより上方には、うっすらと消えかかってはいるものの「自動車整備工場」と書かれた看板が取り付けられているのが見える。
「確かに、これは、期待が持てそうですね」
外観を確認した和馬が納得した様に、普段、自動車の整備や修理を主体業務としている自動車修理工場ならば、路上で不動となった故障車を預り、運搬する為のトランスポーター用トラックを所有している場合が多く、上手くいけば、ここでトラックを入手出来る可能性は高い。
「よし、じゃあ、和馬君行くか!」
「ええ。雄太さん」
ここで、2人は、念の為、もう一度、道路上や周辺家屋に人影が無い事を確認するとマチェットを構え、ゆっくりと道路へと歩み出た……。
最後まで、読んで頂きましてありがとうございます。
第30話「国道への移動」いかがだったでしょうか。
次回の話では、いよいよ、更にグロい描写が登場してきます。
ちょっと気持ち悪い内容の話は苦手かな……、という方は、充分、ご注意下さい。
それでは、また!