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(20) 悪夢の様な世界2

読者の皆様、お待たせいたしました。

第20話の始まりです。

今、画面上には、横浜市街地の模様が中継映像にて、映し出されているが、もう既に街中には殺噛症感染者が多数、徘徊しており、次第に集団を形成し始めていた。

まるで互いが引き寄せられるかの様に集団化した感染者達は、互い同士を仲間として認識しているのか、傷付け合う様な行為は全くせず、非感染者を見つけ出した時のみ、暴徒の群れとなって襲いかかっていた。

一方、この最悪な事態を一刻も速く鎮圧する為、現在、残存している警察官が全国で総動員され、各地において、暴徒鎮圧任務遂行の為、大規模な作戦行動が展開されていた。

ここ横浜でも、大規模集団化した感染者による侵攻を食い止めるべく集結した警官隊による、第1隊及び第2隊に分かれた2段構えの非常線が張られており、第1隊には、盾と催涙弾使用による侵攻阻止が主任務として与えられ、もしも封鎖が突破された場合には、放水銃と火薬実銃を装備した第2隊が実力行使に踏み切る手筈となっていた。

ここで、手に持ったライオットシールド(対暴徒用盾)を前へと突き出し、横1列に並んだ警官隊第1隊は、迫り来る感染者集団に対し、まずはハンドマイクを使って投降を呼び掛けるが、既に理性そのものを失っている感染者達が、即時停止の命令に応じる筈も無かった。

この時、感染者達は、目の前で立ち塞がる警官隊を単なる獲物としか認識してはおらず、最早、連中の侵攻を食い止めるには、直接、力による実力行使に踏み切る以外に、もう手段は残されてはいなかった。

全く勢いが止まらず、更に接近を続ける感染者集団を命令で停止させる事など無理だと悟った警官隊は、何としてでも侵攻を食い止める為、歯を剥き出し、叫び声を上げながら、走って来る感染者達へ向けて催涙弾の一斉発射を開始した。

ガスマスクを装着した各発射要員が構えたランチャーから、大きな発射音と共に撃ち出されたガス弾は、大きく弧を描きつつ、白いガスを煙幕の様に撒き散らしながら、地面へと落下し、化学剤による霧を一面に立ち込めさせ始めるが、対する感染者達は、催涙ガスに全く怯む事無く、ライオットシールドと警棒を持った警官隊第1隊と前面から衝突した。

これに対し、警官隊は、ライオットシールドを重ねる事で、互いを隙間無くカバーし合い、押し寄せる感染者達の侵攻を阻みつつ、もう一方の手に握った警棒を力一杯振り降ろしながら、感染者の押さえ込みにかかる。

黒く長い警棒が、感染者の頭上へと幾度と無く振り降ろされる度に、嫌な鈍い音と共に勢い良く吹き出した鮮血が、警官の体やシールドへと一面に飛沫となって付着してゆく。

繰り返される警棒の殴打により、頭蓋骨を割られ、激しい痙攣を起こし始めた感染者達は、そのままライオットシールドに向かってのし掛かり、更にその後方からは、別の感染者達が、狂った様な叫び声を上げながら、両腕を突き出したまま、押し寄せて来る。

更に、別方向から出現した感染者達は、警官隊の側面方向からも襲いかかり、手薄であった別方向からの襲撃を受けた事で警官隊第1隊は、陣形が総崩れとなり、次第に鎮圧任務継続が困難な状況へと陥り始める。

今、まさに、まるで荒波の如く、次々と押し寄せて来る感染者達の数は、完全に警官隊第1隊の総数を凌駕しており、最早、鎮圧はおろか、抵抗も虚しいまま、警官隊は圧倒的規模の感染者集団によって瞬く間に飲み込まれてゆく。

こうして、あっという間に警官達が押し倒され、警官隊第1隊による封鎖が突破されてしまった事により、やむ無く、暴徒鎮圧の最終手段として、警官隊第2隊による、放水及び実銃による一斉射撃が開始され周辺一帯には、激しい射撃音が連続して響き渡った。

この時、放水車による連続放水は、感染者達の侵攻を一時的に食い止める事に関しては、ある程度の効力を発揮していたが、もう一方の実銃による射撃については、押し寄せて来る人数に対しての火力が弱く、余りにも分が悪過ぎた。

警官隊の所持するリボルバー式拳銃ニューナンブM60のシリンダー(回転式弾倉)には、5発の弾丸が装填されているが、ボックス式マガジンとは違い、ひとたび全弾を撃ち尽くしてしまうと、シリンダー内に残った薬莢の排出、更に弾丸の再装填には、どうしても時間が掛かってしまう。

これでは、危険が目前に迫った時に、肝心の応戦が出来ず、次の射撃に移る迄のこのタイムロスが、そのまま命取りへと繋がっているとも言えるだろう。

この為、シリンダー内全弾を撃ち尽くした後の警官達は、次の弾丸の再装填に手間取る内に感染者によって、体を掴まれ、次々と押し倒されてゆく。

ここで、何とか、再装填が完了し、射撃体勢に入る事が出来た警官でも、押し寄せて来る感染者の群れには、最早、成すすべは無く、結局、警官隊第2隊も第1隊と同じ末路を辿っていった。

こうして、強固にも思えた非常線は消滅し、警官隊が全滅した後には、自警組織を気取ったグループや離れた位置から状況を観察していた一般市民が残された。

もう、自分達を守ってくれる武装組織の姿も無く、やっと自分達の置かれている危機的状況に気付き、慌てた様子で悲鳴を上げながら逃げ惑う人々に対し、感染者達は、次々と容赦無く襲いかかる。

今、現実に起こっている惨劇の一部始終を克明に捉え続ける報道カメラの前では、逃げ回る人々を獲物として追跡する感染者の姿と逃げ切れずに捕捉され恐怖に満ちた最期を迎えた犠牲者達による絶望的な世界が広がっていた。




不幸にも、何人もの感染者達に体を掴まれ、力ずくで押し倒された人々は、そのまま、アスファルト道路上へと倒れ込み、その体へとのし掛かった感染者達は、叫び声を上げながら、捕らえた人々の腕や足、更には顔や首筋を一斉に噛みつき始める。

感染者によって、がっちりと体を掴まれ、幾度も体の柔らかな部分を噛みつかれている人々は、余りの激痛に悲鳴を上げながら、必死にもがき続けているが、この状況では、もうどうする事も出来ず、このまま、死を待つより他は無かった。

皮膚に深い傷を負った事により、体の各所から、多量の出血を起こし始めている被害者を更に何度も繰り返し噛み続けた感染者達は、驚くべき事に、今度は傷口へと、口元を密着させ、吹き出し、流れ出る血液を夢中になってすすり始める。

やがて、襲われた被害者が、苦悶に満ちた表情を浮かべたまま絶命し、流れ出ていた血液をすすり取ってしまうと、感染者達は、まるで用済みになったといわんばかりに遺体を突き放し、すぐに次の獲物を狙って追い掛けてゆく。

大量に飛散した血液を全身に浴びた事で、顔や手足、着ている衣服を血塗れにさせたまま、更なる獲物を追って走ってゆく、その姿はまるで野獣、いや、伝説にて語られている吸血鬼の姿そのものであった。

そして、狂気に満ちた吸血鬼集団が走り去った後には、大量出血により、凄惨な姿となった遺体が路上の各所にて、累累と横たわる……。




これまで、中継されていた映像は、横浜市街地における模様であったが、同様の事は、もう既に全国規模で繰り広げられており、人口密集地帯はおろか、最早、日本国内全域が地獄へと化していた……。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

第20話いかがだったでしょうか。

次回は、暴動鎮圧に出動した自衛隊側と感染者集団との戦いの話になります。

では、次回をお楽しみに!

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