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(19) 悪夢の様な世界1

読者の皆様、お待たせいたしました。

物語の始まりから今まではサバイバル編が続いていましたが、いよいよ、ここから先は、ホラー編の始まりとなります。

今回の話では、一部残酷な表現も出てきますので、読む際にはご注意ください。

今、和馬達の目の前にある50インチ大型スクリーン画面上には、録画日と録画タイトルに関するサムネイル一覧が表示されており、漁労長は、この一覧の中から、今より2ヶ月前の日付が表示されたサムネイルを選択すると再生を開始した。

直ぐ様、スクリーン画面上に映し出された映像は、どうやら当時のニュース番組を録画した物らしく、ここから次々に見せられる新たな事実を目の当たりにするにつれ、和馬達は、その衝撃的な内容に驚愕させられる事になる。




今、再生されているニュース番組は、急遽、通常番組と差し替えれた緊急特別番組の様であり、映し出されている報道デスク側では、まだ事態に対応仕切れていないのか、ニュース原稿を読み上げるアナウンサーの後ろでは、テレビスタッフが非常に慌ただしい様子で動き回り騒然としている状態であった。

次々と速報として、新たなニュース原稿がアナウンスデスクへと届けられて来る中、テレビカメラ前では、男性アナウンサーが緊張した面持ちで、届けられた情報を視聴者へと向けて、読み上げ続けていた。



「では、繰り返し、お伝えいたします。只今、当番組は、通常の番組を変更致しまして、緊急特別番組を放送しております。一昨日から、今日にかけまして、九州及び西日本を中心とした各県内において、突然、意識を失い、そのまま倒れ込んでしまう症例が相次いで報告されておりますが、現在、この症例が、更に急激に増加しているとの報告が入って来ています。突然、意識を失い、病院へと搬送された患者数は、本日15時現在で、西日本だけでも4000人を超えており、患者数は今後も更に増えるという見方が強まっております。あっ、ただ今、入って来た情報によりますと、関東及び、中部、北陸地方各県でも、同様の症例が報告され始めているとの事です。まだ、詳しい原因が判明していない、この症例は、次第に全国規模へと拡がる様子を見せており、各県の総合病院においても、医療スタッフが、24時間体制で対応に当たっておりますが、次々と搬送されて来る患者に対し、対応が間に合わず、現在も苦慮しているとの事です。それでは、中継で大阪総合病院の模様をお伝え致します。現場の大塚さん……」



ここで、映像は、中継先へと切り替わり、慌ただしく動き回る医師や看護師、次々とストレッチャーで運び込まれる患者の姿が大きく映し出された……。




全く予想もしていなかった内容に驚く和馬と雄太の目は、そのまま画面へと釘付けになっており、ここで、一旦、再生を止めた漁労長は、別のサムネイルを選択すると、再び、再生を開始した。




「今度は、さっきの放送の1日後だ」



再び、画面に映し出された映像は、先程と同じ様なニュース番組だったが、その内容は、より深刻な物となり、状況は更に悪化の一途をたどっていた。

「只今、入った情報によりますと、北海道でも同様の症例が確認され、これで全都道府県の患者数を合計しますと、報告及び、確認されただけでも15000人もの数に迄のぼっている事が判明致しました。ですが、これは、総合病院の報告による物のみであり、まだ報告されて来てはいない病院の患者数などを合わせますと、医療専門家の話では、患者数は30000人にのぼるのでないかと見られています。また、次々と搬送されて来る患者に対し、対応が間に合わず、機能がマヒ状態に陥る病院が増え始めているという報告も入って来ている他、各自治体では、公共施設の開放や仮設テントの設営によって、不足しているベッド数への対応を行っているとの事です。一方、全国規模で拡大を続けている今回の症例に関する詳しい原因やメカニズムについては、まだ判明してはおらず、最近、実施されていた検査採血の対象である新型肝炎と何か関係があるのかどうかについても、政府からは、まだ発表がなされてはいない模様です。また、新たな情報として、現在、国内を混乱状態に陥れている、この症例に対し、世界各国の医療機関でも医療援助へ向けて動き出したとの報告が入って来ており、WHOでは、緊急に医療調査チームを派遣すると……」



ここで、漁労長は、また再生をストップし、表示されているサムネイル一覧の中から、別のサムネイルを選択する。

「実はな。今回の災厄の本当の問題は、ここからなんだよ」



これから、再生される一連の内容を見る事で、和馬と雄太は、拡大を続ける謎の病気の本当の恐ろしさを知る事になる。



「ここから先は、あんたらにとって、衝撃的な内容になるだろうから、覚悟した上で見てくれよ」



静かに、そう告げた漁労長は、黙ったまま頷く和馬達をちらりと見た後、別のニュース映像の再生を開始する。



「現在、当放送局は、24時間体制で緊急放送を行っております。それでは、まず、政府からの発表によりますと、現在、拡大を続けている原因不明の症状による患者数は、厚生労働省の統計報告により、50万人を越えたとの発表がありました。しかし、医療専門家側の見方としては、この統計数は、まだ氷山の一角であるとしており、実際の患者数は、この10倍の数に及ぶのではないかと見られています。また、この病気については、新たな情報も入って来ています。その情報によりますと、今まで昏睡状態であった患者が次々と目覚め始めているとの事です。しかし、その患者は……」



ここで、突然、アナウンスが止まり、アナウンサーは、明らかに動揺した様子を見せながら、もう一度、ニュース原稿を読み返し始めた。



「あっ、その、失礼致しました。昏睡状態から目覚めた患者についてですが、覚醒後は突然、錯乱状態となり、側にいた看護師に襲いかかったとの情報が寄せられています。にわかには、信じられない様な話ですが、目覚めた患者が人に襲いかかったという報告は、まだ他にも幾つか寄せられており、当局でも、この報告に関する事実確認を急いでおりますので、詳細が解り次第、追ってお伝え致します」



ここで、漁労長は、リモコンを手に取ると、再生映像の早送りを行い、先程より3時間後の再生を開始した。



「ここまでは、同じ内容の繰り返しだから、3時間先まで、サクッと飛ばしたぞ」



「只今、政府から緊急発表がありました。現在、日本全国で猛威をふるっている原因不明の症状について、政府、及び、厚生労働省は、その原因を新種のウイルスによる物と断定し、病名を激症型殺噛症(げきしょうがたさっこうしょう)と発表致しました。この激症型殺噛症について、厚生労働省は、病気の症状に第1期と第2期症状があるとしており、第2期症状へと移行した患者は、非常に危険との事です。発症初期段階である第1期症状につきましては、患者は昏睡状態ですが、第2期症状へと移行した場合は、覚醒しており、すぐに錯乱状態へと陥るとしています。この覚醒した第2期症状の患者は、次々と非感染者を襲い始めており、政府は、殺噛症患者を収容している全国の病院に対し、速やかに患者を隔離、または拘束する様に呼び掛けています。繰り返し、お伝え致します。本日、政府は現在、拡大を続けている病気の原因を新種のウイルスによる物と断定し、病名を激症型殺噛症と発表致しました。既に全国規模へと拡がった、この病気により、第2期症状へと移行した患者が、街中を徘徊し、次々と非感染者を襲い始めている事から、政府は国内治安維持の為、警察官を総動員して、事態の対処に当たらせる他、一般市民についても、安全の為、自宅から絶対に出ない様、呼び掛けています。それでは、ここで、現在の状況を中継でお伝え致します」



ここで、テレビ映像は、報道フロアから、病院中継へと切り替わり、現在の病院での切迫した状況が克明に映し出された。

この中継映像によって明らかとなる病院内での様子は、酷く騒然としたものになっており、廊下を慌ただしく駆け回る看護師の姿や各病室から聞こえて来る唸り声や叫び声が重なり合い、廊下中へと不気味に響き渡る、異様な状況となっていた。

やがて、撮影カメラは、廊下側から病室内へと移動し、室内の様子を克明に映し出すが、そこには、目を疑う様な最悪の光景が広がっていた。


本来であれば、治療の為、ベッドの上で安静な状態でいる筈の患者達は、全てベルトを使って、体全体をベッドへと拘束された状態になっており、唯一自由に動かせる首をもたげ、激しく頭を振り回しながら、異様な叫び声を上げ続けていた。

狂気に満ちた表情を見せ、大きく歯を剥き出したままの患者達は、医療関係者からは、殺噛症感染者と呼ばれており、近くにいた看護師を見るや否や、すぐに噛み付きたい衝動に駆られるのか、大きく口を開けたまま、泡立った唾液を口角から垂れ流しながら、体をもがかせ続ける。

これら、殺噛症感染者を収容している病室内には、感染者を拘束した状態のベッドが所狭しと並び、室内中に思わず耳を塞ぎたくなる様な叫び声が大きく響き渡る。



次に、撮影カメラは、狂気に満ちた病室を出て、別の病室内の様子を映し出してゆくが、どの病室も状況は、全く同じであり、中にはドアの取っ手部分に鎖が幾重にも掛けられ、外へと出れぬ様、封鎖措置がされている部屋もあった。

恐らく、これは、ベッド数が足りず、拘束する事が出来なかった第1期症状の感染者達が多数、この部屋へと隔離収容されていると考えられるが、もう既に感染者達は覚醒状態へと移行しているらしく、室内からはドアや壁を激しく叩き続ける音が止むこと無く鳴り響き、鎖で封鎖された観音開きのドアが今にも開かんばかりに小刻みに揺れ動く。唯一、ドアの開放を防いでいる、幾重にも取っ手部分に掛けられた鎖を大きくクローズアップした撮影カメラは、次に廊下側で上半身が血塗れ状態のまま、うずくまっている看護師の姿を映し出した所で何故か映像は中断してしまった。



ここで、漁労長は、レコーダーの映像再生を停止し、すぐに別のサムネイルを選択して、再生を開始する。



「只今、新しい情報が入りました。現在、国内における治安維持の為、全警察署員が出動し、対処に当たっていますが、政府による新たな発表によりますと、更に陸海空各自衛隊の緊急出動も要請したとの事です。また、本日11:00、現時刻を持って、国家非常事態宣言を発令したとの発表がありました。繰り返し、お伝え致します。政府は、国家非常事態宣言を発令致しました。この国家非常事態宣言の発令により、国内全放送局の放送及び情報網は国の直接管理下に置かれる他、電話、インターネットの通信網は、政府及び公用専用回線となる為、公用以外による使用は、大幅に制限が掛けられるとの事です。また、全国各地における主要な自動車専用道路及び高速道路の利用につきましては、警察、消防、自衛隊等、国家専用車両優先となる為、民間車両の通行については、各所で進入規制が掛かり始めたとの情報が入って来ております。

次に、電気、ガス、水道等のライフラインについてですが、今回の非常事態による影響とみられる供給停止が全国各地で相次いで発生しており、今の所、原因の特定はおろか、復旧の目途すら全くたってはいない模様です。更に今、日本国内中が、こうした緊急事態に見舞われる中、都市部を中心に暴徒化した感染者集団による無差別殺害行為が大規模発生しており、各地の避難施設が相次いで襲撃を受けている他、不安に駆られた住民が自宅を放棄し保護を求めて、警察署に殺到している状況となっております。これに対し、政府は、避難施設や病院が既に機能停止状態に陥っている事から、民間人は絶対に近づかない様、呼び掛けており、感染者による襲撃から身を守る為にも、厳重に戸締まりをした上で、そのまま自宅に留まる事が最善策だとしています。次に、現在、首相及び関係閣僚は、総理大臣官邸内危機管理センターにて、指示を発令しておりますが、治安状況の悪化に伴い、地下シェルターへの移動準備を始めたとの情報が入って来ております。また、日増しに悪化し続ける状況に対し、各地に軍事基地を持つ、在日アメリカ軍のデフコンレベル(戦争準備態勢)はレベル4からレベル3へと引き上げられたと報じられています。これは、第5空軍司令官であるアルバート空軍中将からの発表によるもので、デフコンレベル引き上げ後の在日アメリカ軍各基地においては、正面ゲートが完全封鎖され、非常警戒態勢に入ったとの事です。更に先程、入りましたアメリカ合衆国ホワイトハウス・サラス報道官からの発表によりますと、アメリカ合衆国政府は、日本国政府からの救援要請を受け、ハワイ沖で展開中のアメリカ海軍第7艦隊所属の強襲揚陸艦ボノムリシャール及びドック揚陸艦ジャーマンタウンを日本へ向け、急遽、派遣すると発表致しました。また、これは未確認情報ではありますが、青森県三沢航空基地にアメリカ空軍所属Cー130型輸送機が数機、飛来して来たとの目撃情報が多数寄せられており、外観の特徴から見て、軍事アナリストの見方では、空軍特殊コマンド所属のACー130対地攻撃機の可能性が高いとの事です。このACー130攻撃機と見られる機体の緊急配備が、日本国政府側の要請による物なのか、または、在日アメリカ軍側独自としての感染者への大規模な対人攻撃計画を意味しているのか、様々な憶測が飛び交っていますが、まだ、今の所は、はっきりとした事実確認が、できてはいない模様です。それでは、ここから先は、各地の状況を中継でお伝え致します」



今、テレビ画面上には、各地の航空、船舶、鉄道関連や警察署に関する情報がテロップによって流されているが、こちらも通信途絶、または閉鎖が相次いで発生し始めており、これより以前に機能停止した全国の避難施設や医療機関と、やがては同じ末路を辿ろうとしていた。

今、まさに刻刻と悪化し続けている状況を緊急にて伝えてゆく中、ここから先、画面は、報道フロアから、外部の中継映像へと切り替わり、再生映像を食い入る様に観ている和馬と雄太は、殺戮者集団とも言うべき感染者達がもたらしてゆく凄惨な状況を、これから目の当たりにする事になる……。

最後まで、読んで頂きましてありがとうございます。

第19話「悪夢の様な世界」いかがだったでしょうか?

読者の皆様からは、やっとホラーの始まりかよと言った声も聞こえそうなんですが、ホラー小説の看板を掲げた通り、ここから先のストーリーは、一気にホラー色が強くなっていきます。

さて、次回の話については、殺戮者集団と化した殺噛症感染者達とそれに立ち向かう警察側との死闘が繰り広げられる内容となっています。

それでは、次回をお楽しみに!


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