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(18) 新たな住人

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回は、更に新しい人物が登場します。

果たして、この人物が、不穏な状況へと追い込まれた和馬達にとっての味方となるのか、否か……。

それでは、第18話、お楽しみ下さい。

「いったい何事だ!」



先程から、睨み合っている男達の耳に野太い男の声が聞こえてくる。

大股でゆっくりと歩いて来た大柄なその男は、対立する男達の間に割って入ると、刃物を構えている男の1人に対し、同じ様な強い口調で、こう問いかけた。



「おい、この人達は?」



鋭い目つきでジロリと見られた、その男は、刃物を持った手を下へと下げると、慌てた様子で質問に答えた。



「あ、はい。漁労長。こいつらは、この島へ勝手に入って来た不審な奴らです」



「ほお〜、不審者ねえ」



「そうなんですよ。漁労長」



男達から漁労長と呼ばれている、背が高く、がっちりとした体つきをしている、この男は、手で顎をしゃくりながら、和馬と雄太の顔をじっと見ていたが、今度は、先程とは打って変わった静かな口調で2人に尋ねてきた。



「あんたらは、この島へ何しに来たんだね?」




『おおっ!さっきとは、随分と口調が変わったぞ。何となく話せそうな雰囲気だし、もしかしたら、この人とだったら、上手く話が通じるかも知れない』




現在のこの危機的状況を何とか脱したいと願う雄太は、やっと会話が成立しそうな常識人とも思える人物が、現れた事により、事態が良い方向へと好転する事を期待しつつ、男の質問に対して返答する。



「実はですね。俺達は訳があって……」



「あ〜、雄太さん。ちょっと、待って下さい」


何を思ったのか、急に雄太の目の前へと、和馬が手を伸ばし、もうこれ以上、何も返事をせぬ様、話を遮った。



「えっ?何?」



この時、返事の途中で、いきなり中断させられた雄太は、怪訝そうな表情で和馬を見るが、当の和馬は、何か腑に落ちない点でもあるのか、顎に手を当てたまま、何か考え込んでいる。




『いや〜、何か、引っ掛かるなあ。さっき、男の1人は、俺達に対して、助けを求めに来たのかと言っていたよな。あの時、一瞬、なぜ俺達の行動を既に解っているのかと思って驚いたけれど、相手は、同時に、どこから来たのか?とも、聞いていたんだよな。そうなると、俺達のいた島の事は、何も知らない事になる訳だから、それなら、どうして俺達が助けを求めに来た事が解ったんだろう?ん?いや、待てよ。もしかしたら、俺達の知らない、何か別の事件が起きたのかも知れないぞ。世間で何かが起きて、俺達がそこから避難をして、救援を求めに来たのかと思われているのかも知れない。ん〜、だとしたら、ここは、ひとつ、はっきりと状況が解るまで、あの島の事は黙っておいた方が良いかもな』




どうも、男達の言葉に疑問を感じた和馬は、様子を見る為、あえて、ここで真実を隠し、嘘をつく事にした。



「実はですね。俺達、沖合いで船釣りをしていて、潮の流れに船が流されてしまって現在位置が解らなくなってしまったんですよ。それで、船を走らせて、やっとこの島を見つけてたどり着いたという訳なんです。だから、俺達は、決して、皆さんが思っている様な、怪しい者では無いし、迷惑をかけるつもりもありません。ただ、俺達は、こんな状況なので、連絡をとる為に電話を貸して欲しいだけなんです」



「はあ?電話だと!」



「おい、電話だってよ。今更、どこに掛けるっていうんだよ」



「全く意味の無い事を言ってるぜ。こいつはよう」



和馬が電話という言葉を口にした途端に何故か男達が口々に騒ぎ出す。



「うるせえぞ!お前ら、静かにしろ!」



「す、すみません、漁労長」



男達の騒ぎに対して苛立った漁労長による、迫力ある一喝で、今まで騒いでいた男達は、一斉に水を打った様に静かになる。



「あ〜、2人共、驚かせてすまんな。さて、話の続きだ」



迫力ある一喝により、すっかり固まってしまっている男達を前にして、漁労長は、再び静かな口調に戻り、和馬へと質問をする。



「釣りに行ったと言うが、あんたら、それはいつ頃の話なんだね?」



「1週間位前です」



「船はボートかね?」



「はい」



「ふ〜ん、そうか。釣りをしていてねえ」



和馬の説明に対し、頷きながら一瞬、納得した様な仕草を見せた漁労長だったが、和馬の嘘をすぐに見抜いたのか、冷や汗まみれになった顔を見ながら、ニヤリと笑った。



「あんた、嘘が下手だな。あのなあ、普通に考えてみても、この周辺海域を小型ボートなんかで、1週間も漂流していられる訳がないだろう。それに、今、世の中では、あんな事態が起きているというのに、呑気に釣りに行くという奴なんて、何処にもいねえよ」




『うっ!まずい、もう、ばれた!いや、それよりも、今、言っていた、あんな事態って、いったい何だ?』




「おい、おい、言い返さずに黙っているという事は、やっぱり、俺の言った事が当たっているという事だよな。はあ〜、やれやれ、何で、嘘をつくかなあ」



「……」





「いや、今は、その事については、まあいい。ひとつ聞くが、ここには、援助を求めに来た訳じゃねえのか?」



「いえいえ、別に俺達は、援助をして欲しい訳じゃないんですよ。まだ、持っている食料だって充分に余裕がありますし。ただ、俺達は、ここの現在地名が知りたいのと、電話を貸して欲しいだけなんです」



「電話か……。やれやれ、本当にあんたら、今、世の中で何が起きているのか知らないのか?」



「えっ?世の中で起きている事?それって、何の話です?」



「はあ〜」



和馬と雄太は、漁労長の言っている事が、今一つ解らず、お互いに顔を見合せながら、首を傾げ、その様子を見ていた漁労長は、大きな溜め息をついた後にこう言った。



「あんたらは、電話、電話って呑気に言っている位だから、本当に何も知らないのかも知れんな。まあ、さっきの釣りの話が嘘だとしても、何も事情を知らないっていうのは、信じてやるよ。しかしなあ、今、世の中が、こんな危機的な状況に陥っているというのに、事態を何ひとつ把握していないなんて、なんだか、俺には、とても信じられないな。もしかして、今まで、状況を把握出来なかったのには、もっと他に何か理由があるんじゃないのかね?」



すっかり漁労長に嘘を見抜かれてしまった和馬は、少し、どぎまぎしながらも質問に答える。



「え、ええ。まあ、その、こちらも色々と事情がありまして……。ところで、今、世の中が危機的な状況に陥っているって、おっしゃられましたけど、それって一体何が起こったのですか?」



「う〜ん。それはだな……。いや、まあ、あんたらが何も知らないのならば、今、この場で説明しても良いんだが、それよりも映像として、自分の目で見て納得してもらった方が手っ取り早いだろうな。よし、俺の家に来い。世の中がどんな状況なのかを見せてやるよ」



「えっ?良いんですか?」



「ああ。それから、おい、木村と山下。この2人が腰から下げている山刀を預かっておけ」



「はいっ。漁労長」



漁労長から、木村と山下と呼ばれた男2人は、和馬と雄太が装着しているマチェットの固定ベルトを緩めると、シースごと取り外して、その手へと持った。



「悪いが、念の為、武器になりそうな物は、一時的にこちらで預かっておく。それじゃ、俺の後について来な」



漁労長は、和馬達にそう告げると、屋敷の方へと向かって歩き始め、和馬と雄太も思わぬ展開になったと思いつつも、刃物を持った5人の男に囲まれながら、後について歩いて行く。




平屋造りの立派な日本家屋の玄関前まで歩いて行った漁労長は、玄関扉へと手を掛けると、そのまま振り返り、そのすぐ後ろで、額に滲む冷や汗を手で拭い取っていた和馬と雄太の姿をじっと見つめながら、静かにこう言った。



「それじゃあ、2人共、中に入んな。それから、お前らも、好い加減、そんな物騒な物はもうしまえ。なあに、心配するな。この2人は、何もしねえよ」



和馬と雄太の周りを取り囲む形で立っていた5人の男達は、漁労長の今の一言で安心したのか、お互いの顔を見ながら頷くと、握っていた刃物を腰から下げていた鞘の中へと収めた。

ここで、ガラス張りの玄関引き戸を開けた漁労長は、広々とした玄関内へと入り、履き物を脱いで上へと上がると、真っ直ぐに延びた板張りの廊下へと向かって手を伸ばした。



「さあ、2人共、上がってくれ」

「あっ、はい。失礼します」



「お邪魔します」



木目が美しい檜の材が、ふんだんに使われた立派な玄関内を見回していた和馬と雄太は、急ぎ靴を脱ぐと、先に廊下を歩いて行く漁労長の後ろを慌てた様子でついて歩いて行く。



「いやあ、それにしても、立派なお宅ですね」



美しく磨きあげられたケヤキの板が張られた長い廊下を歩きながら、和馬は、隣を並んで歩く雄太へ向かって、そっと囁く。



「う〜ん。そうだねえ。いやあ、それにしても、こんな立派な屋敷に上がらせてもらう機会はなかなかないよ」



入口の襖が大きく開けられた状態の各部屋からは、今では、入手が困難で希少価値の高い立派な栗材がふんだんに使われた太い梁や美しい彫刻が施された欄間が見えており、正に昔ならではの造りの豪華さを目の当たりにした雄太は、思わず溜め息をついた。



「さあ、この部屋だ。入んな」



先程から見えていた純和風の造りとは、全く雰囲気が異なる応接室の前へと立ち止まった漁労長は、ドアノブを握ると、ゆっくりと回してドアを開け、そのまま部屋の中へと入って行く。



「なんか、この部屋だけ、随分と雰囲気が違いますね。雄太さん」



「そうだねえ。見た所、洋風の造りか」



ドアが大きく開かれた、その先には、高級な桑材が天井や壁一面に使われた部屋の様子が見え、部屋の中央には、黒い本革製のソファーセットと欅の無垢材によって作られた重厚そうな木製テーブルが置かれている他、壁側には、洋酒のボトルがずらりと並べられたサイドボードや大型スクリーンのテレビ、オーディオラックなどが並んで見えている。



「おおっ、これも、また凄いなあ」



「さあ、2人共、遠慮しなくて良いぞ。入んな」



高級感漂う大型ソファーへと、どっかりと腰を降ろした漁労長は、すぐに部屋内へと入る様、和馬達に手招きをする。



「あっ、はい。それじゃ、失礼します」



「まあ、ここに座んなよ」



何処と無く緊張気味に部屋へと入ってきた和馬達に対し、漁労長は、真向かいのソファーを指差しながら、遠慮無く座る様、勧めてくる。



「それじゃ、失礼します」



「ちょっと、レコーダー再生の準備をするから待っててな」



そう言いながら、木製テーブルの中央へと手を伸ばした漁労長は、置かれていた操作リモコンを手に取ると、オーディオラック内に収納されているDVDレコーダーを起動させ、再生準備を始めた。



「これで良しと」



リモコン操作でDVDレコーダーとテレビを起動させた漁労長は、次にスクリーン画面にサムネイル一覧(録画記録内容の一覧)を表示させると、和馬と雄太に向かってこう言った。



「それじゃ、一体、世の中が、どんな事態になっているのか、現状を見せるぞ。恐らく、あんたらは、事実を知って相当に驚くかも知れんが、全て現実に起こっている話だ」



一体、どんな現実を見せられるのかと思い、すっかり緊張状態になっている和馬達に対し、そう告げた漁労長は、早速、DVDレコーダーの再生を開始する……。




一体、DVDレコーダーには、何が録画され、漁労長が告げた驚くべき事実とは、何なのだろうか?

更に、和馬達が知らない空白の2ヶ月間に世の中では一体、何が起こったのだろうか?

最後まで、読んで頂きましてありがとうございます。

第18話「新たな住人」は、いかがだったでしょうか。


さて、次回、第19話からの話の内容についてなのですが、やっと本来のホラー的内容の始まりとなり、残酷な描写も幾つか出て参ります。

話についても血腥い内容となっていきますので、その様な内容が苦手な方は、充分に閲覧注意願います。

それでは、ホラーファンの皆様、次回をお楽しみに!


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