表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/86

(23) 本土へ向けて

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回は、いよいよ、本土に向かう為、和馬達が島を出航する迄の話です。

それでは、第23話の始まりです。

もう、和馬への説得は無理だと感じた漁労長は、今度は、雄太の方へと顔を向けると、先程と同じ様に説得を行い始める。



「さて、あんたは、どうするかね?やっぱり、あんたは、ここに残るよな」



「いえ、俺も本土に行きますよ」



「えっ?」



当然、雄太の方は、島に残るだろうと考えていた漁労長は、思いもよらぬ返事が返って来た事に驚きの表情を浮かべ、思わず声を荒げる。



「おい、おい。あんた正気か。さっきのあの映像を観ても、まだわからんのか!これから、本土に行くってのは、わざわざ死に行く様なもん何だぞ!」



雄太の予想外の返事を聞いて驚いていたのは、漁労長だけではなく、和馬も同様であった。



『雄太さん、本気なのか?前に雄太さんと家族の話をした時には、確か親兄弟は、いないと言っていたけど……。それなら、雄太さんが本土に戻らなくてはならない理由とは、一体、何なのだろう?』



どうしても和馬には、雄太が、本土へと戻りたいという理由がわからなかった。

腕を組みながら、頭を傾げている和馬を見ていた漁労長は、もう一度、意志を確かめる為に雄太に質問をする。



「本当にあんたも行くのか?今、本土が危険だという事が、わかっているんだよな?」



「ええ。もちろん、あんな所に行くのは、危険だって事位わかっていますよ。特に1人で行くつもりなら、なおさらね。だからこそ、俺が一緒に行って和馬君をサポートするんです。1人で行くよりも、やっぱり2人の方が安心でしょ。それに、ちょっと個人的に本土で調べておきたい事もあるんでね」



雄太の返事を聞いた漁労長は、深い溜め息つくと、そのまま両腕を組み目を閉じた。

漁労長は、少しの間、沈黙し、何かを考えている様子だったが、再び目を開けると、両手で膝の上を叩き、勢い良く立ち上がった。



「よしっ。わかった。2人共、決意は固い様だし、もう何も言わん。お〜い、宮本、ちょっと来てくれ」



「は〜い。今、行きます」



どうやら、漁労長から宮本と名前を呼ばれた男は、先程から部屋入口近くで待機していたらしく、ドアを静かに開けると、直ぐ様、応接室内へと入ってきた。



「はい。何でしょうか?」



「さっき、この2人から取り上げた山刀を返してやれ」



「えっ?いいんですか?」



「ああ。それから、ガソリンを20L缶に入れて2人に渡してやれ」



「わかりました。では、すぐに用意してきます」



漁労長より指示を受けた宮本は、急ぎ足で応接室を出ると、入口で待っていた、もう1人の男と共に屋敷の外へと走っていった。

宮本に指示を出した漁労長は、和馬と雄太の方へと向き直ると、ここで静かに頭を下げた。



「2人共、最初に合った時、色々と嫌な思いをさせて済まなかった。まあ、今がこんな状況な訳だから、取り敢えずは勘弁してくれ」



漁労長に頭を下げられた2人は、慌ててソファーから立ち上がると、揃って頭を下げる。



「いえ。そんな。突然、この島へやって来た俺達だって悪いんですから、どうぞ頭を上げて下さい。それに、こちらとしては、色々と情報を教えて頂いた訳ですから、とても感謝しているんですよ」



「そうか。それなら良いが……」



「ところで、漁労長は、先程までは、俺達の本土行きを反対していましたけど、何故、賛成してくれる気になったんですか?」



「え?本土行きの話なら、今でも反対しているぞ。でもな。そうは言っても、あんたが家族を救い出したいという願いを後押ししてやりたい気持ちもあるんだよ。俺なんか、もう家族を失ってしまったも同然なんだが、まだ家族が無事でいる可能性のある、あんたには、諦めないで欲しいとも思う訳さ」



「漁労長、ありがとうございます」



「よし、じゃあ、そろそろ港の方へと行くとするか。あっ、そうだ。ちょっと待てよ。2人共、ちょっと渡したい物があるから、少しの間だけ、待っていてくれないか?」



「あ、はい。いいですよ」



「すぐ戻って来る」



漁労長は、和馬と雄太にそう言い残すと、足早に応接室を出て行き、それから10分後、ある1枚の紙を持って、再び戻って来た。



「待たせたね。さっき、あんたら千葉へ戻ると言っていたから、航行上の役に立つと思って、この島から房総半島南端付近までの海域図をコピーしてきたんだ。良かったら、これを持っていきなさい」



漁労長は、4つ折りにした海図のコピーを和馬へと手渡す。



「漁労長、ありがとうございます」



海図を受け取った和馬は、礼を言いながら、深々と頭を下げる。



「よし、じゃあ、港へ行くか。今、この時刻なら、出発しても夕暮れまでには、何とか本土まで辿り着けるだろう」



「はい」



すぐに応接室を離れた3人は、屋敷を出ると、ボートが係留してある港へと向かって歩き出す。




3人が港へと到着すると、既に和馬と雄太が乗って来たボートの前には、男達が待っており、皆それぞれの顔には、殺気だった表情がすっかり消えている様子から、どうやら、先程までの漁労長と和馬達とのやり取りを知って、誤解そのものが解けた様であった。

ここで、男の1人が、和馬と雄太の前へと歩み出ると、手に持った2本のマチェットを差し出した。



「こいつは、返しておくよ。それから、さっきは、すまなかった。俺らは、てっきり、略奪者が来たのかと勘違いしちまってよ」



「いえ。こちらこそ、何も事情も知らずに勝手に上陸してしまった訳なので、まあ、お互い様ですよ」



「そう言って貰うと助かるよ。ところで、2人共、本土に行くんだってな。あそこは、相当にヤバいぞ。充分に気を付けろよ」



「ええ。ありがとうございます」



差し出されたマチェットを受け取った和馬達は、シース部分をベルトへと通し、腰の位置へと移動させた後、そのまま吊り下げた。



「ガソリンは、もうボートに積み込んだか?」



「はい。漁労長。携行缶にて2缶分、ガソリンを積み込んであります」



「よし。これで、すぐに出発できるな」



「あのう。漁労長」



「ん?どうした?」



後ろから、呼ばれた事で、振り返る漁労長を前にして、和馬と雄太が深々と頭を下げる。



「色々と親切にしていただいてありがとうございます。それから、失礼ながら、自分達は、まだ名前を名乗っていませんでした。自分は、中城和馬と言います。そして、こちらは……」



「川島雄太です」



「そうか。俺の名前は、源田誠だ。それじゃ、中城……。いや、和馬と雄太。2人共、充分に気を付けてな。家族を無事に助け出したら、また、ここに戻ってこいよ」



「はい。源田漁労長。ありがとうございます」



再び、源田漁労長に頭を下げた和馬と雄太は、ゆっくりと波止場を降り、係留中のボートへと乗り込む。

ビット(係船柱)の前に立っていた男が、ボートを繋いでいた係留ロープを外すと、ボート内へと投げ入れ、それを確認した雄太は、船尾へと座ると船外機のスターターロープを掴んで勢い良く引き、エンジンをスタートさせる。

すぐに4サイクルエンジンの力強い音が響き、徐々に雄太は、エンジンスロットルを上げつつ、ゆっくりとボートを前進させる。

和馬と雄太は、波止場に並んで見送る男達に対して一礼し、それを見ていた漁労長も小さく手を上げる。

ボートは、海面上に白い航跡を残しつつ、徐々にスピードを上げ始め、ボート上から見える、見送る男達の姿も次第に小さくなってゆく。





最後迄、読んで頂きまして、ありがとうございます。

いよいよ、第1章終了迄、あと残り3話となりました。

今は、第2章を大幅に加筆修正しながら、第3章の文章作成、第4章のプロット作成に取りかかった所であります。

これから先も、ストーリーは、まだまだ続きますので、今後とも、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ