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(25) 上陸前夜1

読者の皆様、お待たせいたしました。

これより、第25話「上陸前夜1」始まります。

この日の夕方、予定通りにボートは、館山沖へと入り、大型漁港が間近に見える館山湾内へと到着した。

これより先の行動については、もう今の時点で、夕暮れが迫っている事から、日没後の上陸行動は危険だと判断した2人は、館山湾の沖堤(コンクリート製沖合い堤防)にボートを係留し、今夜は、そこで一夜を明かす事にした。

雄太の巧みな操船により、上手く船体を沖堤へと横付けさせると、今度は和馬が、堤防に設置された金属製突起物へと係留用ロープをしっかりと結わえさせ、船体を壁面へと固定させた。



「さて、今日の移動は、これで一先ず終了した事だし、そろそろ、ここいらで早目の夕食にしないか?」



「そうですね。まだ明るい内に済ませた方が良いかもしれませんね」



今は、もう夕暮れになったとはいえ、日が完全に沈んでしまうには、まだ少々の時間がある為、2人は辺りが暗くなってしまう前に船上で早目の夕食をとる事にした。

ここで、和馬が、ザックの中から缶詰、クラッカー、缶コーヒーを取り出して船上へと並べ始め、それを雄太が次々と開封してゆく。

見た所、今日の夕食は、かなり手軽で、どれも加熱の必要が全く無い物ばかりだ。



「ようし、準備できた。さあて、メシにするか」



「ええ。暗くなる前にぱぱっと食べちゃいましょう」



早速、缶詰を手に取った2人は、夕食を食べながら、今日の出来事を振り返り、こんな事を話し始める。



「大島さんに礼菜さんに麻美ちゃん。みんな、今頃は、同じ様に夕食を食べているのかなあ。みんな、まさか、世の中が、あんな状況になっているなんて思いもしないだろうなあ」



「そうですね。いずれ、島へと戻った時に、何て説明したら良いものやら……」



「まあ、ありのままを説明して、受け入れてもらうより、他は無いわな」



「でも、やっぱり、事実を知ったらショックが大きいでしょうね」



「ショックか。まあ、確かにそうだろうな。う〜ん。何だか、相手の気持ちを考えると説明しずらくなって来るなあ」



「ですよね。あっ、ところで雄太さん。話は変わりますけど、俺、ちょっと疑問に思っている事があるんですよね」



「疑問?」



「ええ。俺達って、ウイルス感染の疑いをかけられて北神島へと連れて行かれた訳ですよね。もしも、それが、隔離だとしたら、隔離自体は出来ている訳なのに何故、日本全国にあのウイルスが蔓延したんですかね?」



「う〜ん。それも、そうだな。確かに和馬君の言う様に、これじゃ、隔離した意味なんて全く無いよな。そう考えると、俺達が島へ連れて行かれる理由だって無かった訳だよな。だいたい俺達は、病気を発症しているわけでも、無いんだよね」



「そう、そう!そう、なんですよね。今だって、ぴんぴんしている健康な俺達が、あの島へと連れて行かれるなんて、全くおかしな話ですよ。それと、後もう1つわからないのは、今回、発生した病気は、最初の政府発表では、新型肝炎だと言っていたんですけど、何故か、後々の発表では、劇症型殺噛症に病名が変わっているんですよね。あれは、どうしてですかね?」



「う〜ん。確かにそれも疑問だよな。病名を変えるのには、何か、それなりの理由があったのだとは思うんだけど、その理由までは、俺にもわからんなあ。ただ、今回の色々な出来事の真相について知る為の手掛かりを掴むとしたら、やっぱり、あの研究所へ行ってみるのが一番かもな」


「俺達が睡眠薬を注射された、あの研究所の事ですね」



「うん。そうだ。あの研究所なら、何か真実を知る為の糸口ぐらいは見つかると思うよ」



「やっぱり、真実を知っておかないと納得が出来ないですよね」



「ああ。その為にも、木更津の研究所には、絶対に行ってみる必要があると思う」



「ええ。行きましょう。絶対に」



館山上陸後の木更津研究所行きを決めた和馬と雄太は、お互いに頷く。

やがて、簡単な夕食も終わり、そろそろ日も沈み始め様としていた頃、遠く離れた水平線の彼方に美しく茜色に染まる夕景を見つめながら、和馬は呟く。



「2ヶ月……。たった2ヶ月足らずで、日本が、こんな事になってしまうなんて……。ただ、全て現実に起きている事だというのに、まだ今一つ現実感がない。だから、こんな感じにも思えてきてしまう。実は、漁労長の話も観せてもらったビデオにしても、全て作り話で、本当は今、ここから見える沿岸の町には、以前と変わらずに普通に人が暮らしているんじゃないかと……」



隣で、同じく夕景を見つめていた雄太は、和馬の肩を軽く叩いた後、こんな返事を返してきた。



「まあ、なんというか、言ってみれば、余りに周りを取り巻く状況の変化が激し過ぎて、こっちが、それに追いついていけ無くなってきている感じがするんだよな。


あとさあ、あの時、観せてもらったビデオ映像だって、何だか非現実的過ぎて、まるで映画か何かのシーンを観せられている様にも思えたもんな。だから、和馬君が、今、起こっている事をすぐには、信じられないという気持ちは、俺にも良くわかるよ。たださあ、源田漁労長の話やビデオ映像が本当なのかどうかについては、これから日が落ちてから、はっきりわかると思うよ」



「日が落ちてから?」



「そう。日が落ちてから……」



ここで、雄太の言う「日が落ちてからわかる」とは、一体どういう意味なのだろうか?



その言葉の意味については、日がすっかり沈み、頭上に星空が見える様になった頃、はっきりとわかる事となった。

最後まで、読んで頂きましてありがとうございます。

次回は、第26話「上陸前夜2」をお送りいたします。

お楽しみに!

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