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(15) 脱出計画

読者の皆様、お待たせいたしました。

今回、いよいよ、島からの脱出計画が始動します。

それでは、第15話の始まり、始まり。

島から、脱出できる手段と目標物、更には、希望と可能性……。

この日、新たに手に入れた物は、5人のこれからの未来を大きく変えてゆくに違いない。

ただし、この島からの脱出において、考えておかなければならない事柄が、後もう1つ残されている。

それは、脱出時期のタイミングだ。

今は、季節的には立秋であり、やがて本格的な台風シーズンへと突入してしまうと、頻繁に海が荒れる事により、小型ボートでの出航は出来なくなってしまう。

それならば、出航時期をずらし、台風がやって来なくなる冬まで待つという手もあるが、今度は、北西風の強い日が続き、またしても時化によって、航行が難しくなる可能性がある。

そうなると、この小型ボートで航行できるのは、1度台風が襲来して以降、天候が比較的安定し、海が穏やかである今しか無く、タイミング的にも、すぐに脱出準備を進めておく方が間違いないといえる。

その為、和馬、雄太、大島の3人は、すぐに、この場で話し合い、早急に脱出準備に取り掛かるという結論を出すと、早速、倉庫に保管されている小型ボートを事前に海岸の砂浜まで移動させておく事にした。

現在、小型ボートは、牽引用トレーラー上にロープで固定された状態で載せられており、男3人で力を合わせて押しさえすれば、何とか砂浜までの移動はできそうだ。

そこで、3人は、再び倉庫へと戻り、ボートの周りを囲むと、船体へと手を当て、力をこめながら、砂浜海岸を目指して、ゆっくりと押し始めた。

3人に力一杯押されながら、倉庫入口から外へと姿を現したボートトレーラーは、幾度となく、柔らかな砂にタイヤを取られながらも、50m先の海岸を目指して前進してゆく。

こうして、前進を阻む砂浜を相手に格闘する事40分、ようやく、波打ち際のすぐ近くまで移動を完了させた3人は、額から流れ出る汗を手で拭いながら、ほっと溜め息をつく。



「ふ〜う。何とかたどり着いたな」



「思ったよりも、手こずりましたね」



「そうだね。ふ〜う。やれやれ、腰が痛いな」



タイヤを潜らせてしまう、海岸特有の細かな砂が障害となり、前進には、思いの外、苦戦を強いられ時間が掛かってしまったものの、何とか上手く波打ち際近くまで、ボートトレーラーの移動を完了させた事で、3人は安心した様子でログハウスへと戻っていった。




この日の夜、食堂のテーブル上には、日中、大島が釣り上げた獲物の数々が料理へと姿を変えて、ずらりと並び、5人は、魚づくしの豪華な夕食を迎えていた。

まるで戦利品の如く、鼻高々に大島が持ち帰ったクロメジナ、イスズミ、タカベは、料理上手な礼菜の手によって、刺身、唐揚げ、煮魚へと変身し、食卓を囲む魚好き4人のテンションは随分と上がっていた。

ここで、意外だったのは、魚好きの4人以外、つまり、以前から魚嫌いで、あれほど魚料理には手をつけなかった麻美が、普通に魚料理を食べているという点であった。



「麻美ちゃん、前よりも随分、お魚が食べられる様になってきたね」



「うん。麻美ね。少しずつだけど、お魚食べるの平気になってきたんだよ」



「そうか、そうか。偉いぞ」



「えへへへ」



和馬に誉められた事で、顔を赤くしながら照れ笑いをしている麻美は、別に無理をしながら、魚料理を食べている訳でも無く、どうやら、頻繁に食卓へと魚料理が並ぶせいもあって、自然と魚を食べ慣れていった様であった。

まあ、もっとも、まだ刺身だけは、麻美にとっても、ハードルが高い様で、流石に手を付けてはいなかったが、小皿によそった煮魚と唐揚げは、全て完食していた。



「麻美ちゃん、その食べっぷり、作った私も嬉しいわあ。よし、よし、偉いぞう」



「えへへへ。礼菜先生、照れるよう」



今回、魚料理に腕を奮った礼菜も、これには、作ったかいがあったと嬉しそうであり、思わず麻美の頭を撫で始めた事で、麻美もまた照れ笑いするのであった。

皆で食卓を囲み、美味しい夕食に舌鼓を打ちつつも、自ずと出てくる話題の中心は、もっぱら今日の磯釣りの話であり、上物を釣り上げた大島による、身振り手振りを交えた熱い語りに対しては、釣りに興味の無い女性2人は、流石に少しうんざりしていた様である。




こうして、にぎやかな夕食も終わり、礼菜と麻美がココアを飲みながら、ゆっくりとくつろぎ始めていた時、頃合いを見ていた和馬が、この島からの脱出の件についての内容を伝える為、話を切り出してきた。



「あのう。礼菜さん、麻美ちゃん。大事な話があるんだけど、ちょっといいですか?」



「あ、はい」



麻美と楽しそうにおしゃべりをしていた礼菜は、「大事な話」という言葉を聞くと、すぐに会話を止めて、慌てて和馬の方を振り返った。



「実は、今日、俺達、この島を脱出する為の手段を手に入れたんです」



「えっ!脱出する手段ですって!」



「ええ。これから、その事について、2人に話したいと思います」



念願であった「脱出」という言葉を耳にし、期待を込めた表情で見つめる礼菜と麻美を前にして、和馬は、可動可能状態となった小型ボートに関する情報や航行目標の詳細について語り始めた。

和馬から聞かされた話の内容により、初めの内は、驚いていた礼菜と麻美であったが、もしかしたら、この島を脱出して、再び家族の元へと帰れるかも知れないという可能性を知った事で、一気に高まる期待感から、お互いに手を取り合って喜び始めた。

特に麻美は、やっと両親に会えるかも知れないという嬉しさからか、満面の笑顔を浮かべながら、はしゃいでいる。



「和馬お兄ちゃん。みんなで、そのボートに乗って一緒におうちに帰るんだよね」



「う〜ん。いや、それが……」



みんな一緒に……。

ここで、麻美の口から、返答しずらい言葉が帰ってきた事で、思わず和馬は、言葉を濁した。

実の所、和馬は、今の説明の中で、ボートへと乗る人数については、全く語ってはおらず、どうやら礼菜や麻美は、5人全員が一緒にボートへ乗って島を脱出すると思っている様だ。

まあ、確かに、礼菜達がそう思う事は、ごく当たり前の話であり、和馬にしてみても、出来る事ならば、全員で脱出したいと思う所ではあるのだが、今回の様に長期間の航行を想定して、それに対応した装備品を積むとなると、ボートのスペースから考えて、乗れる人数は、せいぜい2人までであろう。

もしかしたら、この島から脱出出来るかも知れないという可能性に期待し、喜び合っている礼菜達の姿を見ると、和馬としても、わざわざ、その喜びに水を差す様な無粋なまねはしたくは無いのだろうが、それでも事実を伝えない訳にもいくまい。




『う〜ん。とても言いにくい事だけど、でも、やっぱり、今すぐ伝えておくべきだな』




「和馬お兄ちゃん。ねえ、和馬お兄ちゃん」



「和馬君、どうしたの?なぜ、黙っているの?」



急に話をやめて、黙り込んでしまい、何かを考えている様子の和馬を見て、礼菜と麻美が不思議そうな表情を浮かべながら、問いかける。



「実は、ボートの事なんですけど、全員が乗る事はできないんです」



「ええっ!」



全く予想もしていなかった和馬の言葉に礼菜と麻美は驚きの声を上げた。



「全員乗れないって……」



「とても、言いずらい事なんですが、ボートで出航するとなると、航行を続ける上で必要な、まとまった装備品を積んでおかないとならないから、スペースから考えても乗れるのは、せいぜい2人程度なんです」



「2人……」



「あと、それから、もう1つ。最初に向かおうと考えている目標についてなんですけど、その目標というのが、今の所、島なのか、それとも単なる岩の集まりなのか、その辺りが、はっきりとは解らないんです。もし、仮に、それが島だったとしても、運悪く無人島である可能性もあるし、そうなれば、更に航行を続ける必要が出て来ます。その航行だって、現在位置すら解っていない以上、ただ単に北上して行く事だけを考えたリスクの高い賭けみたいな物なんです」



和馬の説明を聞きながら、考えていた予想と現実が大きく異なっている事に気付かされた礼菜と麻美の表情は、高まる不安によって、次第に曇ってゆく。



「和馬君、今の話じゃ、もしかして、それって、命を落とす可能性だってあるんじゃないの?」



「無いとは、いえません。だから、もしも仮に危険な目に会うとしても、出来るだけ、少ない人数の方が良いともいえるんです」



「少ない人数の方が良いっていったって、そんな……。仮にそれで、2人で、そのボートを使って出航するにしても、いったい誰が行くの?」



「それは、俺が……」



話を聞く内に、次第に、この計画が無謀な物に思えてきたのか、眉をひそめている礼菜を前にして、今度は、雄太が変わって答える。



「誰が行くのかについては、体力的な面から考えても、若い人間が行くのが一番良いと思っている。だから、今の所、俺と和馬君が行く予定で考えているんだ」



「誰が行くのかについては、解ったけれど、具体的な出発の日にちについては、これから考えるのよね?」



「いや、実は、もうそれは決まっているんだ」



「えっ?」



「出発は、明日なんだよ」



「ちょっ、ちょっと!明日ですって!なんで、また、そんな急に……」



それは、余りにも無謀過ぎやしないかと驚き、唖然とした表情になっている礼菜に対し、今度は、和馬が代わって説明をする。



「確かに今の話を聞いて、礼菜さんが、驚くのも無理は無いと思います。でも、俺達が出発を急いでいるのには訳があるんですよ」



「訳?」


「ええ。実を言うと出航する為には、天候が大きな鍵になっているんですよ。これから、台風シーズンを迎えて、低気圧が頻繁に発生する様になると、その度に海が荒れて船が出せなくなるんです。だけど、今だったら、数日前に海が荒れて以来、晴天の日が続いています。雲の様子を見ても、今の所は、天候が下り坂になる兆候も見られないので、出発するなら今がチャンスなんです。俺も雄太さんも体調は、万全だし、必要な装備さえ整えてしまえば、すぐにでも出発しない手はありません」



「でも、危険なんでしょ。脱出できるって、はしゃいでいた私が言うのも何だけど」



「確かに礼菜さんが心配する様に、今回の行動には、大きな危険が伴っています。でも、俺は、せっかく手にした、このチャンスを見す見す逃してしまう手だって無いと思うんです」



「それは、そうなんだろうけど……。ねえ、大島さんは、この話を知っていたの?」



「ああ。この件については、あのボートの整備が整った時点で、私達3人で話し合ったんだよ。もちろん、私だって、出来る事なら、危険な行動は避けるべきだとは思っているよ。でも、今回の行動は、例え、危険だと解っていても、やり遂げる事が出来れば、得られる成果だって大きいんだ。それに、もしかしたら、これが、私達が元の日常へと戻れる最後のチャンスかも知れない。だから、私は、この計画を聞かされた時、このチャンスに賭けてみる事にしたんだよ」



「そうなの……」



ここで礼菜は、急に反論する事を止め、目を閉じたまま、静かにうつむいた。



「ところで大島さん。明日の出発時間を決めておく為に、1つ聞きたいんですけど、今日の潮の引き始めは、何時頃だったか解りますか?」



「う〜ん。そうだなあ。確か、朝8時頃から引き始めたかな」



「8時頃ですか。そうすると、外海へと出る時に正面からの波を受けにくい、その時刻が出発の時間になりますね」



「そういえば、和馬君。装備品について聞きたいんだが、どういった物が必要になるんだね?」



「まずは、1週間分の食料と水、それから、予備のガソリンが必要です。あと、その他に必要な物については、リストに書いて渡します」



「よし、解った。それじゃあ、まずは、食料と水、燃料を準備するとしようか。和馬君、リストの方は頼むよ」



「解りました。それでは、みんな、準備を始めるとしましょう」



「そうしよう」



「……そうね。始めましょう」



やっと、ここで礼菜も計画に納得し、これより、5人は手分けして、脱出計画に必要な装備品を集め始めた……。

最後まで、読んで頂きまして、ありがとうございます。

第15話「脱出計画」いかがだったでしょうか。

次回、第16話では、いよいよ和馬達が、ボートによる島からの脱出を開始します。

お楽しみに!




PS.第2章からのストーリーの加筆修正を始めました。

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