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(14) 新たなチャンス

読者の皆様お待たせいたしました。

今回の話のキーワードは「点火プラグ」

打ち上げられた小型ボートに使われている点火プラグは、果たして、別のボートへと転用が出来るのでしょうか?

そして、島からの脱出の可能性は?


それでは、第14話「新たなチャンス」の始まりです。


和馬がログハウスへと戻ってから20分後……。

プラグレンチセットを携えた和馬が雄太を連れて磯場へと戻って来た。



「和馬君、あれが、話していたボートかい?」



「ええ、釣りをしていた時に、偶然、打ち上げられていたのを見つけたんですよ」



「そうか。多分、数日前、海が荒れた時に高波で岩場に乗り上げたんだな。しかし、それにしても、船体は酷い状態だなあ」



「ええ、全体的にコンディションは悪いですね」



余りの状態の悪さに、思わず眉をひそめた雄太は、船体側面を前にして座り込むと、無数に開いた小さな穴を指でなぞった。



「この穴は、いったい、どうして開いたんだろう?なんだか、この穴、銃痕の様にも見えるが……」



「いやあ、まさか、銃痕だなんて」



「まあ、そうだよなあ。そんな訳は無いよな。しかし、このボートが漂流した理由といったい持ち主がどうなったのかについては、ちょっと気になるなあ」



「確かに、このボートに乗っていたのだとしたら持ち主の安否が気になりますね」



「それか、或いは、最初から誰も乗ってはいなくて、無人のまま漂流していたのか?まあ、いずれにしろ、俺達には、わからない話だけどね。よし、その件は、一先ず、置いといて、先に作業の方を進めよう」



雄太は、和馬が持って来たバッグを開け、中から、サイズの異なる幾つかのプラグレンチを選んで取り出すが、隣にいる大島は、その様子を不思議そうな表情で見ていた。



「雄太君、プラグレンチなんて、良く見つけたねえ」



「あ、それはですねえ。ほら、ここでは、自家発電用として、ガソリン発電機が使われているでしょう?このガソリン発電機って、エンジン内に点火プラグが使われているんですよ。だから、メンテナンス用にプラグレンチが置かれていたみたいなんです」



「成る程、そういう訳か」



「さあ、それじゃあ、プラグを外してみるとしますか」



これから、作業に取り掛かる為、ゆっくりと立ち上がった雄太は、まずは、黒いエンジンカバーの留め金を外すと、両手でしっかりと持ち上げ、傍らへと静かに置いた。



「う〜ん。エンジンの状態は確かに良くはないけど、点火プラグまでは影響を受けて無いかも知れないな」



エンジンカバーが外された事により、剥き出しとなったエンジンヘッドの下部分には、赤いプラグコードが、点火プラグへと向かって延びており、雄太は、プラグコードの接続部を指で摘まむと、そのまま力を込めて引き抜いた。

次に、各サイズ用意したプラグレンチの中から、適合するサイズのレンチを選び出した雄太は、碍子部分が剥き出しとなった点火プラグへとプラグレンチをセットし、ゆっくりと回し始める。

何回が回す内に、ネジ山部分が緩み、点火プラグが外れた事が解った所で、一旦、プラグレンチを外し、点火プラグを抜き取った雄太は、そのまま、つまみ上げ、電極部分の状態を確認し始めた。



「う〜ん。点火プラグの状態は悪くない様だ。後は、例の倉庫にある、あのボートのエンジンに、上手くこいつが適合するかどうかだな」



「よし、じゃあ、早速、そのプラグを持って、倉庫の所に行ってみるとしよう」



「そうだ。ガソリンの方も用意しないといけませんね」



「そうだね。一旦、ログハウスに戻るか」



岩場に放置したままの釣り道具を手早く片付けた和馬達3人は、準備を整える為、一旦、ログハウスへと戻っていった。




1時間後……。

和馬、雄太、大島の3人は、以前の探索の際に発見した小型ボートが置かれている例の倉庫へとやって来ていた。

この小型ボートを発見してから、あれから、もう2ヶ月が過ぎていたが、持ち主が倉庫を訪れた形跡は、特には見当たらず、ボートは、和馬達がここを立ち去る際に見た状態のままであった。



「あれから、誰もここには、来ていないみたいだな」



「ええ。持ち主が来なかったのは、かえって好都合だったかも知れませんよ。なにしろ、知らぬ間にボートが持っていかれる事も無かった訳ですから」



「とはいっても、それでも、俺達は、持ち主を待っていた事には、違いないんだよな。ただし、今回みたいな場合は、逆に好都合になったという訳か。う〜ん、何だか、複雑な気分だな。まあ、いいか。じゃあ、ボートに掛けてあるシートを外すとするか」



積載用トレーラーに載せられた小型ボートの前へと立った雄太は、上に掛けられているブルーシートの端を掴むと、そのまま横へと、引っ張り始める。

徐々にブルーシートが外され、船体の全てが、姿を現した所で、大島が船体へと近づき、状態をチェックし始めた。



「これが、君達の言っていた小型ボートか。あ〜、確かに外観的にも良い状態だね。取り敢えず、船体には問題が無いとして、後は、このエンジンに例の点火プラグが適合するかどうかだな」



「そうですね。じゃあ、早速、プラグを取り付けてみましょう」



ボートの船尾側へと移動した雄太は、船外機のエンジンカバーを固定している留め金のロックを外すと、カバーをゆっくりと持ち上げ、地面へと下ろした。

次に雄太は、用意しておいたプラグレンチを手に取り、剥き出し状態となっているエンジンヘッドの下部分を覗き込むと、プラグ孔にねじ込まれている六角ボルトを取り外し、先程、手に入れた点火プラグをセッティングしてゆく。



「どうですか?雄太さん」



「どうやら、ネジのピッチは上手く合っている様だな。あとは、熱価の番数が適合してくれれば、完璧だ」



雄太は、手慣れた様子で、セッティングした点火プラグをプラグレンチで、しっかりと締め付けると、プラグ先端部分にプラグコードを接続させた。



「よし。後は、燃料だな。それじゃ、和馬君、頼む」



「了解です」



用意しておいたガソリン燃料携行缶を持ち上げた和馬は、給油口のキャップを外すと、給油ノズルを燃料タンク給油口へと当て、ゆっくりとガソリン給油を開始する。

薄赤く着色されたガソリンが、ノズルを通って、半透明の燃料タンクへと注ぎ込まれ、やがてタンク内が、満タンになった所で、和馬は給油を止め、燃料キャップを閉めた。

最後に、先程、地面へと置いたエンジンカバーを持ち上げると、元の状態にセッティングし、全ての留め金をロックした。



「よし、これで、準備は整いました。雄太さん、エンジンを始動させて下さい」



「了解した。それじゃ、いきます」



エンジン始動用のスターターロープを手に取った雄太は、固唾を飲んで見守っている和馬と大島を見て、小さく頷いた。

この島からの脱出の全てが、今、目の前にあるエンジンの始動にかかっている事を充分に理解している2人は、期待を込めた眼差しで雄太を見つめ、同じ様に頷く。



「頼むぜ。かかってくれよ」



雄太は、期待を込めながら、握ったスターターロープを勢い良く引っ張る。

しかし、雄太の願いも空しく、エンジンは掛からない。



「くそっ!もう1度!」


雄太は、諦める事なく、再び、スターターロープを勢い良く引いてみる。

ここで、船外機本体は、1度だけ、大きく振動し、エンジンが始動する様な兆候は見せたものの、残念ながら、まだ始動には至らない。



「始動しそうな手応えはあるな。よし、もう1度」



雄太は、再度、スターターロープを引き、エンジン始動を試みる。



「頼むぞ。ん?」



雄太の強い願いがかなったのか、やっと船外機本体が、2度、3度と大きく振動し始め、徐々に連続した力強い音を響かせ始めた。



「よしっ!掛かった!さて、次は、これだな」



4サイクルエンジンの始動を確認した雄太は、エンジン近近から、大きく伸びた黒いスロットルバーを握り、ゆっくりとスロットルを上げ始める。

徐々に高まってゆく、エンジン音と共に、排気口からは、青白い排気煙が上がってゆく。



「よし!上手くいった!」



「雄太君、お見事!」



「いやあ、何とかなるもんですね」



すっかり、緊張した面持ちで、一連の作業を見守っていた和馬と大島であったが、期待した通りの結果に満足すると、笑顔を見せながら、思わず手を叩き始めた。


「何だか、少し、エンジンがくたびれている感じもしますけど、まあ、取り敢えず、これで良しとしましょう」



ここから、少しの間だけエンジンを回し、アイドリングにも問題が無い事を確認した雄太は、徐々にエンジンスロットルを下げ、最後にエンジンを停止させた。



「さて、これで、この島から脱出する為の必要なアイテムが手に入った訳だな。後は、これから、どうするかだね」



両腕を組んだまま、期待を込めた眼差しで、白い船体を見つめている大島に対し、和馬が答える。



「大島さん。もちろん、これから、すぐに脱出の為の準備に入ります。それで、少し前に雄太さんとチラッとだけ話したんですけど、脱出に関して少し気掛かりな事があるんです」



「気掛かりな事?」



「ええ。俺達、ここに連れてこられてから、もう2ヶ月が過ぎて、そろそろ夏も終わりになりますよね」



「そうだなあ。暦の上じゃ、もう立秋だもんな。え?それと、気掛かりな事とは、どう関係があるんだい?」



「実は、秋になるという事は、これから、台風時期に入るという事なんです。ほら、つい、この間も、大きな台風が来たばかりでしょう」



「ああ、そうだったなあ」



大島は、つい1週間程前、台風が、この島を直撃し、大荒れ状態に見舞われた事を思い出した。



「確かにあれは、でかかったなあ。でも、そのお陰で、オンボロ小型ボートという良い拾いものをしたんだよな」



「ええ。あれは、確かに俺達にとっては、宝物を持って来てくれた様な物だから、台風様々では、あるんですけどね。ただ、これから次々と接近して来る台風については、船の出航の妨げになる訳ですから、その点が気掛かりなんです」



「確かに海が時化て、大荒れにでもなれば、出航なんてまず無理だろうからなあ」



「その為にも、脱出計画は急ぐ必要が出てくる訳です」



「なるほど、台風接近前に、ここを脱出してしまおうという訳か。それで、すぐに脱出準備に入る事は、解ったんだが、脱出というのは、5人全員かね?私から見ると、この小型ボートでは、定員ぎりぎりではないかと思うんだが……」



明らかに不安そうな表情になっている大島の言う通り、このボートの大きさでは、乗船は5人どころか、どう見ても4人がやっと、という感じである。



「大島さん。このボートじゃ、流石に5人全員は無理ですよ。それに航行する為には、ボートに食料や水、予備の燃料も積まなくてはならないし、最終的に積み込む装備品量は、かなり増える筈です。だから、積み込む装備品の量を考えると、乗れるのは、せいぜい2人といった所ですかね」



「2人か。そうか……」



「なんだか、期待を裏切る形となってしまって、申し訳ないんですけど、今回の場合は、全員で島を脱出するというよりも、誰か2人が、島を出て助けを呼びに行くと考えた方が良いと思います」



「う〜ん。そうか」



「大島さん、和馬君。実は、この島を出る事について、1つ問題があるんだけど……」



「問題?」



雄太からの気掛かりな発言に対し、和馬と大島は、思わず顔を見合わせる。



「うん。その問題というのが、俺達が、この島の現在位置を全く解っていない点なんだ。つまり、位置や周辺海域の状況が、解っていなければ、これから向かうべき目標だって解らない」



「う〜ん。確かに、これじゃあ、島を出たとしても、どこに向かったら良いのか解りませんね」



「そうなんだ。こんな時、航行する上での唯一の頼りになるのが、コンパスになる訳だけど、それでも、やっぱり海図や位置情報を持っていないのは痛いんだよね。でも、まあ、無い物は、どうしようも無い訳だから、コンパスの針が指す方角を頼りにして、北へと前進しようかとは、考えているんだけど」



「北か。確かに、この島が、もしも南の方角に位置しているのだとしたら、北上すれば、本土に到着する可能性は高くなるな」



「ただ、やはり、気掛かりなのは、針路上に目標物が無い上にコンパスだけを唯一の頼りにしようとしている状況なので、行動自体が、ある意味、賭けに近いという事なんですよね。たとえ小さな島でも良いから、何か目標になる物があれば、安心度もまた違ってくるんだろうけど」



確かに、雄太が今、言った事は、もっともな話である。

全く現在位置も解らぬまま、コンパスのみを頼りにして、目標も無しに大海原に出るという事は、その分、危険度も上がり、そのまま遭難へと繋がるリスクも高い。

せめて、最初に目指す目標物位は、何とかならないものなのかと腕を組んだまま、考え込む和馬と雄太を見ていた大島が、急に何かを思い出したのか、こんな事を言ってきた。



「目標物か。あれが、目標となる島かどうかは解らないんだけどな」



「大島さん。あれって、何ですか?」



「いや、さあ。それが、島だという確証は無いんだが、それらしき物をつい最近、見つけたんだよ」



「えっ!本当ですか!それで、その島らしき物ってどこなんです?」



「ああ、案内するよ。でも、本当に島なのかどうかは、解らないよ」



これから、2人を案内する為に倉庫を出た大島は、砂浜海岸へと向かって歩き始め、事態の好転を期待する和馬と雄太も、その後について歩いてゆく。



「雄太君。すまないが、君が持っている双眼鏡をちょっと貸してくれないか?」



「あ、はい。どうぞ」



「ありがとう」



海岸へと到着し、砂浜にて立ち止まった大島は、雄太が差し出した双眼鏡を受け取ると、目の前に広がる水平線のとある方向へとレンズを向けて覗き込んだ。



「ええっと。ああ、あれだ、あれだ。ほら、雄太君、あれを見てごらん」



大島から、双眼鏡を受け取った雄太は、大島が手を伸ばして指し示す方向へとレンズを向けるとピントを調整しながら覗き込んだ。



「あっ!あれか!」



広がる水平線の先に、大島が指し示していた目標物を見つけ出した雄太は、それが本当に島であるのかどうかを見極め様と目を凝らして確認を行うが、海面上に漂う(もや)が、視界を遮ってしまう事により、どうしても島だという確信を得る事は出来なかった。



「確かに何か、それらしき物は見えますけど、余りに輪郭がぼやけていて、ここからじゃ、島なのか、岩場なのか、いまいち判別がつきませんね。それに距離感も、いまいち掴めないから、本当の大きさが良く解らない……」



「そうなんだ!だから、私も、あれが本当に島なのか、どうかについては自信がなかったんだ」



「あのう。雄太さん。俺も、ちょっと見させて貰ってもいいですか?」



「あっ、ごめん、ごめん。和馬君、ほら、あそこだ」



雄太から、双眼鏡を手渡された和馬は、雄太が指し示す方向へとレンズを向け、同じ様に確認してみる。



「ん?どれどれ。ああ、あれか。あれじゃあ、確かに解りにくいですね。これが、もし冬場だったら、空気が澄んでいますから、遠くまで見渡せるんでしょうけど、海水温や湿度の高い今時期では、どうしても靄が発生してしまうから、見えないのは仕方ないと思うしかありませんね」



これ以上、確認を続けても無駄だと諦め、双眼鏡を下ろした和馬は、雄太へ双眼鏡を戻すと、今度は、ポケットからコンパスを取り出し、島影らしき物が位置している方角について調べ始めた。



「どうやら、あの島影らしき物は、方角的には、北西の方角に位置している様です。という事は、この島を出航した際に北の方角を目指すのであれば、まず、あの島影らしき物を最初の目標として考えてみても良いんじゃないかと思います」


「そうだな。北西の方角か。こいつは、都合が良いな」



まずは、海上に浮かぶ島影らしき物を第1目標として考える和馬の意見に雄太や大島も賛成する。



「やはり、少しでも、人に出会える可能性があるのなら、行ってみるべきだろうな」



「そうですね。まずは、行ってみない事には、何も解らないですしね」



「ようし、そうと決まったは、早速、準備に取りかかるとしますか」



和馬の一声に、雄太と大島は大きく頷いた……。

最後まで、読んで頂きましてありがとうございます。

次回は、7月初め辺りに投稿予定です。

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